朝日新聞
広告特集 企画制作:朝日新聞社メディアビジネス局
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国公立大学が創る未来 第6回 【都市計画2.0】元からある価値を最大化させる2つの大学

今、日本の都市は歴史上未だかつてないフェーズに差しかかっているという。

明治期以降、欧米で発祥した都市計画の視点が日本にも持ち込まれた。

そこで議論されてきたのは、「人口が増加する中で、どうすれば人々が快適に暮らす街を作れるか」であった。

しかし、現在は「高齢化や人口の減少を念頭に、それをカバーするための街づくり」が求められているという。

筑波市と横浜市。都市の中では、常に実験的な開発に挑戦してきた2つの地域にしっかりと根を張る国立大学で、都市計画研究を進める教授陣にこれからの都市についてそれぞれの視点で語って頂いた。

その街から付加価値として何を生み出すか。豊かさの追究が今後のキーワードに

高齢化や人口の減少は、都市計画においてどのような変化をもたらすのか。横浜国立大学の野原卓准教授は、「地域そのものの持つ価値を引き出すこと」の重要性を語る。

横浜国立大学 野原卓准教授
横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院
少子高齢化や過疎化などの問題を抱える地域が、その土地独自の魅力を活かした豊かさを創出できる仕組みを研究。「大田クリエイティブタウンプロジェクト」など、公民学連携の事業にも力を入れている。

野原准教授:日本の人口は、今後減少していくことが予想されています。今までの歴史の中では日本の人口は、増加しつづけてきましたが、実は、これほど人口が「減り続ける」トレンドに差し掛かったことはないんです。だから、現在はこれまでとは違った形のアプローチが都市計画の分野に求められています。これからは、増加型のまちづくりではなく、密度にかかわらずそれぞれの地域の特徴を掘り起こし、その場所ならではの価値を生み出すことが必要になってきています。

高度経済成長期に都市の郊外に作られた大規模な住宅地では現在、高齢化により建設時のウリであった「閑静な場所」という点が、かえって問題になっている。

一時にたくさんの住居を建てたので、住む人々の年齢も、同じ年齢層に偏ることも多く、高齢化した住民たちにとって、周りにお店一つない「閑静」な住環境は、行動範囲を狭める要因になってしまうのだ。

野原准教授:住宅地って、果たして本当に「住む」だけでいいのかな?といった課題についてもっと考えていく必要があります。そこに新しい人が移り住んできて、豊かな生活をするためには、スモールビジネスや、高齢者をサポートする仕組みを活性化していかないと、街はどんどん廃れていってしまいます。そこで、私は学生と一緒にその解決策を考えていく都市計画の研究を大学で行っています。

横浜市の郊外では、坂道の多い地形上、住居が建っている地面の下の基礎部分がガレージになっているタイプの戸建て住宅が多いんです。高齢になり車を利用しなくなることで不要な空間となってしまったこれらのガレージを若者に間貸しすることで、小さなお店を始めるなど、イベントスペースとして活用すれば、そこに新しい価値が生まれることも考えられます。

さらに、この様な仕組みを利用すれば、高齢化していくオーナー自身にも、若者が一緒に生活をしていることで生まれる交流や、もしもの時の安全面等でメリットがあったりします。

そこに住む一人ひとりが小さな活動に参加することで、地域の一員であることを自覚できるような都市計画が求められているのだ。

さらに、街の付加価値を見出す視点で野原准教授が現在力を入れているのは、「大田クリエイティブタウン構想」。

野原准教授:大田区は東京都で最も町工場が多い場所ですが、現在はその数が減ってきています。さらに、大田区は空港やターミナル駅が近くてアクセスが良いので、使われなくなった町工場の跡地に戸建てやマンションが建ち、「普通の住宅街」になりつつあるんです。実はこの近隣の小さな町工場では、世界的なブランドの金属タグを刻印している職人さんなど、驚く様な技術を持っている方も少なくない。それを知らず、後から住み始めた住民から「作業音がうるさい」と苦情が出てしまうこともあるんです……。

そもそも昔は、その場所に生業があることが、そこに住む理由だった。現在の都市部では住む場所と活動する場所が分離してしまっている。

もう一度、暮らしの中で人々がどう価値を生んでいくかを考えることが、外から人がやってくるような、持続する街につながっていくと教授は話す。

野原准教授:まず知ってもらい。その先に、どういう街にしていくかを考えることが重要です。大田区では毎年「おおたオープンファクトリー」という、普段は見ることができない町工場に一般の人々が出入りできるイベントを行っています。

このイベント自体は、本来の都市計画とは言えないかもしれませんが、結果として、周囲の人々と町工場との関係性が深まることにつながると思っています。「価値を生み出す街をどうやったら作っていけるか」を考える、広い意味でのまちづくり・都市計画です。

モノづくりが根付く環境を次のイノベーションに活かし、魅力ある街を作ることが目的なので、このプロジェクト名は「大田クリエイティブタウン構想」という名称です。例えば、地域の人々自体が町工場の多い地域であることを価値と認識することができれば、工場の跡地を普通の家に建て替えるのではなく、電源がたくさんあるとうれしい人向けに改修したSOHOオフィスとか、大田区の特色を活かした街の使い方ができるはずです。

一人ひとりが街の一員であり、かつ自分の出来る範囲で街に関与していくことが、結果として自分も楽しいし、地域のためにもなる。それが循環して、豊かな街づくりにつながっていくんじゃないでしょうか。

オープンデータの活用で「知らなくて損した」がなくなる街づくりを

都市計画の目的や手法が変わった要因は、人口の問題だけではない。IT技術の発達が進む世の中では、より「データ」を活かした都市の在り方が必要だと語るのは、筑波大学の川島宏一教授。

筑波大学 川島宏一教授
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 社会工学専攻 (社会工学学位プログラム)
行政が持っている情報を原則公開する「オープンデータ」の地域支援への活用法を研究。適切な相手に必要な情報が届く仕組みを考えることで、現在の世の中で起きている問題を解決することを目指している。

川島教授:現代の人々は、「何を買うか」「どこへ行くか」など、都市での活動に関して、かなり情報に依存していますよね。元々、都市計画は建物や道路の建設方法などを決めて、人々の動きを調整することが重要な要素でした。しかし、スマホで最新の情報や口コミをキャッチして人々が動く現代では、その街に流通している情報(データ)の質を管理し、活かしていくことが大事なんです。

そこで、川島教授が着目しているのがオープンデータだ。オープンデータとは、正確に言うと、「オープンガバメントデータムーブメント」のことだ。政府が持っているデータをオープンにして価値を出していこうという世界的な運動を意味している。政府が持っている今までクローズドになっていたデータをオープンにすることで、経済的な価値が誕生し得るという。

川島教授:私は、政府が持っているデータの中から必要なものを選び出し、地域のあらゆる課題を解決する方法について研究しています。現在は、データをオープンにすることでどんな成果があるのか検証を行っている段階。データはどこかに必ずあるものですが、その価値を活かせる人の翻訳が必要になるんです。大事なのは、分散している翻訳が必要なデータをどうやって上手く回していくか。データをオープンにすることは手段であり、あくまでも変化を起こすためのスタートに過ぎないんです。

川島教授が描く都市計画の究極の理想像は「知らなくて損した」がなくなる世界だ。例えば、昨年、茨城県の常総市で起きた大規模な水害は、より適切に情報共有できていればもっと逃げ遅れを減らすことができたという。水害が起きる前日、常総市を流れる鬼怒川の上流では、過去最大の雨量を記録していた。上流の雨量のデータを見れば、その時点で下流域の雨量が甚大でなくても、何時間後かに、下流域で危険な水位になる可能性が高いという予測を、より分かりやすく下流域の住民と共有する仕組みが必要だ。

川島教授:雨の多く降っていない場所であっても翌日に大きな洪水が起こる可能性が高いなんて、普通分からないですよね。上流の雨量データの意味が適切に翻訳され地域住民にまで届いていたら、約4000人の逃げ遅れを減らすことができた可能性があるんです。現在の日本では、データは量・質ともにどんどん増大しているのに、そのデータの意味から価値を読み取り、その価値を享受できる人にまでちゃんと伝わってない事例が多すぎるんです。

ここで重要になってくるのは、情報の粒度や鮮度。情報が詳細であるほど価値は高くなるが、同時に分かりづらくなるといったリスクもある。解決しようとする課題の性質に応じて、誰が、いつ、どのような目的で、どこの、誰と、どのような情報を共有したら、情報の受け手が適切な行動を起こす可能性が高まるのかをこれからさらに議論していく必要があるという。

それに加え、「完全公開(下図のOpen)と守秘(下図のClosed)の間にある、目的に応じある条件下で特定の相手とだけ情報を共有(Shared)するべきかについての社会的なルール」についても重要な問題である。

世界で議論されている「Data-Spectrum」のスライド。誰に情報をシェアし、オープンにするかが今後重要になる。

川島教授:データを完全にオープンにする世界と、完全クローズドの世界の間には「シェアード」の領域があって、どのような目的で、そのグループにどのデータをシェアするのか、状況毎、データ毎にそのシェア範囲を考えることが重要です。

例えば、私の体が不自由になったとします。災害が起きた場合、一人では逃げられない。でも、「体が不自由」という情報を常時完全オープンにすると、今度は犯罪の標的になってしまう可能性もあります。この場合、災害が起きた時に、助けてくれる意思と能力を持っていて信頼できる人にだけ情報をシェアするべきなんです。

世界ではこのシェアードの範囲の議論が活発になりつつあります。しかし日本では、「どこまでデータを公開するのか」についての議論の精度があまい状態。今後、この分野の議論の活性化を進めていくことで、社会の豊かさは変わってくるはずです。

これまでも、都市計画では「経験値」を上手く街に還元することで、より生活しやすい環境を構築してきました。「ここが危なかった、こうしたら快適になった」といったデータが、実際に道路やビルの建設や防災対策に活かされてきたんです。今後、インターネットの世界がより発達していくと、ますますその「経験値のデータ」が共有されて、実際に地域が快適になっていくでしょう。

国立大学が都市計画に携わる意義

その街に既に存在するものや人々を資源と捉え、アイデアを加えることで街を活性化しようとしている横浜国立大学の野原准教授。

政府が元々持っているデータをオープンにして活用することで、より住みやすい環境を作り出そうとしている筑波大学の川島教授。

共通して言えるのは、「今あるもの」をどんな視点で都市計画に還元していくかを考えている点。

近頃では、「産学官連携」といった言葉もよく聞く。

国の教育機関である国立大学は、行政(官)と産業(産)を結ぶような役割も担っているはずだ。その大学がある周辺地域の資産を知り尽くした研究の成果と、最先端の都市計画の知見を併せ持つのが国立大学の強みでもある。

国立大学として日本の都市計画研究をリードし、新しい智を集めて地域に最先端の手法をうまくビルトインしていくことができたら、変化する日本の都市の在り方にもプラスの循環が生まれていくことだろう。

特集記事