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08月16日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

時代を超えて愛されるお酒。人生の味わいを繋ぐ。

  • 池波正太郎の生き方は、ひとつの理想のように思える。
    いい仕事をして、美味(うま)いものを食べて、酒を飲む。男にとって、これ以上、なにか望むものがあるだろうか。

    ある者は彼が通った店を訪ね、ある者は酒の飲み方を真似(まね)る。
    もりそばを食べるときには唐辛子をそばの上に振るとか、バーで飲むときは次の客に席を空けてサッと引き揚げるとか。そういった立ち居振る舞いを説く男たちは、池波の名著『男の作法』を読んだに決まっている。

    私が好きな作品は、『剣客商売』のシリーズ。
    主人公である老剣客の秋山小兵衛が、じつにいい。隠居暮らしで枯れているかと思えば、どうしてどうして。あるときは、父を剣の師と仰ぐ息子の大治郎と共に憎らしい悪党どもを懲らしめる。

    またあるときは、年が40も離れた幼な妻おはるを可愛がる。
    「あい」とこたえる、おはるの無邪気さ。むろん舞台は江戸時代、そして池波が書いたのは昭和である。それでも、時代を超えて、いつの日までも共感できる愛(いと)おしい暮らしがそこにありやしないか。

    今宵(こよい)、オールドパーを飲みながら、また読みたくなってきた。

    AERA STYLE MAGAZINE
    編集長 山本晃弘

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    中村 梅雀 Baijaku Nakamura

    俳優、ベーシスト。1955年、東京都出身。1965年初舞台。1980年二代目中村梅雀を襲名。2007年劇団前進座退団。現在は時代劇をはじめ、テレビドラマや映画にも積極的に出演。池波正太郎時代劇スペシャル『雨の首ふり坂』、その他池波作品でも主役を演じる。

    1. 文豪たちが愛した、山の上ホテルのバー『ノンノン』。

  • 絵を描き、ウイスキーを傾ける。執筆力を支えた理想の気分転換。

  • 東京・神田駿河台、明治大学キャンパス横の坂道を上がりきると、そこだけ時代が逆戻りしたようだ。往時と変わらぬ佇(たたず)まいの『山の上ホテル』はかつて作家・池波正太郎の常宿だった。作家の愛したホテルのバーで、中村梅雀氏と重金敦之氏が池波を偲ぶ。

    重金「ロビーの絵はご覧になりましたか?」

    中村「ええ、参りましてすぐに」

    重金「このホテルには好きな絵を描くために逗留(とうりゅう)されていましてね。その絵も池波さんがお描きになったものですが、当時何度か盗まれまして。すると『まあいいや、もう一枚描くよ』と言って持ってくるんです。そこが池波さんの楽しいところ(笑)」

    中村「まんざらでもないと(笑)。いま私たちがいるのはホテルのバー『ノンノン』。こぢんまりとして居心地のいいところですね」

    重金「ここでウイスキーのグラスを傾けながら、今日はうまく描けた、ホテルで食べた朝食は旨かった、そんなふうに一日を振り返っていたんでしょう」

    中村「僕もウイスキーをちびちび嘗(な)めながら一日の出来事を振り返る時間が好きですね」

    重金「池波さんは小さいときには絵描きになりたかったそうですから、忙しい連載の合間を縫ってこちらに滞在して、絵を描いたり散歩をしたり、一日の締めくくりにはお気に入りのバーで一杯、というのは理想の生活だったんじゃないでしょうか」

    昭和40年代に入ると『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』など代表作といわれる人気シリーズが相次いでスタート。時代小説の花形として旺盛に執筆するかたわら、食に関するエッセーの執筆依頼も絶えなかった。その行間には、仕事に遊びにとことん入れ込む作家の姿が垣間見える。

  • 2. 今の時代でも愛されるベストセラーを書きつづけた池波。
    [写真]Kodansha /アフロ

  • 3. 明治17年創業以来、伝統の江戸の味を現代に伝え続け、池波がこよなく愛した蕎麦処『神田まつや』。

  • 仕事ぶりは浅草の職人気質。遊ぶときは銀座のモダンボーイ。

  • 中村「池波さんの作品を演じていて思うのは、仕事をどこまでも妥協せずに突き詰めていく姿と、いざとなるとそれを潔く捨て去る姿の両方が描かれているなということ。その潔さが実に粋なんですね。池波さんのダンディズムはどんなところにあったと思いますか」

    重金「基本は『人に迷惑をかけない』、あとは『好きなことに没頭する』」

    中村「と言いますと?」

    重金「まず絶対に締め切りに遅れるということがありませんでした。いつも2、3日前には仕上がっている。池波さんは浅草生まれの江戸っ子、祖父は飾り職人でその血を受け継いでいましたから、納期はきっちり守る、そして出来にムラがない。要は職人の仕事ぶりなんです。芸術家みたいに気分が乗ったからいいものが……ということではないんですね」

    中村「仕事は早手回しで、人様に迷惑をかけない、まさに職人の流儀ですね」

    重金「そうして段取りをうまくつけましたらね、大好きな映画と食べることに割く時間を作るわけです。スケジュールでいうと試写会が最優先。それが終わると銀座界隈の行きつけの店へ寄って食事をする。大変お酒の強い方で、その後クラブなんかで飲んでから家へ帰って仕事です。たいてい夜の9時、10時から明け方までが執筆時間でした」

  • 4. 池波正太郎が多くの時間を過ごした自宅の書斎。ここから多くの名作が生まれた。

    Guest
    重金 敦之 Atsuyuki Shigekane

    1939年、東京生まれ。朝日新聞、常磐大学教授を経て、文芸ジャーナリスト。「週刊朝日」在籍中に池波正太郎の『食卓の情景』、『真田太平記』を担当、著書に『池波正太郎劇場』(新潮新書)、『小説仕事人・池波正太郎』(朝日新聞出版)がある。「食」の世界にも精通し、『食彩の文学事典』(講談社)、『すし屋の常識・非常識』(朝日新書)など多数。

  • 中村「僕も長年ベースギターをやっていますが、音楽と役者、どっちが好き? と言われたら音楽のほうが好きなんです(笑)。気分転換でもありますが、例えば前の役を引きずってしまうとき、音楽に没頭すると頭が切り換えられる。音楽があるから役者もやっていけるんだという思いがあります。だから池波先生の仕事も遊びも全力で楽しんで一切後悔がないという境地には、憧れを感じますね」

    重金「池波さんの文章には独特のリズム感があって、情景が目に浮かんでくる。映画ファンですから映画のカット割り、カメラワークが非常によく身についていて、それをうまく活字で再現しているんだと思います」

    中村「映画のワンシーンのように頭の中で思い描いて、それを文章で描き出すわけですね。それほど映画に親しんでいらっしゃった」

    重金「初めてパリへ行ったとき『映画で何度も観て知っていたから、困ることなんかなかった』と言っていたくらいですから」

    中村「ジャズもお好きだったとか」

    重金「ええ、夜明けに原稿を書き上げますとね、大好きなベニー・グッドマンのレコードをかけて、昼間に銀座のパーラーで作らせておいたサンドイッチを肴(さかな)にウイスキーの水割りを一杯やる。白々と空が明けていくのを眺めながらね。それが至福の時だったんじゃないでしょうか」

    中村「あの、おおらかでいて職人技がいっぱい詰まった音楽を聴きながら。いいなあ」

    重金「時代小説とベニー・グッドマンという取り合わせが意外かもしれませんが、十代のころから戦前の銀座の空気を吸って育った大変モダンな方でもありました」

    中村「なるほど、そのあたりに池波流ダンディズムの秘密があるのかもしれませんね」

番組情報

  • NIPPONダンディズム  ~文豪・池波正太郎 昭和の貫禄~ BS朝日 3月24日(土)午後1:30~2:00放送

  • 発行部数2700万部を超える一大ベストセラー『鬼平犯科帳』。さらに『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』など、数々の傑作時代小説を世に送り出してきた文豪・池波正太郎。今回、池波作品を演じた俳優の中村梅雀が、昭和を駆け抜けた文豪のダンディズム〈男たちの美学〉に迫る。

    ゲストには、池波正太郎の担当編集者として近くで文豪を見つめてきた重金敦之氏を迎え、池波ゆかりの地を訪問。いまもなお人々を魅了する池波正太郎のダンディズムを解き明かしていく。

  • オールドパーを愛したニッポンの男たち NIPPONダンディズム ~名宰相・吉田茂 人生の貫禄~

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この貫禄、オールドパー。時代を超えて愛され続けるスコッチウイスキー 詳しくはoldparr.jpへ MHD モエヘネシーディアジオ株式会社

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