Your Dream × Kumamoto University
長い歴史で培われた熊大スピリット
「人生の師となるようないい指導者を見つけてほしい」と話す原田信志学長
1949年に旧制第五高等学校(五高)などを包括し、文学部、教育学部、法学部、理学部、医学部、薬学部、工学部の各部をもって、総合大学として発足した熊本大学。長い歴史と伝統を持つ同大学で、求められる学生像について原田信志学長に聞いた。
「今年は夏目漱石が五高の英語教師として来熊して120年、没後百年にあたります。漱石は開校記念式典の祝辞で、『諸子今学生たりと雖(いえど)も、其一言一動は即国家の全局に影響するなり』と述べました。学生という立場であっても、社会の役に立つ人材でなければならないという意味です。そうした人材を育てるためには、単に知識だけでなく、学生に目的意識を持って能動的・主体的に『学問をする』ことを意識させなければなりません。そのために教員は、きっかけは与えるが教えない。学生は何事にも興味を持ち、疑問を抱く。これが『学問をする』原動力となります」
2013年、熊本大学はコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」を策定した。
「本学が長年かけて培ってきた根源的特質を表現した言葉です。熊大スピリットを、この言葉から伝えていきたい」
理想の大学を目指し三つの核を制定
熊本大学は「地域に根ざし、グローバルに展開する未来志向の研究拠点大学」というコンセプトのもと、研究のさらなるレベルアップに取り組んでいる。
世界水準の研究機能強化を目的とする「研究大学強化促進事業」と、地域社会に貢献する人材育成への取り組み「地(知)の拠点整備事業」(COC)、地域の国際化をけん引していくことを目指す「スーパーグローバル大学創成支援事業」に、これからの熊本大学を創る三つの核として力を注ぐ。
「研究分野では、生命科学、自然科学、人文社会科学の3分野で中心となる研究を育てます。すでにエイズ治療薬やマグネシウム合金、発生医学、パルスパワー、永青文庫関係の史料などの研究が注目されています。これらの取り組みを活性化させ、教育に落とし込んで、地域貢献にもつなげていきます」
4月に起こった熊本地震は、熊本県に大きな被害をもたらした。震災後、各部局の教員から、これまでの研究成果を復興に生かせないかと、さまざまな提案がなされたという。
「地域とともに発展を遂げてきた本学の使命として、『熊本復興支援プロジェクト』を立ち上げました。被災地でのまちづくりを始め、水循環の維持と地下水資源を保全するためのグランドデザインづくりなど、七つのテーマをもとにプロジェクトを進めていく予定です」
グローバル社会に向けリーダーの育成に尽力
新たにオープンした「グローバル教育カレッジ棟」
17年度から新設される「グローバルリーダーコース」では、今後、拡大していくだろうグローバル社会に向けて、五高の「剛毅木訥(ごうきぼくとつ)」の精神を受け継いだ「GOKOH SchoolProgram」により、4年間を通して国際対話力、情報発信力、リーダーシップを身につけるための教育を受ける。
「最初の2年間は英語を主体に教養教育を受け、3年進級時には希望する学科、コースを選び、高度な専門科目を履修します。文理融合型で学び、英語学習だけではなく、専門性を越えた仲間づくりをしてほしいと思います。私は熊本出身で大学院修了まで熊本で育ちました。熊本のことはよく知っていますし、関係も深い。世界に目を向けた研究拠点を目指すことはもちろん、地域連携を重視し、地域の核・拠点となりうる大学として、今後も進化していきたいと思います」
熊本復興へ向けて
早期復興を目指し「熊本復興支援プロジェクト」始動
熊本地震での支援を報告する太田光さん
2016年6月、熊本大学は原田信志学長をトップとする「熊本復興支援プロジェクト」の立ち上げを発表した。同プロジェクトは熊本大学の教育研究資源を活用し、早期復興を推進する計画で、県内外の産学官が連携して活動する。
熊本大学は、1887年創設の旧制第五高等学校時代から地域と深い関わりを持つ。原田学長は「地域コミュニティーの中核的存在であることを目指してきた本学が、今こそ熊本のために役に立たなければならない」と決意を語る。その言葉通り、震災直後に減災型社会システム実践研究教育センターや政策創造研究教育センターを主体とする「熊本地震災害 緊急調査団」を立ち上げ、教員らが災害の実態把握と、そのメカニズム解明のための調査を実施してきた。
その活動報告会では、大学院先端科学研究部の渋谷秀敏教授が「地震分布から見た2016年熊本地震の特徴」と題して、地震が発生した場所や原因について報告。同研究部の山尾敏孝教授は、熊本城や熊本県内にある石橋の被害の実態を伝えた。
報告会の最後に壇上に立ったのは「熊助組」の代表で、大学院2年生の太田光さん。熊助組は熊本大学の学生が07年に立ち上げた災害復旧支援グループだ。熊本地震発生直後の4月14日深夜、太田さんら熊助組のメンバーは学内の駐車場に集合。体育館に避難する住民らの誘導を始め、避難所の運営補助や支援物資が集まる拠点に学生を派遣した。
「がれきの撤去や支援物資の搬入、搬出など、目の前の『やるべきこと』に従事することも大切だが、被災した自治体や関係機関と連携して、円滑なボランティア活動を進めるためのシステム構築も必要だとわかった」と太田さん。「今回の支援活動を通じて学んだことを、今後に生かしたい」と抱負を語った。
Campus Topics
生命の謎を追及する発生医学研究所
ヒトiPS細胞由来の腎臓組織
発生医学研究所は、日本で唯一「発生医学」の名を冠した研究所だ。身体の成り立ち(発生)のメカニズムをたどり、必要な幹細胞と臓器の作製(再生)を探る研究を行っている。同研究所は、2010年に文科省の「発生医学の共同研究拠点」に指定され、12年には附属センターである臓器再建研究センターを設置。国内外の研究施設と連携した国際水準の先端研究とグローバル人材育成を進めている。13年、ヒトiPS細胞から腎臓組織を作製することに成功。構造が複雑な臓器である腎臓の再生医療への扉を開いた。その後も遺伝性難病の治療薬開発や発生・発がんの制御機構解明など多くの成果をあげている。
熊大発の最先端 パルスパワー研究
海外からの客員教授に指導を受ける留学生
熊本大学には国際的に評価の高い研究が多く存在する。その一つがパルスパワー研究だ。パルスパワー科学研究所では、パルスパワー科学技術の視点から、環境保全・循環型社会の実現など、国際社会が抱える諸問題の解決に取り組んでいる。日本の大学で唯一の「爆発実験施設」、国内で唯一の「バイオエレクトリクス総合研究施設」、世界トップレベルの「パルスパワー基盤設備」、世界初の「超重力発生設備」などを活用した共同研究を、国内外の大学や研究機関、企業の研究者と数多く行うとともに、国際的な研究環境のもとで、異分野融合型の国際的リーダーが輩出している。
質、量ともに全国有数 史資料を教育研究に
書庫に保管されている膨大な史料
「永青文庫」は、旧熊本藩主・細川家伝来の美術品や歴史資料などを所有・管理する財団だ。そのうち古文書などの史資料の大半が熊本大学附属図書館に寄託され、教育研究に活用されてきた。2013年、文学部附属永青文庫研究センターが解読した細川家文書(266通)が国の重要文化財に指定され、15年には5万7700点に及ぶ史資料の総目録が6年がかりで完成し、研究は新たな段階に入った。詳細な検討が必要な古文書も多く、これらの歴史の謎を解くための貴重な史料研究は、専門的な知識を身につけた学生も一緒になって進められており、さらなる歴史の発見に期待がかかる。