高齢化とともに「心房細動」という不整脈が増えています。合併症として重篤な脳梗塞を引き起こす原因ともなるこの疾患の最新事情と暮らしの中での注意点について、日本の循環器医療の最先端で活躍されている平尾見三先生にアナウンサーの渡辺真理さんがお聞きしました。

家族みんなで考えよう「心房細動」

高齢化に伴い増える心房細動という不整脈

わたなべ・まり/1990年国際基督教大学教養学部卒業後、TBSにアナウンサーとして入社。98年にフリーに転身後は「ニュースステーション」などに出演。現在もテレビ、ラジオ、雑誌などで幅広く活躍している。 服用している薬の名前を覚えることが大切なのですね。

渡辺 日本人の平均寿命は男性が80・79歳、女性が87・05歳(2015年厚生労働省調べ)と、15年前に比べ約3歳も延びているそうですね。

平尾 そうなんです。食事をはじめ生活の質の良さや医療レベルの高さなどを背景に、日本は今や世界に誇る長寿国となっています。それに伴い、今後増加が懸念されているのが心房細動です。

渡辺 時々耳にする言葉ですが、どのような病気なのですか。

平尾 私たちの心臓は1分間に60〜70回という一定のリズムで収縮を繰り返し、全身に血液を送り出しています。ところが、何らかの原因によって1分間に300〜400回という非常に早い頻度で震え、収縮力が弱まることがあります。その状態が心房細動、不整脈の一種です。これによって心臓の中の血流速度が非常に遅くなって血液が溜まり、血の塊=血栓ができやすくなってきます。

渡辺 血栓というと血がドロドロになってできるイメージでしたが、血液の流れが遅くなってもできるものなんですね。

重篤な脳梗塞を引き起こす原因に

ひらお・けんぞう/1979年東京医科歯科大学医学部卒業。専門は循環器、特に不整脈領域。2011年、同大学に新設された不整脈センター長に就任。15年から東京医科歯科大学心臓調律制御学教授。16年7月からは日本不整脈心電学会の第二代理事長を務める。 心房細動の治療で最も重要なのは脳梗塞予防です。

平尾 問題はその血栓が何らかの拍子ではがれ落ち、血液にのって頭に運ばれ、脳の血管を詰まらせること。つまり、脳梗塞を引き起こすことです。しかも、心房細動が原因で発症する脳梗塞は「心原性脳塞栓症」と呼ばれ、社会復帰が難しい重篤な場合が多いことがわかっています。

渡辺 脳梗塞の原因が心臓にあるとは意外です。ご存知ない方も多いのではないでしょうか。

平尾 はい。実は心房細動は、約半数の人には自覚症状がありません。そのためある時、突然脳梗塞を引き起こし、その時になって初めて心房細動が見つかるケースも少なくありません。

渡辺 未然に気づくには定期的な検診が重要だということですか。

平尾 そうなりますね。心房細動を引き起こす一番のファクターは年齢です。60歳を過ぎると罹患りかん率は急速に上昇し、70代以降では3%以上になります。高血圧や肥満、メタボリック症候群の人にも多く見られるので要注意ですね。あと私がお勧めしているのは毎日の検脈です。私たちの心臓は1日に10万回も脈を打っている臓器。脈の回数やリズムの変化など、もっとご自分の心臓に関心を持ってほしいですね。

渡辺 現在、心房細動にはどんな治療法があるのですか?

平尾 カテーテルアブレーションなど手技による治療もありますが、心房細動の治療で最も重要なのは脳梗塞の予防です。そのため、血をサラサラにして血栓をできにくくする抗凝固薬による治療が基本になります。5年前から新しい抗凝固薬が登場し、患者さんのタイプに合わせた治療が可能になりました。画期的な進歩だと言っていいと思います。

心房細動と脳梗塞

心房細動によって心臓の収縮が正常に行われず血流が滞ると、心臓の中で血液がよどみ血栓が形成される。それが血流にのって脳へと運ばれ、脳の血管を詰まらせて引き起こされるのが「心原性脳塞栓症」だ。

抗凝固薬は継続して服薬することが肝心

渡辺 それをお聞きして少し安心しました。抗凝固薬を服用する際、気をつけるべきことはありますか。

平尾 最も大事なのは継続です。抗凝固薬は服用してもしなくても数値など目に見える変化がないため、途中で飲むのを止めてしまう人も中にはいらっしゃいます。でも、薬効が切れたときに脳梗塞を起こす危険性があります。医師の処方どおり正しく服用し続けることが肝心です。

渡辺 飲み続けていれば、脳梗塞は予防できるということですか。

平尾 もちろん、全ての人の脳梗塞を予防できるわけではありませんが、正しく服薬し続けていれば6割以上予防できることがわかっています。なぜ飲み続けなければいけないのか、その点をきちんとご自分で理解しておく必要があるでしょう。

服用している薬の名前は家族で共有を

渡辺 服薬中、毎日の暮らしの中で何か気をつけないといけないことなどはあるのでしょうか。

平尾 抗凝固薬は血栓ができないよう血液を固まりにくくする薬です。なので、万一出血した場合の対処が重要になってきます。ところが、高齢になるとどうしても転倒したり、ぶつけたりして出血する場面が多くなります。しかし、抗凝固薬を飲んでいると止血が難しく処置が遅くなって致命的な問題を引き起こすことも考えられます。特に気をつけて欲しいのは頭を打った時ですね。高齢になると血管自体ももろくなってくるため、脳出血を引き起こしかねません。

年齢ごとの転倒・転落による死亡率

総務省統計研修所編:第五十八回日本統計年鑑平成21年, 総務省統計局, 東京, 2009

渡辺 何か対処法はありますか。

平尾 医療機関で治療を受ける際、ご自身が服用している薬剤名をきちんと伝えることが重要です。なぜなら、薬によって止血の対処法が異なるからです。例えば、薬の効果をなくす方法があるものもあります。

渡辺 対処法が変わるなら、薬の名前を伝えることは大切ですね。

平尾 そうなんです。薬の名前をあらかじめ伝えてもらえれば、私たちもその薬に合った処置を迅速に行うことができます。またご家族にも自分がどんな名前の薬を飲んでいるか、伝えておくことも忘れずに。

渡辺 確かに、気を失ったときなどは自分では伝えられないですよね。

平尾 高齢化が進む今、健康上の問題がなく日常生活を送ることのできる〝健康寿命〟を延ばすことが重要になってきます。そのためには食事や運動、睡眠などの日常生活のケアはもちろん、罹患している病気や服用している薬の名前などの情報も家族みんなで共有しておくことが大切だと思います。

渡辺 結局、親の健康について一緒に考えケアすることが、この先の自分たちの健康につながっていくことになりますよね。家族の健康は家族みんなで守っていきたいと実感します。