朝日新聞
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国公立大学が創る未来第7回【東大・京大】つめ込みの後は、“ひねり出し”。アイデアこそが、最高学歴の学生を最強にする

東京大学と京都大学。それぞれ、長い伝統があり、関東・関西の代表格たる大学だ。東京大学といえば、多くの官僚を輩出し、正に国家を動かしている人物達の出身校。京都大学は理系分野の基礎研究によって、数々のノーベル賞を受賞している、日本の知力の要。

どちらの大学も、日本の政治や学びを守り、率いているといえるだろう。そんな日本のトップ大学2校が、いま先進的な取り組みをしている。

これまでの日本に根付いたやり方を刷新させ、日本を進化させるための力を育てるための新しい取り組みを実践している。方向性は異なっているが、共通しているのは「発想力」。

東京大学・京都大学のそんな取り組みを動かしている人物に、発想力を軸に話を伺った。

Gunosyの創業者も輩出した、東京大学i.school

「イノベーション」という言葉が一般的に使われるようになって久しい。しかし、イノベーションを起こせるような人物にはどうやったらなれるのか?が具体的に論じられることは少ないだろう。

しかし、東京大学ではイノベーティブな発想を生み出すためのプログラムがある。東京大学i.schoolだ。新しい製品、サービス、ビジネスモデル、社会システムなどを生み出す能力を学ぶための教育を行っている。

本プログラム、いわゆるアントレプレナー教育とは少し違い、0から1を生み出すような、どうすれば良いアイデアが思いつくかというところにフォーカスしていると言う。

イノベーションはどう起こすものなのか?i.schoolエグゼクティブ・ディレクターを務める、堀井秀之先生に伺った。

東京大学 堀井秀之
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
研究テーマは、社会技術論・国際プロジェクト論・イノベーション教育論

霞ヶ関の人間も通う、社会人混同のプログラムとは

-- 本プログラム、創立されてからまだ8年ですが、Gunosyなど有名企業の創業者も輩出しているなど、受講者も粒揃いなのですね。

堀井:様々な分野の、様々なバックグラウンドを持った人がi.schoolに来て、新しい価値を生み出す方法を身につけて、それぞれの分野に帰って活躍しているのがi.schoolの特色ですね。自分の研究で活かす人もいれば、霞ヶ関で政策に活かす人、ビジネスで活かす人もいます。

-- ビジネスで生かす?社会人でも受講される方がいるのですか?

堀井:毎年、スポンサー企業が7社ほどいて、そちらの会社から社員が派遣されてきます。ワークショップのそれぞれのチームに、1人か2人の企業の方が配置されています。

ワークショップの様子

-- スポンサー企業というと、講師のような立場の方を派遣してくるようなイメージがあるのですが、一緒に研究し、考えていく形で参加されているのは驚きです。

堀井:スポンサーは、i.schoolで行なわれている“イノベーションのためのプロセス”を学びに来ています。それを自社にもどって、活かすという形で参加されています。官僚の方も参加されたことがあるのですが、誰が学生で、誰が官僚か分からなくなるくらいに一緒になって学んでいました。

イノベーションを起こすために必要な3要素

-- イノベーションを起こすために、プロセスの他に必要なものはありますか?

堀井:イノベーションを起こせる人になるために、必要なものは3つあります。

1つ目は、スキルセット。このスキルセットとは、先ほど言っていたプロセスを設計するスキルや、グループワークで人の意見を引き出したり、自分の意見をみんなに理解してもらうスキル、たくさんアイデアがあったときに良いものを選びだすための評価や選択のスキルのことです。

2つ目は、マインドセット。新しいことに挑戦することを大切に思う気持ちです。世の中には保守的で、リスクを避けたがる人が多いので、新しいことをやろうとすると批判されることもあります。

でも、新しい事をやらないと、良いものは生まれてこない。自分が正しいと思ったら、やり方は考えるべきだけれど、自分の良いと思ったことを貫ける信念を持っていないといけません。

3つ目が、モチベーション。マインドセットと似ているかもしれませんが、違います。モチベーションとは、なんのためにイノベーションを起こしたいのか?という目的のことです。

世の中を良くしたいですとか、世の中を自分の好きなもので埋め尽くしたいですとか、それぞれ違うでしょうけど、一体なんのためにイノベーションを起こそうとするかが大切です。

イノベーションを学ぶワークショップでは、i.schoolが開発する電子付箋APISNOTEを活用することも。

イノベーションを学ぶワークショップでは、i.schoolが開発する電子付箋APISNOTEを活用することも。

-- モチベーションのために、スキルセットとマインドセットを身につけるというシンプルな構造は、どんな仕事にも、必要不可欠な考え方だと思います。

堀井:いま、企業のリクルート活動でイノベーションワークショップを活用するプロジェクトが進行しています。社員全員に必要というわけではないですが、企業もイノベーションを生み出す能力を持った人を採用したがっているんです。

何社か共同でやるのですが、多くの学生が行きたがる人気企業なので、イノベーションワークショップを活用したリクルート活動をすることで、そういった能力が人気の企業には求められているという学生に対するメッセージにもなると思っています。

-- i.schoolでの活動のような就職イベントだったら、就活生も楽しめるでしょうね。

堀井:自分でアイデアを発想し、紹介し、褒めてもらうのはとても楽しいことです。楽しくなければ続かないですし、何事も楽しく継続することで、イノベーションを起こすような良いものは生まれるでしょう。

基礎研究のイメージが強い京都大学が仕掛けるのは、「デザイン学」

元素の発見や、生理学での発見など、基礎研究のイメージの強い京都大学。そんな同校には、「デザイン学」というプログラムがある。

しかし、京都大学にはグラフィックデザインやプロダクトデザインの専攻はない。一体、何をデザインしているのか?

京都大学のデザイン学のなかでも、“不便益”という考え方を研究している川上 浩司先生にお話を伺った。

川上 浩司
京都大学 デザイン学ユニット 特定教授
研究テーマは、共生システム論・不便益・知的システム設計

「左折ツアー」、「猫メディア」など新しい発想を生む“不便益”という考え方

-- 京都大学にはデザイン学部や学科はありませんよね。デザイン学ではどんな専攻の学生がどんな勉強をしているんですか?

川上:「デザイン」と言っても、服やインテリアの見た目のデザイン・意匠ではなく、「様々な専門領域の力を組み合わせて、世の中にある課題を解決するものをつくること」、といった意味の「デザイン」です。

京都大学の中でも、情報学・機械工学・建築学・経営管理・教育心理を専攻している学生がデザイン学の授業を履修することができます。

様々な分野の学生が集まって研究を行う

様々な分野の学生が集まって研究を行う

-- 一般的に考えられている「デザイン」とは一見遠いイメージのある専攻の学生が集まっているんですね。どんなものを作っているんですか?

川上:具体的には、建築物のデザインから街コミュニティのデザインをしたいと考えている人や、ビジネスやサービスをデザインしたいと考えている人など。「物」に限らず、システムや仕組みなどを含めての「もの」です。

デザイン学の中で、私が担当している不便益の演習では、ツアーコンダクターが付いて回るツアー旅行は、本当に誰にとっても印象の残る旅行になるのか?という疑問を持ち、ツアー会社のことぶらと「左折しかできない」というルールで京都を観光する「左折ツアー」などをデザインしました。

--「不便益」とは?

川上:不便益とは、ただ単に不便なことではなく「不便だからこそ役に立つ」という考え方です。

たとえば、ツアーですと、コンダクターがしっかりとスケジュールを立ててくれて、案内をしてくれた上で観光地を回るというツアーはとても楽で便利です。

ただ、それって誰にとっても印象に残る旅行になるかというとそうではないですよね。受け身の姿勢で旅行をしてしまって、印象に残らなかったという人も多いでしょう。かと言って、目的をまったく定めない旅行というのも実は難しい。

だからこそ、あえて不便な「左折と直進しかできない」というルールを要素に加えるのが面白いんです。その結果、旅行者は通らないような道を通ることになったり、そこに自分だけの発見があったり。

-- 不便なルールがあるけど、楽しめる。いま、旅行と写真とSNSは切り離せないので、自分だけが見つけた「京都らしさ」を体験できる左折ツアーはSNSでも話題になりそうです。

川上:SNSも、知っている人・知らない人と簡単につながれる上に、各々が自由に情報を発信できるのでとても便利です。ただ、人間同士の関わり合いである以上、利害関係や思い込みなど様々な問題が発生してしまうこともあります。

そこで、一緒に不便益を研究している室蘭工業大学と北海道教育大学の先生は、野良猫を地域コミュニティのメディアとして利用する「猫メディア」という実験をしました。

地域コミュニティつくりに野良猫を利用する

地域コミュニティつくりに野良猫を利用する

地域の野良猫の首輪にQRコードがついていて、それを読み取るとアクセスできる「猫メディアサイト」でその野良猫と関わった記録を書き込んで交流ができるんです。

つまり、QRコードを読み取れるほど近づいても逃げられないほど、その野良猫と仲の良い人しかそのメディアは見ることができません。一般的なSNSに比べるとかなりクローズドで、「簡単ではない」という点では不便ですよね。

でも、「可愛がっている近所の野良猫」という接点から、同じ地域に住む他の人の存在をより強く意識することができるんです。こういうことが地域コミュニティへの参加につながれば良いなと期待しています。

これまで応えられなかった課題に挑戦するためのデザイン

-- 「新しい発想」というと、より便利な自動化や効率化に繋がるイメージがありますが、デザイン学では「新しい発想」が「新しい価値」に繋がっているんですね。

川上:便利なものを否定するわけではなく、昔の不便さを懐かしむわけでもないのですが、自動化・効率化だけではニーズに応えられないこともあるので、不便益という考え方がデザインに活きることがあります。

人のニーズというのは数値で測れるものばかりではありません。もちろん、自動化や効率化で課題が解決することもありますが、研究や発明でより良い数値を追い求めること=人のニーズに応えること、ではなくなった時に、どうするか?が大事で。

不便益はそんな時に必要になる考え方のひとつですね。

不便益についての解説

-- 世の中に起きている、まだ解決されていない問題はもっと様々な視点から考えていくべきなのかもしれませんね。

川上:デザイン学では、社会の様々な課題に対応するために、ひとつの分野ではなく様々な分野の知見を合わせること、企業や行政、地域などの様々な声を聞くことが必要だと考えています。こうして、「社会をデザインする力」を身につけることがデザイン学の目的です。

今、世の中で良いとされていることも、まだ解決されていない問題も、様々な専門分野の視点から多角的に見て、考えていくことできっと新しい価値が見つかると思います。

「発想力」が日本を進化させる

自動化・効率化だけではいつか進化に限界が来るだろう。そして、それを変えるためのイノベーションは決して偶発的には起こらない。

良いアイデアを生み出すためのプロセスを学ぶ東京大学i.schoolでも、あらゆる専門分野の知見を合わせ、課題を解決しようとする京都大学デザイン学でも、育てているのは「発想力」だ。

東京大学・京都大学という、日本を代表する2つの大学が社会にもたらす「発想力」は、日本を進化させていくだろう。

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