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Think Globally. Contribute Locally

OISTフォーラム2018

世界的視野と社会貢献
―科学の役割とは?

本年1月13日、東京・有楽町朝日ホールでOISTフォーラム2018「世界的視野と社会貢献――科学の役割とは?」が開かれました。イノベーションとは何か。科学者はいかにして地域経済に貢献しつつ、地球規模の課題に取り組むべきか。若い世代が科学を学びイノベーションを起こしていくために、大学は何をすべきかなどについて、活発な意見が交わされました。

人類の英知の上に立ち、世界を変えるイノベーションを起こそう

開催にあたって

技術開発とイノベーションにおける世界的視野と地域貢献

沖縄科学技術大学院大学
技術開発イノベーションセンター R&Dクラスタープログラムセクション
技術移転セクション シニアマネージャー(理学博士)
市川尚斉

 本フォーラムでは、起業や機関の設立、大学の運営などを経験し、グローバルな視点を持って活躍されている専門家の方々によって、世界的視野と社会貢献の意欲に富む人材を育成するために、教育機関はどのような役割を果たせるかといった議論を進めていきます。

 主催者である私ども沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、国際的に卓越した科学技術に関する教育研究を実施することにより、沖縄の自立的発展と世界の科学技術の向上に寄与することを目的に、2011年に設立されました。この目的を果たすべく、OISTは研究室から生まれる発明を社会的・経済的利益をもたらすイノベーションに発展させようとして、さまざまなプログラムを実施しています。PoC(概念実証)プログラムはもとより、今後は有機的なネットワークを持つインキュベーターの設立などにも取り組みたいと考えています。いずれはアジア・太平洋地域の知の交流拠点となることを目指し、邁進してまいります。

基調講演1

グローバリゼーションと科学技術
―グローカルなAPUのチャレンジ―

立命館アジア太平洋大学(APU)学長
出口治明

 人間は見たいものしか見ない。これはカエサルの言葉です。皆、色眼鏡で世界を見ているということで、ちゃんと見ようと思ったら方法論がいるわけです。僕はこれを「タテ・ヨコ・算数」と呼んでいます。タテは歴史。ヨコは世界、他国の出来事。算数はエビデンスです。

 若い人たちの多くは、日本の未来は暗いといいます。少子高齢化で、自分たちの世代が高齢者を背負わねばならないからです。でも、ヤング・サポーティング・オールドという考え方は、人口増加や高度成長を前提にしたガラパゴス的な発想ではないでしょうか。日本に先駆けて少子高齢化が進んだヨーロッパでは、およそ20年前にオール・サポーティング・オール、つまり困っている人をみんなで支える社会に移り変わっています。

 政府は今、働き方改革を推進しています。しかし、長時間労働や出生率の低下、待機児童などの問題は、21世紀になって産業構造が変わったにもかかわらず、20世紀に社会を牽引した製造業の工場モデルが根強く残っているからだと思います。日本の戦後の高度成長の秘訣は性分業にありました。男性は外で長時間働き、帰宅したら「飯、風呂、寝る」で女性に世話をしてもらった方が、生産性、社会全体の効率は高かったわけです。ところが、バブル経済が崩壊し、サービス産業の時代になった今でも、昔のまま長時間働いているから生産性は落ちる一方なのです。

 僕は「飯、風呂、寝る」を「人、本、旅」に切り替えましょうと提案しています。いろんな人と出会って話をする。本を読んで、さまざまなことを学ぶ。現場に行って多くのこと実感し経験する。この3つでしか人間は賢くなれません。イノベーションを起こすアイデアも「人、本、旅」から生まれる。あるいは、知識☓考える力がイノベーションなのです。

 大学は、これから社会に出る若者の知識を増やし、考える力をつけさせる場所です。勉強して、自分の頭で考えて、既存の知を自由に組み合わせてみることがイノベーションの基本です。このようなことができる人間を育むことこそが、21世紀の大学に課せられた使命だと思います。

基調講演2

よりよい世界を作るために、創造的ポテンシャルを解き放とう!
―ビックビジョン、スモールステップ!―

S&R財団理事長
久能祐子

 私はこれまで科学者として研究員生活を送り、その過程で出会った上野隆司博士をビジネスパートナーとして2つの会社を創業し、2つの新薬を創生しました。

 ファースト・イン・クラスの開発は非常にリスクの高い仕事です。成功率は数万分の一、開発期間は15年以上、開発費は数百億円といわれているからです。「リスクは怖くなかったのか」とよく尋ねられますが、怖くはありませんでした。なぜなら、私には目の前にある山の頂上=ゴールとそこに続く道が見えていた、つまりまだやってもいないのに自分にはできると思える自己効力感、self-efficacyが高かったからだと思います。

 この感覚をスタートアップする人たちと共有し、イノベーションを完成させるために、14年にワシントンD.C.に科学者やアーティストを支援する「ハルシオン・インキュベーター」を設立しました。私はイノベーションとは、社会に受容されたときに起こるインパクト、逆にいうと社会に受容されて初めて世界を変えるイノベーションになると考えています。

 また、イノベーションには2タイプあります。1つは発明・発見からなるもの、つまりゼロから1を作り出す力で、個人にできることです。しかし、この1の力を増幅させイノベーションにしていくには、段階的にチーム、組織、社会の力が必要になります。もう1つは問題・ニーズの解決から起こるイノベーションです。ゼロ1タイプの科学者と、問題・ニーズを抱える人(社会)がいかにして接するか。その機会をもたらすのが、インキュベーターの大切な役割です。

 科学では必ず仮説を立て、パイロット実験を行い、成功したら規模を拡大していきます。そのときに大事なのは、10回やって1回成功する、その1回に落し込めるストラテジーと、簡単にスケールアップできるシステムを作ることです。そして先々を見通し、社会的アウトカムや社会的インパクトを評価するメジャラブルな考え方をしていくと、科学とイノベーションがきれいにつながると思います。

パネルディスカッション

パネリスト

  • 理化学研究所 生命システム研究センターチームリーダー
    未来戦略室イノベーションデザイナー
    髙橋恒一氏
  • 一般社団法人Glocal Academy理事長
    岡本尚也氏
  • TEDxTokyo・東京インターナショナル共同創始者、
    シンギュラリティ大学ジャパン プログラムディレクター
    パトリック・ニュウエル氏
  • 沖縄科学技術大学院大学博士課程学生
    ジェームズ・シュロス

モデレーター

  • ネイチャー・リサーチ編集開発マネージャー
    ジェフリー・ローベンズ氏

世界にはばたく若い世代へ

J・ローベンズ

ローベンズ まず、イノベーションとは何か。シンプルでありながら、複雑な答えが必要になる問いかけをしたいと思います。

ニュウエル 英語のイノベーションの語源は、古いラテン語のイノベーティス、「新しいものを導入する」に由来します。つまり、新しいことをやる、何か変化させることに参画することといえるでしょう。新しいことをやるにあたっては、既知の領域ではあるものの、お互いに今までつながっていなかった点と点を結び付けることが必要になります。そのことによって、新しいものを作り出し、イノベーションを促していくことができるのではないかと思います。

髙橋 日本ではイノベーションを新しい技術という意味で捉えがちです。しかし、もともとイノベーションという言葉を考えた経済学者のシュンペーターは、イノベーションとは単なる新技術ではなく、その技術が新しい社会的価値を生み出すときに、それが新技術からイノベーションになるといっています。また、イノベーションは科学・工学的な技術に限らず、ソーシャルな技術も含まれます。例えば、仕事のやり方を変えて効率を上げたというのも、イノベーションの範疇です。さらにイノベーションは、しばしば破壊的で、従来の社会構造や価値観を劇的に変えてしまうことがある。ですので、イノベーションといったときに、技術論だけではなく、社会でこれをどのように受容していくかという議論も大事だと思っています。

シュロス 私の定義は単純明快。今あるものを何らかの形で改善することです。技術でも芸術でも、どんな領域でも構いません。ニュウエルさんもおっしゃっていましたが、今まで交わりのなかった研究領域をつなぐことで、新しいイノベーションが生まれるかもしれません。OISTはそのような学際的な領域でイノベーションをグローバルに促進しているといえるでしょう。また、近年においてアインシュタインのようなスーパースター的な科学者が出てきていません。しかし、驚くような才能を持った人たちが力を合わせて、変化を起こそうとしていることは確かです。これからはスーパースターはいなくても、個々の科学者が大規模なコラボレーションを行うことで、社会を変えるイノベーションを実現していくと思います。

岡本尚也

岡本 私は、何か新しい価値を生み出すものはすべてイノベーションといってもよいと思っています。そのとき、イノベーションは直線的(リニア)な変化を生むものと、曲線的(ノンリニア)な変化を生むものに分けられると考えています。リニアな変化の例は、新し洗濯機が作られ、洗濯時間が20分短縮されたことによって、何か新しいことができるようになるといったこと。これまで日本人が比較的得意としてきた、ちょっとした変化を生むようなものです。ノンリニアの方は、例えば今日のスマートフォンのようなものです。リニアな変化や情報がどんどん集積されて、製品のコンパクト化、多機能化が進んでいく。それがノンリニアの変化につながるのではないか。リニアな変化の組み合わせによって、ノンリニアが生まれてくるのかなというふうに考えています。

ローベンズ 皆さん、ありがとうございます。すばらしいインサイトがたくさんありました。では、次のテーマに移ります。科学者はいかにこの地球規模の課題に取り組みながら、地域経済にも貢献できるかを論じていきましょう。

ニュウエル 科学者はサイエンティフィックな側面を持っていますが、その一方で毎日毎日意思決定をして新しいものを生み出しています。そういう意味で科学者はイノベーティブであり、非常にクリエイティブでもあるのです。そんな科学者が地域について考えるときには、そもそもなぜ地域にイノベーションが必要なのかと、少し俯瞰する必要があります。1つのアプローチとしては、イノベーションが不要なものは何か、変わらずに持続させるべきものは何かを考えることです。その上で、何かをよりよく変えていきたいのであれば、ぜひ問題を解決するためのプロトタイプを作ってみてください。今の時代、非常に低コストで試作ができるようになりました。そのプロトタイプが、自分たちのコミュニティーでうまく機能するかもしれませんし、もしかしたらほかのコミュニティーで、いや、もっとグローバルなレベルへ拡大・適用しても効果が出るかもしれません。そんなふうにローカルからグローバルへ展開していってもよいのではないかと思います。

髙橋恒一

髙橋 グローバルとローカルについては、考えなくても自然に両立できると思っています。理由は2つ。AIの民主化を謳うあるグローバル企業とそのグループでは、拠点であるシリコンバレーで行う研究開発はすべてその企業のプラットフォームと結合しており、新しい技術が出るとすぐその他の技術に反映されるようになっています。そして、その企業グループのサービスが改善されると、その恩恵を即座に世界中の人々も受けられるのです。もう一つ。20世紀は第二次産業革命、つまり製造業中心の時代で、テクノロジーは大量生産・大量消費のためのものでした。ところが1990年代半ばから第三次産業革命といわれるIT革命が起き、現在は第四次産業革命であるAI革命が進行中です。情報技術、AIを駆使すれば、個々人や地域ごとの特性に合わせて、製品やサービスのカスタマイズが非常にきめ細かくできます。今の時代、ローカルとグローバルへの貢献は同時に起き、かつ両立できている。若い世代は、いかにハイインパクトな技術を創出していくかだけを考えていれば、結果として両方に貢献できると思います。

シュロス 自戒を込めていうと、科学者はコミュニケーション下手です。ところが、科学者の最もよいグローバルの貢献のあり方は、いい科学をすることです。できればそれをオープンにして、誰もが簡単にアクセスできて、しかも見て読んで分かるものにすることです。例えば、気候変動について知らない人が学びたいと思っても、学べないのでは困るわけです。ですので、科学者はコミュニケーターとしての力ももっとつけて、若い人たちに自分たちのやっていることに興味を抱いてもらわなければいけません。私たちのやっていることは決して魔法ではなく、ちゃんとした手法に基づいたものであり、しっかりとした裏付けがあることを理解してもらう必要があるのです。髙橋先生がおっしゃったグローバルとローカルは両立するということに、私も同感です。ただ、ローカルを基盤に活躍する科学者という立ち位置もいいと思います。例えば、私は沖縄の子どもたちにアルゴリズムを教えていますし、OISTでも沖縄の人たちをオープンキャンパスに巻き込んでいます。人々に教育を提供し、そこから社会にエンパワーメントし、イノベーションをより高進させていくことも可能だと思います。

岡本 科学者が直接、地域経済に貢献するのは難しいと思います。ですが、科学者がものを論理的かつ客観的に考える方法を知っている人間だとすれば、3つの役割を担っていると思うのです。まず、地域経済・社会をよりよくするためには何が問題なのかというデータをしっかり提示してあげること、つまり知のプラットフォームを準備してあげる役割があります。そして、この知のプラットフォームを活用する人を育て、問題解決に向けたアプローチの仕方を教えるハブとしての役割。さらに、社会が抱える問題や、今起こっていることに警鐘を鳴らす役割もあります。つまりアナウンスする力で、近年重要性が高まっています。この3つの役割を果たせるようになると、直接的ではないにしろ地域経済に貢献しつつ、地球規模の課題へも貢献できるのではないかと考えています。

ローベンズ では、最後のテーマです。若い世代が科学やイノベーションに取り組むために科学者や大学・研究機関は何をするべきなのか。また、彼らが科学やイノベーションに取り組む際に直面する最大の障壁は何かについて、意見をお願いします。

P・ニュウエル

ニュウエル この1年間に、私は10社の日本企業と仕事をする機会に恵まれました。求められた役割は産学連携の橋渡しです。これらの日本企業はこの30年間、イノベーションがまったく進んでおらず、知の拠点である大学に支援を求めたわけです。しかし、大学の方にもガイドラインがあり、クリエイティブであれ、イノベーティブであれという意識が必ずしも高いわけではありませんでした。ということで、一番の障壁は若い世代にかかわっている大人や教育システムにあるような気がします。もちろん、文部科学省は教育改革を進めていますが、現状では日本の教育システムは子どもたちの役に立っていません。イノベーションを促進するのに必要なのは、3歳の子どもが持っているような好奇心と自然観です。成長していっても好奇心がそのまま残るように、大人が子どもの邪魔をしないこと。新しいことに取り組んでリスクも受けて立つようにする教育が必要なのです。協調性も大切ですが、自由に競争させることはもっと大切です。また、科学といえども自然の中から学ぶことはたくさんあります。科学と自然をつなぐことは、好奇心を生み、明るい未来につながることになります。

髙橋 若い世代が直面している最大の困難はシンギュラリティーでしょう。人間の想像力を超えて技術進歩が加速し、私たちの生活、家族像、雇用、価値観など、社会のあらゆるものが変化していく中で、自分の知的好奇心を追求することで新しい技術が生まれれば大いに結構という20世紀型の考え方は通用しません。目指すべき未来社会のビジョンの下、今後どのような研究をすべきかというバックキャスティングが不可欠です。個の幸福、社会全体の利益、そして個と全体をどう調和させてゆくか、という3つの視点が大事です。極端な例ですが、「あなたが明日、この人と結婚すれば子孫が繁栄しますよ」とAIに言われて、それに従うかどうかです。従う方が社会全体の利益にはなるが、個人にとっての幸福でもあるかは自明ではない。それぞれの視点を融合させて考えていく必要があります。

J・シュロス

シュロス 若い人たちが抱える問題の1つは無気力だと思います。実は十分才能があるのに、大学を落第してしまった友人がいます。こういう人たちがもっと科学を追究して、社会を変えていこう、世界を変えていこうという意識を持てるように、教育機関や先輩科学者が導いてくれたらと思います。今、私たちはインターネットさえあれば、まさに人類が持っているすべての知を指先の下に集めることができます。これまでなかったこと、誰もやっていないことに挑戦するのはとてもいいことだし、実行するチャンスは無限にあるはずです。そういう意味ではOISTのような国際的なネットワークを形成し多くの人とつながれる場所、正しいコミュニティーにいれば、正しい方向へ導かれていくのではないかとも思います。

岡本 若い世代に伝えたいのは小さな変化、小さな進歩をものすごく大切にしてほしいということです。例えば、通学路で近道を見つけて往復時間が短くなったでもいいし、歴史の勉強をしたことで自分の住んでいる街で過去に何があったかを知り、新たな価値を見出すでもいい。何かを学んだり、行ったりすることで、新しい小さな前進があったということを、まず経験しておいてほしいのです。それが大学に入ったとき、自分の学びにはどんな意味があるのか、それが何に繋がっていくのかに結び付いていくからです。ニュートンが「なぜ、あなたはそれだけ偉大な業績が残せるのか」と尋ねられたときに、「巨人の肩の上に立っているからだ」と答えたそうです。ニュートンは、これまでの科学者が残してきた人類の英知の上に立っているから、より遠くが見通せるのだといっているわけです。研究者や科学者はもちろん、社会も長い歴史を通じて集積されてきた英知の上に立つことによって前進がある、自分は何かを変えることができるんだと信じてほしいと思います。

ローベンズ パネリストの皆さん、すばらしいインサイトをありがとうございました。

 イノベーションとは何か、これを促進するためには何が必要か。そして、科学はグローバルとローカルの双方にいかに貢献していくかについて、科学者、研究者、教育関係者から意義深いアイデアをたくさんいただきました。モデレーターのローベンズ氏は「本日の議論をきっかけに、皆さん一人ひとりのイノベーションを実践していただきたい」と締めくくりました。

主催/沖縄科学技術大学院大学 共催/朝日新聞社 協力/ネイチャー・リサーチ