
漢学塾からの150年へ
二松学舎大学の出発点は、1877年、三島中洲によって開かれた漢学塾二松学舎にある。その歴史は古く、建学の精神に「東洋の精神による人格の陶冶(とうや)」を掲げる文系の総合大学だ。
特に国語科教員の輩出実績に優れる二松学舎大学だが、21世紀に入り、精力的に国際化を進めている。各種国際シンポジウムを国内外で開催したり、海外の大学との連携による交換留学生を数多く受け入れたりなどの取り組みを実施。これまでも注力してきた国語力を基礎に、さらなる「言葉の力」を身につけたグローバル人材を育成する教育体制を展開しているのだ。
2019年4月に就任した江藤茂博学長は、2009年から10年にわたり、同大学の文学部長を務めた。その歩みを振り返りながら、ここでこそ身につくグローバル感覚について語る。
「私はこの10年間、大学の国際化を推進してきました。文化も経済もグローバル化のただ中にある現代。人と人とが国籍や国境に縛られずに意思を伝えあうためのコミュニケーション力が、かつてないほど求められています。このとき重要になるのは、外国語力だけではなく『母語』の力。複数の国の言語を自由に操る人でも、深く思考するときには母語に立ち返ります。理論的な発想やこまやかな感情表現を可能にする、生きるうえでの基本となる力なのです」
大学のグローバル化は近年の取り組みのようにも思えるが、二松学舎大学は、創立時から変わらず世界を見据えている。
漢学とは古来、先端の外来学術そのものを意味していた。大学名の由来にもなっている二本の松は「学問をする場所」の象徴で、唐の時代の故事によるものだ。設立当時から、中国古典への理解と日本の学芸の習得により、塾生たちの表現力を高めることをめざしていた。
「まだ漢学塾だった1889年には、すでに海外からの留学生を受け入れていました。現在も年間60人以上の交換留学生を受け入れています。彼らは積極的に発言するし、日本語だけでなく英語などにも堪能で優秀な人が多い。本学の考えるグローバル化とは、単なる外国語教育ではありません。まずは国際的な環境に学生を置くことを重視しています。文学部には英語を苦手とする学生もいますが、留学生とのコミュニケーションのためにも自発的に英語を学んでいる者もいます」(江藤学長)
留学生の存在が日本人学生にも刺激になっているという。
さらに、その環境が知力や豊かな思考力を育て、学生のクリエーティビティー向上にもつながっているようだ。学生数3000人余りの同大学だが、「作家の出身大学ランキング」では、大規模校に比肩して上位にランクインしている※。表現力と広い視野を育てる国際化を進めながら、基本としての国語力をしっかりと教育する体制のたまものといえるだろう。学生数についても、この規模だからこそ濃密な師弟関係を結ぶことができる。丁寧な指導も、漢学塾時代から続く特色のひとつだ。
近年では、ヨーロッパや中国、韓国、台湾といった諸外国と共同での漢学研究なども行っている。「国漢の二松学舎」の伝統を、21世紀の教育環境に接続させる試みだ。また、2017年に開設された都市文化デザイン学科では、アニメやゲームなどの最新ポップカルチャーについて研究することもできる。歴史と革新を併せ持つカリキュラムにより、卒業生は教員、公務員、一般企業など、学部を問わず幅広い分野で活躍している。
進化を続ける二松学舎大学。東京の私学、日本の私立大学という枠を超え、東アジアの高等教育機関としての成長を掲げている。
江藤学長はさらなる短期的目標を挙げた。
「現在、教育研究に携わっている、本学に留学生として籍を置いたOB・OGを集めて、二松学舎大学学術研究国際会議を開きたい。また、教学環境の変化を踏まえて、ICT(情報通信技術)の整備なども考えていきたいと思います」
多様な取り組みで、豊かで鋭い読解力と表現力で社会に向き合う「真のグローバル人材」を育む。その姿勢は、創立以来142年、一貫して変わらない。
※「大学ランキング2020」(朝日新聞出版)によると、1980~2018年のおもな文学賞受賞者数で全大学中44位