
進む拓大、世界を拓く
1900年創立の台湾協会学校を起源とする拓殖大学は、2020年に創立120周年を迎えた。この節目に向けて2015年に「教育ルネサンス」を掲げ、多様な活動を続けてきた。なかでも大学の核を担う教育目標として、「国際性」「専門性」「人間性」を備えた「拓殖人材」の育成をめざしている。この3つの柱の具体的な取り組みについて、川名明夫学長に聞いた。
「国際性向上のための動きの最たるものとして、この春に国際日本語学科を開設したことが挙げられます。ほかの取り組みについても本学らしさを反映させながら、学生の指導や教育環境をより充実させました」
例えば今年4月に、商学部に専門科目「フランチャイズビジネス論」を新設。日本におけるフランチャイズビジネスの実務と理論を学ぶもので、前身となった講座の好評を受け、より多くの学生が学べる体制を整えた。この分野を学問として研究する大学はまだあまり例がなく、拓殖大学ならではの「専門性」を深める教育の一つだという。また、「人間性」を育む活動としては、地域連携の活動や2019年に始動した農業活性化のプロジェクトなどがある。これは拓殖大学の学生が山梨県の耕作放棄地を活用し、果実を育てて利益を出すことを目的とした長期計画だ。留学生も参加し、山梨県立大学の学生や地域の農家と協力しながら進めている。
川名学長は3つの柱のうちの「人間性」について、「一番難しいけれど、これからの社会でより重点が置かれるようになるものです」と話す。
「国の提唱する次期の科学技術基本計画の中でも、人を中心とした技術の重要性が示されました。今、必要とされるのは、それぞれの個が主体的に物事を考えること。国際化の進む社会でも、その前提になるのは、互いに理解を深め合う『人間性』なのです」
人と人とのかかわりの重要性を深く知り、コミュニケーション力を高めてほしいと、拓殖大学ではサークルなど正課外の教育にも力を入れている。川名学長は人間性の優れた「真の拓殖人材」の具体像として、ある卒業生の活動を挙げた。
「アフリカで電力事業のベンチャー企業を興した本学OBがいます。彼は学生時代から現地での植林活動などに取り組んでおり、本で読んだ知識ではなく、実際に行ってやってみることの大切さを痛感していました。設備が高額なために電気が普及しない現地の状況を見て、太陽光で蓄電するランタンをレンタルすることから始めたそうです」
川名学長は、その積極性はもちろん、地域に合わせた解決策を導き出す力を高く評価する。
「強引にこちらのやり方に当てはめるのではなく、現地にマッチしたやり方を探るのは、多様性を認めるからこそできることです。現地の習慣を熟知して政策を練った、3代目学長の精神が、今も生きているのかもしれません」
台湾統治に手腕を振るった政治家・後藤新平の名を挙げてそう笑う。
120周年に向けて教育改革を進めてきた拓殖大学だが、根底にある建学の精神は変わらない。それは世界が目標とするSDGs(持続可能な開発目標)の姿勢と大きく重なるところがあり、大学の取り組みともごく自然にリンクしているという。
「今日のような激動の時代でこそ、SDGsの精神が重要です。例えば、インターネットの通信環境も学生によって大きく異なりますが、だからといってオンライン授業で取り残されることがあってはいけない。これまでもオンライン英会話などでICT化を進めてきましたが、さらに効率化するいい機会だと捉えています」
距離のある他大学との単位互換も、リモートならより合理的だ。「実際に顔を見て行うべき授業は少人数制にして内容を深めたり、大学間で連携したり、できることは多い」と川名学長。積極性の大切さを繰り返し語るが、自身も至って前向きだ。
「入試がどうなるか未来がどうなるか、悩ましく思う人も多いでしょう。そんな中でも、自分のやりたいことを探してもがいてほしい。ぜひ拓殖大学で、やりたいことを見つけてほしい」
受験生や学生に向けてそうエールを送った。