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国公立大学が創る未来 第3回 キユーピーとAOKI、産学連携だからこそ起こせたイノベーション国公立大学が創る未来 第3回 キユーピーとAOKI、産学連携だからこそ起こせたイノベーション

第二回でも紹介した、産学官連携。規模の大きなものを中心に紹介したが、企業と大学が連携して開発した商品は身近にもたくさんある。それらの中にはヒット商品も数多く存在し、私たちの生活を変えたものも少なくない。

今回は、キユーピーが2016年10月に発売したばかりのノロウイルス対策スプレーの開発に携わり、感染症対策を変容させようとしている東京海洋大学と、2000年という早い時期からAOKIと産学協同研究を進め、数々のヒット商品の開発に携わった信州大学の産学連携の軌跡について紹介する。

既存の分野を飛び出して活躍する 東京海洋大学×キユーピー

東京海洋大学 校舎
引用:https://www.kaiyodai.ac.jp/

毎年、社会的に問題となっているノロウイルス。子どもやお年寄りが罹患(りかん)すると重篤な症状になることも多く、また、感染力も高い、非常に危険なウイルスである。

しかもノロウイルスはアルコールで殺菌することが出来ない。対策としては、次亜塩素酸という、聞き慣れない薬品でしか行えなかったため、家庭や飲食店などで、日常的に除菌を行うのが難しかったのだ。

そんな中、マヨネーズやドレッシングなど、食品のイメージが強いキユーピーが、2016年10月12日、ノロウイルス対策に使える除菌スプレーを発売した。

これまでのノロウイルス対策を大きく変える画期的な商品だが、実は研究において東京海洋大学が大きく関わっているのだ。

卵に含まれる成分がウイルスを不活化する機構を解明

マヨネーズの原材料をはじめ、日本で年間に生産される卵の約10%を使用しているキユーピー。「卵の機能成分で何か新しいことができないか?」というキユーピーの相談から、東京海洋大学との連携がスタートした。

卵に含まれる「ある成分」には抗菌効果があることは古くから知られており、2012年にノロウイルス対策研究が始まった。

水産物を取り扱うイメージの強い東京海洋大学と、食品メーカーであるキユーピー。

一緒に「ノロウイルス対策」を研究するという流れは意外に感じるかもしれないが、食品衛生に関する研究や技術は、どんな食品を流通させるのにも必ず必要になる。

そのため東京海洋大学では水産物に限らず、多様な食品の衛生管理や保存について研究している。かたやキユーピー側でも30年ほど前から、卵に関する食品としての利用以外の研究も進めており、可能性を探っていたのだ。

開発を大きく進めたのは大学院生が進めた研究

キユーピー内の研究チーム
引用:https://www.kewpie.co.jp/RandD/special/project02.html

卵の成分でノロウイルス対策をするために最も重要だったのは、どの成分でウイルス対策ができるのか、ということだった。そこで東京海洋大学とキユーピーが目をつけたのは卵白に含まれる「リゾチーム」という成分

リゾチームを加熱して変性させると、殺菌作用が特定の菌から様々な菌へと広がることは10年以上前の鹿児島大学での研究論文で分かっていた。しかし、なぜ、加熱変性リゾチームの抗菌効果が広がるのかはまだ解明されていなかったのだ。東京海洋大学とキユーピーは、この仕組みが解明できれば、リゾチームの新たな活用法・可能性が見つかるかもしれないと考え、研究を進めた。

研究を始めてから約2年、様々な条件下で実験を繰り返した結果、「ノロウイルス不活化効果(毒性を失わせる)」のある「新機能リゾチーム」が見つかったのだ。東京海洋大学とキユーピーはこの成分に「ノロクリアプロテイン」と名付け、国際特許を出願している。

この研究は、当時共同研究に参加していた大学院生、仲沢萌美さんが「変性リゾチームを用いたノロウイルスの不活化」という演題で学会発表。日本食品微生物学会学術総会で優秀発表賞を受けた。大きな社会課題であったノロウイルス対策がこれまでと大きく変わり始めた瞬間だった。

2014年1月には新機能リゾチームの商品化のために「新機能リゾチームによるノロウイルス不活化製剤開発プロジェクト」が発足。そこから10ヶ月後の11月にはキユーピーはノロウイルス不活化効果のあるアルコール製剤を業務用で発売した。

10月12日にキユーピーが発売したケイ ブランシュ

そして今年10月には、一般家庭用の「ケイ ブランシュ」が発売となった。ネット限定の予約販売でありながら、小さな子供のいる家庭、受験生のいる家庭、お年寄りのいる家庭などを中心に、売れ行きは好調のようだ。

東京海洋大学×キユーピー、産学連携の今後の展望

東京海洋大学とキユーピーは、これからも衛生分野で共同研究を進めていくようだ。この連携は今回の商品開発で使われたリゾチームの発展性の研究だけにとどまらない

両者は、東南アジアからヨーロッパ諸国にかけて広がっている食中毒を起こすウイルスの対策など、衛生管理が必要な食品加工現場で役立てられる技術・商品などの研究を進めている。

キユーピーとの共同研究を統括している高橋肇(はじめ)助教は、「大学からの研究費だけでは、なかなか思うように研究を進められない中で、企業の要望や社会的な課題を共同研究で解決していくことは、研究に対するモチベーションが上がるのはもちろん、純粋な「学」の部分への波及もあり、良い流れを生み出している」と語ってくれた。

産学連携の先駆け的存在 信州大学×AOKI

スーツはこれまで、着用者の感じた着心地や動きやすさ、デザインなどの指標で評価されるものであった。いわば、全て主観的・感覚的な指標である。とはいえ、スーツの「着心地」は数値で表現されていなかった。

しかし、大手紳士服専門店AOKIはそこに科学的な裏付けを加えて、着用者にとって最高クラスの着心地を感じるスーツを作りたいと考えた。

このAOKIの商品開発への探究心こそが、信州大学繊維学部との協同研究の礎となった。

2000年に、信州大学繊維学部西松研究室との「着用シワの評価」に関する基礎研究を協同で行い、初めて「シワになりにくいスーツ」を商品化したことを皮切りに、2002年から産学協同研究による商品開発に着手。2003年には、産学協同開発商品 第1弾となる「癒し健康スーツ」を発売。以降、約15年間、信州大学とAOKIでは新しい価値を提供する様々な新商品を開発し続けている。

世界初の試みだった、「着心地の数値化」

着心地研究の様子

「着用シワの評価」の協同研究を行っていた頃から、定期的に信州大学繊維学部西松教授の研究室を訪れていたAOKIの商品開発室の担当者が、心を奪われたものがある。

西松教授主導で行われていた「着心地の計測・評価法」だ。これは、衣服圧や筋電図の計測、動作解析などを行うことで、着心地を評価すべき的確な動作の特定や解析方法を確立し、着心地を数値化する方法である。

改めて、着心地について説明しよう。着心地の向上のためには、生地の風合いから、型紙の設計、着用者の動作、衣服の変形など、着用者によって異なる様々な要素の中で、最適な条件は何か?を知る必要がある。

つまり、産学協同開発商品とは、AOKIが求める定量的な条件と、信州大学の研究が合致して生み出された賜物でもあったのだ。以降、信州大学とAOKIはスーツづくりのあらたな指標を生み出し、「ロイヤルコンフォートスーツ」「熱ブロックスーツ」「3Dスマート&スリムスーツ」などの商品をヒットさせた。スーツは歴史がある衣服だが、「着心地」が、着用者の体感値ではなく、客観的な数値で示されたのは世界で初めてのこと

さらに信州大学では、ジャケットの着心地や、シャツを着た時の体感温度を評価する人間型のロボットの開発が行われ、人間が衣服を着た時の感覚の全てが数値化することが可能となった。これも信州大学とAOKIがスーツの着心地に着目し、道を切り拓いたからこその結果だろう。

店頭に並ぶ新商品が、研究者のモチベーションに

基礎研究は、そのままではなかなか表に出ることはがないが、産学連携によって、商品開発に応用されれば、形を変えて世の中に出すことができる。

AOKIとの産学連携に長く携わる西松教授は、「基礎研究が商品になる喜びは、工学の世界ではとても重要。学生も、AOKIの店頭に新商品が並んだら見に行くほど、研究の喜びとしていて、モチベーションにつながっている」と語る。

基礎研究が商品として世の中に発信されることで、国内で唯一、繊維(テキスタイル)工学の教育・研究を行っている繊維学部の研究に興味を持ち始める若者もいるだろう。産学連携には、研究分野そのものに興味を持つ若者を増やし、栄えさせる働きがあるのかもしれない

国公立大学の産学連携事例の中では古参の部類に入る、信州大学とAOKIの協同研究も、まだ16年目だ。これから20年、30年と続いていくにつれて、2者は、まだまだ私たちを驚かせる商品を作り続けるだろう。

産学連携が、基礎研究・分野にもたらすメリット

大学内では多くの基礎研究が行われている。それらは日本の発明や技術を底上げするものであり、国の資産である。

しかし、その一方で多くの大学には、基礎研究を行うための研究費が足りておらず、思うように研究が進まないケースも多々ある。産学連携において、今回取り扱った、東京海洋大学とキユーピー、信州大学とAOKIのように、協同で行った研究・商品開発が、基礎研究の進歩・分野の発展にメリットをもたらすことは少なくないだろう。

日本の知力向上、すべての研究者が研究を続けていける環境作りのためにも、産学連携は大きな役割を担っていきそうだ。

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