朝日新聞
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国公立大学が創る未来第8回 専門性のマッシュアップが、サスティナブルな地域社会を創る。

大学は、あらゆる学問の専門機関として、国や地域、そして私たちに多くの智を還元してきた。

国や地域に対して大学が「何を」「どんな風に」貢献するべきか。その形は、時代背景によって変化し続けている。

今回は「バイオインフォマティクス」と呼ばれる生命情報学を専門とする東京工業大学の山田准教授と、「教育・研究・社会貢献」分野の横断的なプロジェクトを推進する横浜市立大学の鈴木教授にお話を伺い、それぞれの大学×地域の今を読み進めることで、「国公立大学が創る未来」を考えてみたい。

ゲノム解析を使った地域ブランディング【東京工業大学】

大学にしか出来ないような先進的な研究を通して、地域に価値を提供しようとしているのが、生物学のゲノム解析を研究分野にする東京工業大学の山田拓司准教授だ。

生物の遺伝子やDNAの性質などを分析するゲノム解析の研究成果を、どうやって地域と結びつけていくのか。「大学✕地域」のユニークな研究に迫る。

ぐるなびと共同で行うのは「微生物」の研究

山田准教授:現在、『ぐるなび』と共同で、日本の発酵食品を作る微生物のゲノムを解析し、地域ごとに存在する酵母・乳酸菌・麹(こうじ)のデータベースを作ろうとしているところです。

東京工業大学では、2016年の10月に『ぐるなび』と共同で、「ぐるなび食の価値創成 共同研究講座」を開設している。日本の発酵食品の文化を支える微生物を科学し、食のブランディングを実現することをテーマとした講座だ。

いま、山田准教授が作っているデータベースが出来上がれば、食材や食品を機能的価値や健康への効果など科学的根拠で評価し、ブランディングすることが可能になる。

ぐるなびが、これまでに構築してきた地方自治体や、飲食店・生産者などのネットワークを活用して、東京工業大学が各地方での調査研究を進め、現地の食に新たな価値を発見することで伝統食や地域をブランドアップすることを目指している。

山田准教授:ブランドアップというのは例えば、麹の種類で醤油や日本酒を選ぶ時代がやってくるかもしれない、ということです。

醤油や日本酒の原料となる麹をつくり出す微生物の「コウジカビ」のデータ化ができれば、ワインをブドウの種類で選ぶように、最終的には地域ごとに存在する微生物を求めて地方に旅をする「発酵食品ツアー」なども実現できたらいいなと思っています。

実はここ数年、ゲノム解析の分野は飛躍的な発展の真っ只中にある。世界各国が多額の研究資金を投入し、新たな事実の発見に期待が寄せられているという。

そんなゲノム解析の発展のカギを握るのは、山田准教授が日本の第一人者である「バイオインフォマティクス」の分野なのだ。

情報科学と生物学が融合して生まれた新分野

山田准教授:そもそも「インフォマティクス」というのは、「情報処理」を意味する言葉です。そこに生物学の要素をかけ合わせたものが、「バイオインフォマティクス」です。

簡単に言えば、ゲノムや遺伝子、DNAに関するこれまでの莫大な情報をビックデータとして管理し、欲しい情報をスピーディーに抽出・解析する学問です。

例えば人間のゲノム(ヒトゲノム)は、約30億の文字列から出来ています。ある特定の遺伝子を分析するために、30億もの文字の中から100個の全く同じ文字を探すには、かなり時間がかかりますよね。

山田准教授:長年、ゲノム解析の分野では、このように研究が始まる前の素材準備の段階で大きな手間が必要だったために、なかなか思うように研究が進んで来ませんでした。

しかし、分析ノウハウの確立と情報処理技術の向上により、実験スピードが大幅に加速。結果として、生物学の中でも謎に包まれていた部分が次々と解明されているのが今なんです。

今、微生物はもう一つの臓器に

「バイオインフォマティクス」の登場と、生物学の研究設備の進歩が合わさり、菌の研究が効率化してきたのは、2006年以降のこと。

このタイミングで、今までのゲノムに関する解釈を覆すような研究結果が出たことで、生物学の関係者たちは目の色を変えた。

山田准教授:ヒトやネズミなどの腸内には常在菌と呼ばれる無数の微生物が共生しています。これらの常在菌を持っていない状態のネズミ2群を用意し、一方には太った人間の常在菌を、もう一方には痩せ型の人間の常在菌を食べさせたところ、太った菌を食べたネズミが太った研究発表がありました。

この事実で何が分かったかというと、もともとその生き物が持つ遺伝子ではなく環境由来の微生物が、生き物そのものの姿を変える力を持つということです。これは人類にとってセンセーショナルな発見で、今、常在菌はもう一つの臓器とも言われているんです。

地域の味を見つけ出すために、日本の「発酵マップ」を作成中

ここで、話を『ぐるなび』との発酵食品の取り組みに戻す。 味噌や醤油、日本酒をはじめ、日本は世界的に見ても発酵食品が多い食文化を持っている。

しかも、例えば同じ醤油でも、地域によって味や製法は微妙に異なり、細かく集計すれば、その種類はかなりの数になる。山田准教授は、そこに目を付けたのだ。

山田准教授:発酵食品の種類が地域ごとにたくさんあるということは、それを作る微生物もたくさん種類があることを意味しています。同じ原材料であっても、それを分解する酵母や麹、乳酸菌によって、味も性質も違った物が出来上がるんです。

これらの微生物の中には、ある特定の条件下でないと生存できないものもあるので、もしかしたら「その地域でないと育たない微生物を用いた発酵食品」などもあるかもしれません。

地域ごとに存在している微生物を見つけ出す。いわば日本各地の「発酵マップ」といえるだろう。

確かに味噌にしても日本酒にしても「地域」ごとに味は異なる。それぞれの地域に特有の微生物がいるという仮説は、一般消費者である私たちにとっても想像に難くない。

このアプローチは、先進的な環境の整う東京工業大学ならではの研究の賜物といえるかもしれない。

山田准教授:食と微生物とのつながりをサイエンスに昇華して分析すると、どんな結果が導かれるのかを検証している段階です。ゲノムが分かる=微生物の能力が分かることなので、より発酵を進めるには、どの微生物と、どの微生物をかけ合わせれば効果的なのかを分析結果として導き出すことも可能です。

新しい発酵食品をカスタマイズすることもできるはずなので、そういったアプローチでも、この研究が地域の活性化やブランディングに活かせれば、と考えています。

地域と共に超高齢社会に挑む【横浜市立大学】

より地域と近い関係性を持つ「市立」の立場を理解し、長きに渡って横浜市と共に歩んできた横浜市立大学は、文部科学省が平成25年に募集した「地(知 )の拠点整備事業(大学COC事業)」の採択校となっている。

鈴木伸治教授が語るのは、全学的に地域と関わっていく大学の在り方だ。

2025年には100万人の高齢者を抱える横浜市にアプローチする

鈴木教授:COCとは、自治体と連携し大学の学部や学科の垣根を越え、「教育・研究・社会貢献」の3つを横断して取り組む事業です。私は、横浜市立大学のCOCの事業担当責任者を任されています。

実際に、横浜市と共同で複数のプロジェクトを行っている横浜市立大学。大学がある区内の高齢化が進むニュータウン「金沢シーサイドタウン」内の空き店舗をリノベーションし、さまざまな学部の教員と学生たちが地域と連携しながら活動を行うサテライトスペースも出来上がった。

事務局は、COC事業に携わる各学部の教員を支援する体制を整え、地域での活動がしやすい環境を作る努力をしている。

特に横浜市立大学全体として、今後避けることができない超高齢社会対応の取り組みを強化していくことが重要だと鈴木教授は話す。

横浜市内で高齢化率30%以上の地区
横浜市統計GISをもとに作成

鈴木教授:2025年には、横浜市では65歳以上の人口が100万人になることが予想されています。この100万人という数字は、現在の秋田県の人口(100.9万人、都道府県で38位)に匹敵します。

さらに、75歳以上の人口は60万人近くになるとの予測もされていて、これまでの日本では例を見ない、超高齢自治体になっていくのが目に見えています。

横浜市に限ったことではありません。少子高齢化が進む中で、どうやって都市をマネジメントしていくか。これは、私の専門である都市計画の分野では、ずっと危惧されてきたトピックです。

今まで主流であった都市計画における、街に建物を作るといった「ハード面」の対処だけでは、これらの問題をもはや解決することはできないのです。医療や介護などの「ソフト面」のサービスを地域の中で充実させていくことが重要になります。

異分野間での知識共有にも繋がるCOC

今後、高齢化した市民のケアに関する議論は避けて通れない。横浜市立大学の医学部が持つ高齢者のサポートやケアのノウハウ・リソースを活かすことは、今後のまちづくりにおける重要な要素だ。

鈴木教授:COCの取り組みが活性化すれば、さまざまな学問の知識が学内で共有しやすくなります。そうなれば、今まで学部や研究室単体で取り組んできた地域の課題解決につながる活動に対して、カバーできる課題の範囲や、着眼点が広くなっていくでしょう。

鈴木教授が受け持つまちづくりのゼミでは、看護学科と共同での調査を実施したり、歴史を専門とする他コースのゼミと共同で横浜市のメーカーと「社会に役立つお菓子」を開発し、市内での販売も行っている。

三陽物産×横浜市立大学のコラボレーション商品「ヨコハマのカモヘイマシュマロ」。
売り上げの一部が、横浜のランドマークの一つである帆船日本丸の保全活動に寄附される。

COCの取り組みの特徴は、大学で専門分野を学ぶ学生たちを、積極的に地域と関わらせていく点だ。しかし、地域の抱える課題に真剣に向き合うためには、学生を学外に出すことに対して大学側が注意しなければならない部分もあると教授は話す。

学生を地域のパートナーにする上で、大学が忘れてはいけないこと

鈴木教授:横浜市立大学のような地域に根ざした大学は特に、学外の方々とのパートナーシップをいかに円滑に組んでいくかが求められています。大学はあくまで教育機関なので、学生を地域活動に関わらせるのは、次世代を作る人材の育成が最終目的。

一方で、ただ学生を大学の外に出して、地域の方々に「一緒に活動してください」ではいけないと思うのです。大学側が学生を地域に送り込むことで、地域に対してもしっかり何らかの貢献ができなければ、地域の真のパートナーにはならないですよね。

学びの一環として学生が地域に出て行ったときに、対等に協働できるようにするためには、大学での教育も変えていく必要があると鈴木教授は話す。

地域に対して結果を残すためには、専門的な知識とは別に、コミュニケーションスキル等の社会において必要となるスキルを学生に身に着けさせることが重要になる。

鈴木教授: COC事業のような「大学✕地域」の取り組みが重要視される中で、大学の在り方や、学生の教育カリキュラム自体も考え直す時期にきています。

地域、行政、民間企業などにそれぞれの役割があるように、「大学にしか出来ないこと」を、地域に還元していくことが重要です。

大学が地域に対して真の価値を創造するために

大学と地域が関わる組織体系は、東京工業大学と横浜市立大学の2校を比べても分かるように、時と場合によってさまざま。

しかし、大学ならではの高度な知を提供することが求められることには変わりはない。また、双方の大学教授の共通の視点として印象的だったのは、これら研究機関の資金調達の重要性だ。

社会にとって効果的なプロジェクトを地域と絡めて行うためには、それ相応の予算と、期間が必要になる。

行政からの補助金や企業との共同研究費をただ受身で待つのではなく、価値のある研究内容を自ら提案し、資金を提供してくれた自治体や企業にしっかりと利益を還元することが、継続可能な関係性を生み、最終的な成果へとつながっていく。

「地域創生」や「次世代のまちづくり」が叫ばれ、持続可能な社会を模索する昨今の世の中で、日本を代表する国公立大学は、どんな未来へと導いてくれるのだろうか。