東京理科大学

Building a better future with Science

教育のデジタルシフトを進め
個別最適な学修支援を行う

大学教育の原点に
立ち返る機会を得た

近代科学資料館の前で渡辺一之副学長(右)と渡辺雄貴教授

 新型コロナウイルスの感染拡大は、大学教育のあるべき姿を再考するきっかけとなった。東京理科大学では今年3月、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の「学修者本位の教育の実現」に採択され、教育のDX(デジタル・トランスフォーメーション)への取り組みをさらに加速することになった。渡辺一之副学長と渡辺雄貴教授(教育支援機構教職教育センター・理学研究科科学教育専攻)が、めざすべき教育のデジタルシフトについて語り合った。

渡辺一之(以下、渡辺一) 2020年度は1カ月間の準備期間を経て、5月からオンライン授業を開始しました。対面授業からの移行に際しては試行錯誤がありましたが、対面授業の意義は何か、学生が一堂に集まるいまの大学の教育方法を再考すべきではないか、といったように大学教育の原点に立ち返る機会を得ることができました。

渡辺雄貴(以下、渡辺雄) 学生、教職員の安全を第一にしながら、「教育も研究も止めない」ということを前提に授業を進めました。シラバスで定めた学修目標に合わせて、教員が同期遠隔授業(リアルタイム型)と非同期遠隔授業(オンデマンド型)を選択することにしたのです。学生にとっても初めての経験でしたから、定期的に学修支援セミナーやアンケートを実施し、授業の問題点などを教員にフィードバックし、授業の改善に役立てました。

渡辺一 本学は、1人の教員が8~10人の学生を受け持つ担任制をとっています。教員がオンラインや対面で学生の状況把握とケアを行いました。オンライン授業に対する学生の評価は分かれましたが、高学年の学生からは「オンライン授業のほうがいい」という声が多かったです。コロナ禍で移動が制限されるなか、心理的な距離は縮まり、情報空間の可能性を感じました。

ノート型パソコンを
必携化した

渡辺雄 2021年度は学生に「キャンパスに来る」という選択肢を与えたかったので、対面授業かオンライン授業か、学生が選択するハイフレックス型授業を中心にしますが、これまでやってきた授業と質的に変わるわけではありません。

渡辺一 そのなかで、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の「学修者本位の教育の実現」に採択されました。「教育環境の整備」と「教育手法の開発」を柱としています。

渡辺雄 まず、教育環境の整備です。本学は理工系総合大学としてICT(情報通信技術)を活用した教育を推進してきました。今年度はさらに、BYOD(Bring Your Own Device)、つまり、ノート型PCの必携化をしました。これはコロナ前から進めていたものです。BYODによって、学生は自身のPCからオンラインで授業を受けることができるだけでなく、リモートで大学のコンピューター環境にアクセスし、そのソフトウェアを使って演習を行うという、PCのリモートデスクトップ化が順次可能になります。

渡辺一 VR(仮想現実)の活用も行っています。理工系大学として実験・実習は不可欠です。例えば、薬学部では薬剤師の免許を得るためには実習をする必要があります。資格取得に実習経験が必須な分野についてはVRを使った実験・実習システムを実際の教育の場で使えるようにしていきたいと考えています。また、文部科学省に採択されたプログラムに教育手法の開発がありますね。

渡辺雄 それには大きく二つの項目があります。項目反応理論(IRT)を用いた学修到達度測定WEBテストと、機械学習手法を用いた学修支援システムです。IRTとは、テストの結果をシステム側で学習し、受験者の能力を予測、受験者一人ひとりの学力に応じて、個人ごとに異なる項目からなるテストを受けてもらうことで、効率的に能力を推測しようとするものです。本学の理数教育研究センターでは、数学に関する高校生の学力調査を20年近くにわたり行い、テスト問題を分析したデータベースがあります。それに基づくテストを実施して学生の能力を正確に測定します。機械学習を用いた学修支援システムとあわせ、個別最適化、つまり、学生一人ひとりにとって最適な学修アドバイスをしていきます。

渡辺一 なぜ、個別最適化が必要かというと、本学を象徴する言葉の一つでもある「実力主義」とも密接に関連するからです。本学の実力主義はおおむね「真に実力を身につけた学生だけが卒業できる」と解釈されてきました。しかしながら、大学を取り巻く環境が大きく変わるなか、次代の実力主義とはどうあるべきか、今年3月に再定義しました。「未来を拓く実力」として必要なものは「高い志とノブレスオブリージュの精神」「高い専門性と科学的思考力」「独創性と進取の気性」「共創力」としました。新しい実力主義のもとでは、学生が複眼的で柔軟な思考力と多様性を育むようにします。そのうえで、学生の能力を一つの物差しで測るのではなく、学生一人ひとりの個性や適性を見いだしていきます。

成績上位の学生も
さらに伸ばしていく

渡辺雄 成績下位群の学生を支援するという発想だけでなく、成績上位群の学生の能力をさらに伸ばすためにはどうしたらいいかという発想がそこにはあります。大学では、学生の成績や出席状況、将来の進路希望などさまざまなデータを集めています。これまでそのデータを教員の授業改善や学生面談に使うことはありましたが、データを総合的に検証して学生にフィードバックすることはあまりありませんでした。今後はそのデータを学生一人ひとりにフィードバックして、例えば、「いまも成績はいいけど、こういう学習をするともっと成績がよくなる」とアドバイスし、できる学生をさらに伸ばすようにしていきたいと考えています。学生一人ひとりがよりよい未来を実現できるようにしたいですね。

渡辺一 オンライン授業を進めるなかで気づいたのは、対面ではあまりできなかった個別の学生へのケアが、よりできるようになることです。一人ひとりの学生が自分の授業を理解できているのかどうか、教員がピンポイントでチェックできます。

渡辺雄 いま、アクティブラーニングの意義があらためて問われているのだと思います。アクティブラーニングでは学生みんながディスカッションするほうがいいといわれてきましたが、実際は身体的な能動性ばかりがクローズアップされてきました。本当に重要なのは、認知的な能動性、つまり、思考が能動的になることなのです。オンラインで学生が自宅でひとりで学習していても、課題設定によってはいくらでも能動的になれます。オンラインだと、その課題に対して学生がどうアウトプットしてくるかがわかります。学生が何時に学習しているかまで把握できますから、夜中に学習しているのであれば、昼間に学習するよう指導もできます。

ゼミには対面でもオンラインでも自由に参加できる

教育DXの進展で
大学が選択される

渡辺一 それができるのも、オンライン授業の記録が残っているからですね。教員の問いかけに対して学生がチャットでどう答えたか、ログインの時間も含めて全部デジタルの記録として残りますから、後で授業の振り返りもできます。オンライン授業の大きなファクターの一つです。オンライン授業の可能性はまだまだ広がっていきます。

渡辺雄 教員はいろいろな授業方法やメディアを取捨選択して授業設計していますが、どのメディアを使った授業が学生からの評価が高いかの情報を集めて発信する仕組みをつくることも必要になります。

渡辺一 いま取捨選択という言葉が出ました。日本国内だけでなく世界では今後、教育DXがどれだけ進んでいるかによって大学が選択される時代になってきます。教育だけでなく、研究、大学の運営管理を含めた三つの分野でDXを進めていこうと、学内に検討会も設けました。DXは、アナログをただデジタルに換えるのではなく、考え方やそのプロセスを含め、学生が自ら学び成長できるようにすることが目的です。また、本学は研究大学ですから、DXによって研究の時間を創出することにつなげたいですね。

渡辺雄 学びには効率、効果、さらに魅力が必要です。学生がさらに学びたいと思う魅力ある仕掛けもつくっていかなくてはいけないと思います。

CAMPUS TOPICS

理工系総合大学だからこそ全学年にわたる教養教育を強化
第一歩として2021年4月、「教養教育研究院」を開設した

 東京理科大学は2021年4月、教養教育のための新しい組織として「教養教育研究院」を新設した。これまでは七つの学部がそれぞれ教養教育を行っていたが、教養教員約100人が同じ組織のもとで全学的な教養教育を推進していく。2018年度、理工系総合大学として、「専門教育の目標」と並列、そして互いに補完しあう形で「教養教育の目標」を制定し、専門教育と教養教育が同じ重みをもつと位置づけた。教養教育研究院の新設はその具体化の第一歩だ。

 教養教育の重要性について渡辺一之副学長はこう話す。

「本学の教育研究理念は『自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造』です。科学や技術の進展が人間にとってどういう意味があるのかを評価するには、専門領域の知識や技術だけでなく、例えば、倫理、法学、哲学といった人文社会科学領域の教養も含めた複眼的な見方が必要になります。また、科学技術分野の研究はますます専門化する傾向にありますから、各専門分野を横断的に見る目が必要です。理工系総合大学だからこそ教養教育が重要なのです」

 さらに、教養教育のあり方も見直し、2022年度からは教養教育の目玉となる「TUSくさび形教養教育カリキュラム」(下の図)を開始する。一般教養科目を「A」から「N」まで五つのカテゴリーに分け、年次ごとにくさびを打ち込むように履修していく。従来は履修学年を制限しておらず、多くの学生は低学年のうちに一般教養科目を履修し、学年が上がるにつれて、専門科目の学習に時間を使っていた。新しいくさび形教養教育カリキュラムの特徴は、高学年においても教養を学ぶ機会を確保する点にある。自分が受けている専門教育を俯瞰(ふかん)して眺めたり、その意義を社会や文化・歴史の文脈のなかに置いたりすることができるようにする。

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