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文人たちの創作活動の傍らには、このウイスキーがあった。

  • 「鬼平犯科帳 1」池波正太郎著 文春文庫刊
    「シタフォードの秘密」アガサ・クリスティー著 田村隆一訳 ハヤカワ文庫刊
    P+D BOOKS「剣ヶ崎・白い罌粟」立原正秋著 小学館刊

  • 東京タワーが完成したのは、昭和三十三年のこと。333メートルというその高さは、完成当時、パリのエッフェル塔を抜いて世界一。高度成長期のニッポンは、上を、そして先を目指して走り続けた。あのころ、男たちは、よく働き、よく飲んだ。男たちが憧れたのは、オールドパー。倒れることなく斜めに立つそのボトルは、「右肩上がり」のウイスキーという夢をも内包した。

  • 時代に選ばれた男たちは、夜ごと銀座や赤坂に集った。国の行く道を担う政治家、経済の復興を先導した経済人、そして、ニッポンの文化を新たなステージに引き上げたあまたの文人たち。彼らの多くは、英国生まれのウイスキーを「水割り」という日本流の飲み方で嗜んだ。ウイスキーが1に水が2。今に受け継がれる、おいしさの黄金律である。

  • 文壇バーで、鎌倉の書斎で、文人たちの創作活動の傍らにはこのウイスキーがあった。ある者は酒と食のエッセーを書き、ある者は英国のミステリ文学を翻訳した。オールドパーのやわらかな香りとまろやかな味わいは文人たちの創作意欲をかきたて、ときに励まし、ときに癒やしとなった。

  • 時代小説家、池波正太郎 一日の終わりはウイスキーで

  • 池波 正太郎

  • 「鬼平先生」の異名を持つ池波正太郎が、小説『錯乱』で第四十三回直木賞を受賞したのは、昭和三十五年(1960)だった。戦後、東京都の職員として働きながら戯曲家として出発、恩師・長谷川伸のすすめで小説を書き出して七年目の快事であった。くしくもこの年は、池田勇人内閣が誕生し所得倍増論を提唱した年。四年後には東海道新幹線が開通する。池波はのちに当時の世相を振り返ってこう記す。

  • 《太平洋戦争が終って十五年、戦争に生き残った若者たちが進路を見いだし、懸命に努力をつづければ、必ず実りがもたらされた時代だったのである。人びとには〔希望〕があり〔夢〕もあって、その実現に立ち向う気力があった》(『はじめてテレビを買ったころ』)

  • 直木賞受賞は、池波にとって努力を重ねて掴んだ夢であり、文壇への扉を大きく開く希望でもあったのだろう。世の中には右肩上がりの活気があふれていた。

  • 池波がライフワークとなる『鬼平犯科帳』の連作を始めたのは、昭和四十三年(1968)。その後さらにその筆からは、『剣客商売』『真田太平記』といった時代小説の傑作が生み出されていくことになる。

  • 時代小説の書き手としての池波正太郎には、蕎麦屋で一杯やるような日本酒党のイメージが先行するかもしれない。だが、その実、かなりのウイスキー好きでもあった。作家本人がこう綴っている。《仕事は夜半から朝にかけてするが、その日の仕事がどうやらすみ、寝しなにのむウイスキーほど、うまいものはない。(略)筆がのって来て、ぐんぐん書けているときは、古いベニー・グッドマンのレコードをかけながら、ぐいぐいとウイスキーをのみ、のみつつ書くことが一年に数度はある》(『食卓の情景』)

  • 池波が好んだ飲み方は、ウイスキーに氷を浮かべたオンザロック。すなわち、ジャズのスタンダードをBGMに好きなオンザロックをやりながら、江戸の町を歩く鬼平こと長谷川平蔵の姿を描く幾夜かがあったということだろう。失われた江戸の残り香を求めて京都へ旅するときも、池波は寺町の行きつけのバーのカウンターで飲むウイスキーを愉しみにしていた。文学者としての下地にも、若いころ読んだアランやベルクソンなどヨーロッパの哲学書が大きな養分となっていたという。

  •  池波は小説の中に料理を登場させて季節の風を吹かせ、味に関する魅力的随筆も多く書き残すなど、「食」にこだわりを持ったが、徒らに贅に流れることはなかった。晩酌時、家人が五品は用意したという酒肴にしても、お気に入りはたとえば油揚げ。小さな七輪に網をのせて卓上で焼き、大根おろしと醤油で食す。作家にとっては、誰しも避けられぬ終末を折にふれ意識する人生観こそが不可欠の薬味。小間切れ肉一枚を口にするにも、大切においしく食べるよう心掛けた。曰く「死ぬるために食うのだから、念を入れなくてはならない」

  • きっと池波正太郎にとっては、一杯のウイスキーを飲むのも同じことであっただろう。一日の仕事を終えたあとには、自分自身と対話をするように、じっくりと味わう。家で飲む酒は、進物のものですませることが多かったというから、舶来の高級ウイスキーも、鬼平先生の舌鼓を打たせていたに違いない。

時代小説家、池波正太郎 一日の終わりはウイスキーで
翻訳家・詩人の田村隆一 ミステリとスコッチを結ぶ
鎌倉文士の立原正秋 客人にふるまうのはオールドパー
時代を超えて、日本人に愛され続けている スコッチウイスキー。調和のとれた柔らかな味わい、奥行きのある香りと長い余韻は、和食とも好相性。詳しくは、oldparr.jp へ MHD モエヘネシーディアジオ株式会社

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