朝日新聞
 広告特集 企画制作:朝日新聞社メディアビジネス局
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国公立大学が創る未来 第1回 株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発部長 鈴木 健吾国公立大学が創る未来 第1回 株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発部長 鈴木 健吾

東京大学発ベンチャーの今、そして未来。
株式会社ユーグレナの“生みの親”、鈴木健吾が語る

東京大学発ベンチャーの今、そして未来。株式会社ユーグレナの“生みの親”、鈴木健吾が語る

やはり地球は消滅してしまうのだろうか。

環境の悪化や、地球の資源が枯渇する日は近いと、多くの有識者や研究者が声高に叫んでいる。「今はいい。ただ、あなたたちの子供の代に資源を残せるのか?」、そんなメッセージが世界中の学会で提言されている現状だ。

このように未来が危惧される中、世界から注目されている日本発の企業があるのをご存知だろうか?東京大学発ベンチャーとして知られる、株式会社ユーグレナだ。同社は2005年に創業し、ミドリムシを利用した食品の製造開発・エネルギー開発などを行い、現在はその技術を新エネルギーの開発へと投資している。

そんな期待値の高い同社だが、「ムシ」という響きから、創業当初は消費者に受け入れられづらかった過去がある。一時は、倒産という二文字が何度もよぎったと言うのだ。

「国公立大学が創る未来」を取り扱う本連載。この記念すべき一回目では、株式会社ユーグレナの取締役研究開発部長である鈴木健吾氏に話を伺った。文字通り、ミドリムシの屋外大量培養の生みの親である同氏が学生時代の起業や、大学での研究を振り返る。

鈴木健吾氏プロフィール
株式会社ユーグレナ取締役研究開発部長
東京大学在籍時からミドリムシの研究を行い、2005年に代表取締役社長 出雲充氏、取締役マーケティング部長 福本拓元氏と共に株式会社ユーグレナを設立。
【略歴】
2003年 東京大学 農学部生物システム工学専修 卒業
2005年 株式会社ユーグレナ 取締役 就任
2006年 東京大学大学院 農学生命科学研究科修士課程 修了

体長0.05mmの生物が、70億人超が暮らす世界の不整合を解決する

- 健康食品にもなり、燃料にもなる。そんなに万能生物であるミドリムシに鈴木さんが出会ったのはいつですか?

鈴木:学生時代に配属された研究室でミドリムシと出会いました。もともと、人にとって有益な資源を解明し、人の生活を改善していくテーマを選びたかったんです。

- 人の生活を改善したい、という思いがあって、手段として選んだのがミドリムシだったということでしょうか。

鈴木:そうですね。東京大学で現取締役社長の出雲と出会い、途上国の食料問題などについて話していたことも大きいです。また、そこに社会のニーズがあると感じたので、研究する生き物をミドリムシに絞り、ミドリムシが持つ可能性で社会の不整合を解決したいと思いました。

ミドリムシは1970年代のオイルショックから栄養価の面で注目されていたが、
大量培養ができず、実用できていなかった。

ミドリムシは1970年代のオイルショックから栄養価の面で注目されていたが、大量培養ができず、実用できていなかった。

- 大学院に在籍されている時にユーグレナ社の創業に関わりましたが、大学院での研究と、事業のための研究、大きな違いはありましたか?

鈴木:学術向けの研究と、実用化のための研究では毛色に違いがありますね。学術向けの研究では、100回、1000回やっても同じ結果が得られる再現性が重要です。しかし、実用化のための研究では再現性はもちろん、適正な価格での安定供給が求められます。

また、学術向けの研究は、成功しても、失敗しても、学術では「なぜそうなったか?」のディスカッションが大事なのですが、実用化のための実験では、失敗の理由が明確でなくても、とにかく成功すればいいのです。そのために、大胆な実験を何度もトライすることが大事なんです。

研究と起業。同時進行の先で見つけたものとは

ミドリムシの屋外大量培養に成功した頃の鈴木さんと出雲さん

- 東京大学で出会った出雲さん(代表取締役社長)が今もビジネスパートナーのひとりとなっているわけですが、なぜ、彼と起業しようと思ったのですか?

鈴木:バックグラウンドが違う人と組むのがいいなと思ったからです。出雲は金融やビジネスや世界情勢に詳しく、取締役マーケティング担当の福本はもともと機能性食品の会社で活躍する営業マンでした。

- 東京大学在学中に起業したわけですが、東京大学は起業の環境としては、どうでしたか?

鈴木:研究拠点が校内にあったことは大きなメリットでしたね。教授とのディスカッションが徒歩圏内でできますし、そのおかげで教授たちも親近感を持って接してくれたため、アドバイスを頂きながら新しいことにチャレンジすることができました。物理的な距離だけではなく、心理的な距離も近かったなという印象です。

また、大学の先生の研究チームと共同研究をするため、学術研究としてユーグレナ社からも論文の投稿ができ、結果としてミドリムシ研究自体の裾野を広げることになりました。会社事業・社会・学術の分野すべてにメリットがあるのです。

さらに、研究を続けるには、とてもお金が掛かるのですが、自分の研究したいことに対して、若くして予算をたくさんもらうことは難しいです。しかし、起業したことによって研究の予算やインフラが比較的用意しやすくなりました。ユーグレナ社がミドリムシの屋外大量培養に成功したのも、創業してからのことです。

東京大学内アントレプレナープラザで研究していた頃の様子

- 非常に順調な立ち上がりという印象ですが、その後、危機に陥ったということも伺っています。

鈴木:私たちはミドリムシが良いものだと信じているので、世間に伝える手段がなかったことが苦しかったです。

しかし、どうしても私たちの商品を買ってくれる人がおらず、会社の経営が苦しくなる。

一方で、私たちのビジョンに共感した人間が、続々と同じ船に乗り込んできてくれる。ただ、一緒に働いてくれるその仲間とその家族には絶対、迷惑をかけることは出来ないわけです。彼らに安定した生活を約束しているわけですから。

彼らにはちゃんと給与を払う分、創業メンバーは経済的に我慢する。開発中のミドリムシクッキーの試作品を食べて栄養をまかなうという時期もありました。

いち研究者だったら、自己責任で済みます。ただ、起業するとなると信じてきてくれた仲間を裏切ることになるかもしれない、という不安に常にさいなまれていましたね。

ユーグレナ社では、他社と合同で、対象のミドリムシ商品がひとつ売れるたびに
ユーグレナクッキー1食分をバングラデシュに届ける活動を行っている

東京大学内アントレプレナープラザで研究していた頃の様子

非常に順調な立ち上がりという印象ですが、その後、危機に陥ったということも伺っています。

鈴木:私たちはミドリムシが良いものだと信じているので、世間に伝える手段がなかったことが苦しかったです。

しかし、どうしても僕たちの商品を買ってくれる人がおらず、会社の経営が苦しくなる。

ユーグレナ社では、他社と合同で、対象のユーグレナ商品がひとつ売れるたびにユーグレナクッキー1食分をバングラデシュに届ける活動を行っている

一方で、僕たちのビジョンに共感した人間が、続々と同じ船に乗り込んできてくれる。ただ、一緒に働いてくれるその仲間とその家族には絶対、迷惑をかけることは出来ないわけです。彼らに安定した生活を約束しているわけですから。

彼らにはちゃんと給与を払う分、創業メンバーは経済的に我慢する。開発中のミドリムシクッキーの試作品を食べて栄養をまかなうという時期もありました。

いち研究者だったら、自己責任で済みます。ただ、起業するとなると信じてきてくれた仲間を裏切ることになるかもしれない、という不安に常にさいなまれていましたね。

ミドリムシエネルギーこそ、持続可能社会への切り札

バイオリアクター装置で培養されるミドリムシ

- 現在、エネルギーの研究も進められているようですが、これまでのエネルギーと何が違うのでしょうか?

鈴木:ユーグレナ社では、ミドリムシを利用したジェット用の燃料と、ディーゼル用の燃料の開発を行っています。

これまでの燃料は、化石燃料を主としていました。しかし、化石燃料は確実に尽きてしまいます。「持続可能社会」の実現のためには、石炭や石油といった古い資源に頼るのではなく、地球上で新しいエネルギーを作る必要があるのです。その切り札が、ミドリムシです。

1980年頃から、ミドリムシから燃料を作るという考え方が見出されるようになりました。研究を進めていく中でミドリムシの特徴として、豊富な栄養価や二酸化炭素の吸収に優れているだけではなく、燃料が作れることが分かり、エネルギー資源として注目され始めました。

持続可能社会には、あらゆる業界が注目しています。一見林業とは遠いような意外な会社が植林に関わっているなど、多くの業界、そして人が社会を維持することの重要性に気付いているのです。

実際に、ANAは上場前から私たちに出資をしてくれており、ジェット用の燃料は、2020年の実用化を目指しています。いすゞ自動車も、まだものがない状況でも、ディーゼル用の燃料開発に協力してくれ、今では湘南台でミドリムシ入りのバイオディーゼル燃料でバスが走っています。

- 様々なエネルギーがある中、ディーゼル用とジェット用の燃料に絞ったのはなぜですか?

鈴木:バイオジェット・ディーゼル燃料にしたのは、ミドリムシから得る油が利用しやすい性質であることと、プロダクトアウトの視点から考えてのことです。

マーケットから考えても、ガソリンは電気や他の燃料にとって代わられる可能性が高いのです。ただ、長距離輸送であるジェット機やディーゼル車用の燃料はエネルギー密度の高いものでないと運用できないため、社会のニーズが長らく継続しそうだと考えています。

ニーズがあるからこそ、出資や共同研究ができた。こうやって世の中に需要があるものを選んでいく必要があります。

- 2020年のジェット用燃料の実現以降の展望についても、お聞かせください。

鈴木:三重県多気町の火力発電所の近くに燃料用ミドリムシの培養プールを作っているのですが、これは発電所の二酸化炭素を吸収することで、ミドリムシが育てられるという仕組みです。この仕組みを拡大するのはひとつの目標です。

さらに、燃料を作ったミドリムシの残さのタンパク質を家畜のエサとして活用する研究もJAと共同で行っています。こうして、これまでに取り組んできた燃料と食料の取り組みの輪を広げていくという展望もありますが、他のレイヤーの拡充もしていきたいです。

たとえば、スペースシャトルが火星に到達する時には、ミドリムシを連れて行き、人の吐いた二酸化炭素を酸素にする役割を担わせてテラフォーミング(火星入植)のパートナーにするなど、ミドリムシを循環型社会のプレイヤーのひとつとして提案していきたいと考えています。

大学発ベンチャーが社会を変えていくために

鈴木さんとオフィス壁に書かれたユーグレナ社のメッセージ

- 後に続く大学発ベンチャーが、ユーグレナ社のように成功例を作っていくためには、何が大事だとお考えですか?

鈴木:何より大事なのは、オープンイノベーションだと思います。実際に、いまもユーグレナ社では東京大学、京都大学、近畿大学等と連携して研究をしています。

オープンイノベーションでうまく情報・経営・研究のリソースを共有して、何かのサービスの中で1番になったという成功例を作ると、一気にそこからのイメージがクリアになっていきます。それに、1番になると、いろいろな人が手伝ってくれたり、理解してくれたりするので、上手に加速することができるんですね。

大成する人は、自分の興味を広く定義する人が多いです。会社という入れ物を活用して、色々なことにトライしたらいいと思います。

大学に価値はあるか?

世界大学ランキングの順位が下がり、もはやアジアNo.1ではない日本の大学。さらに、大学全入時代へ突入し、大学に進学する価値が問われている。

本当に、日本の大学に昔ほどの価値はないのか?日本の大学はいま、社会にどんな影響を及ぼしているのか?

「国公立大学が創る未来」を取り扱う本連載では、大学のリアルを解き明かしていていく。

特集記事