Your Dream × Shinshu University
「異文化交流」と地域と歩んだ歴史
近年、受験生の地元志向が高まっている。そのなかで信州大学は長野県出身者の割合が26%と低く、7割以上を県外出身者が占める。北海道から沖縄まで全国から学生が集まり、キャンパスは各地の方言が飛び交う、「異文化交流」の場だ。
教育学部に在籍する山田大貴さん(2年生)は、1年次で「新しい価値観や異なった視点を得られた」という。新潟育ちの山田さん。沖縄出身の友人が長野の雪に感動しているのを見て、「そんなに珍しいのか」と、逆に驚いた。頭ではわかっていたはずだが、「地域による気候や風習の違いを改めて実感した」。
山田さんにとっては寮生活も初めての経験だった。「病気のとき、勉強に悩んだとき、パソコンが壊れたとき(笑)、多くの友人に助けられました」。人間は一人では生きていけない。友人のありがたさが身に染みた。「友人は一生の財産。自分もできることを増やし、友人と切磋(せっさ)しながら人間性を高め合っていきたい」
濱田州博(くにひろ)学長は信州大学の特徴に「多様性」をあげる。学生の多様性のほかに、キャンパスの立地もしかり。松本を中心に、長野、伊那、上田の4地域に五つ点在する。濱田学長は「タコ足大学とも呼ばれたが、今はそのことが長所になっている」という。地域貢献を重視する信州大学にとって、地域の課題解決は重要な役割。「地域によって抱える課題は異なります。例えば繊維学部がある上田は、もとは製糸業の街。繊維学部の前身も上田蚕糸専門学校です。キャンパスと学部の配置には、歴史的な背景があるので、地域から求められるものがマッチングしているんです」
各キャンパスは地域社会と大学をつなぐ「窓口」でもある。窓口が多いほど、地域からの声もすくい上げやすい。「タコ足」が信州大学の強みなのだ。
ロボットを埋め込む? サイボーグ化技術
(左)生活動作支援ロボティックウェア「curara®(クララ)」
(右)歩行アシストサイボーグ、体内埋め込みのイメージ
信州大学は学術面でも、学部間の垣根を越えた多様な研究を得意としている。2015年には、学内の研究者20人以上と企業が連携する「歩行アシストサイボーグプロジェクト」が立ち上がった。
もともと信州大学には、国際ファイバー工学研究所の橋本稔教授が10年前から開発してきた“着る”生活動作支援ロボティックウェア「curara®(クララ)」がある。体の不自由な人が衣服のように装着し、動作をサポートする機器で、サイボーグプロジェクトの目標は、curara®の実用化とこれをさらに進化させた、体内埋め込みの試作機を作ることだ。
プロジェクトリーダーは医学部教授で、整形外科医でもあるバイオメディカル研究所・齋藤直人所長が務める。専門は生体医工学で、カーボン素材を使った人工関節の開発も行っている。齋藤教授は体内に埋め込むメリットとして、次の三つを強調する。①介助者不要。現行機の多くは装着する際に介助者が必要で、着脱自体が大変。②持ち運び不要。旅行などに行きやすい。③使用環境を選ばない。トイレや入浴にも困らない。
齋藤所長はこれらのメリットから「20年後は埋め込み型の時代になっている」と予測する。
夢のように思える研究も大学の使命
プロジェクトリーダーのバイオメディカル研究所・齋藤所長
とはいえ、課題も多い。膝や股関節がスムーズに動くようにするには、ロボットにどのような動きをさせればよいのか、さらに生体に安心な素材の開発、体内に入れても安全な新しい蓄電池を作り、小型化すること……。現在の技術レベルでは、到底実現は不可能と思われるものも含まれる。「絵空事」と笑う人もいるかもしれない。
しかし、齋藤所長は「単なる夢物語ではなく、科学的な考察に基づいて真剣に取り組んでいます」と力を込める。「快適な未来を思い描き、今は『夢』のように思える研究に挑むことも大学の使命と考えています」
学長の声 President's voice
ゆったりとした時間と環境が独創力を育てる
信州大学 濱田州博学長
本学は国公立のなかで、一番標高の高いところにある大学です。農学部のある伊那キャンパスは標高700メートル超。アルプスの豊かな自然環境のもと、ゆっくり流れる時間のなかで、学生はじっくり学び、考えることができます。自分の考えを頭のなかで咀嚼(そしゃく)することで、独創性や発想力は養われます。都市圏の大学では得難い環境といえるでしょう。
研究面では、特色ある研究領域を集結した「先鋭領域融合研究群」の五つの研究所が特徴です。その一つが「カーボン科学研究所」で、本学が長年技術を蓄積してきたナノレベルの炭素繊維、ナノカーボンを使った研究が行われています。
また、蓄電池や燃料電池などエネルギー分野の革新的な材料を創製する「環境・エネルギー材料科学研究所」や、ファイバー(繊維)を工業資材や医療分野などに応用する「国際ファイバー工学研究所」も、注目度の高い研究を行っています。ほかにも、アルプスのある信州ならではの「山岳科学研究所」や、「バイオメディカル研究所」で行われている生命科学研究も、本学が得意としてきた研究分野です。これらの研究所の専門領域が融合された「歩行アシストサイボーグプロジェクト」は融合研究の好例といえます。
私は信州大学が目指す基本方針として、『三つの「G」と三つの「L」』というキーワードを打ち出しています。Gは「Green」「Global」「Gentle」、Lは「Local」「Literacy」「Linkage」です。
学生のみなさんには信州の自然豊かなキャンパスで環境マインドや、グローバルな視野を育んでほしい。そうすれば、他者にも自然環境にも優しい人になれるでしょう。それがジェントル、すなわち気高い人ということです。もともと本学は地域や産業界と連携の強い大学です。その強みを生かし、これからも独創的な研究と、新しいリテラシーを創造する存在でありたいと考えています。
Campus Topics
1. 世界の水問題を解決。水資源研究の国家的プロジェクト
国際科学イノベーションセンターでの研究紹介
信州大学、日立製作所インフラシステム社、東レ、昭和電工、物質・材料研究機構、長野県が共同提案した「アクア・イノベーション拠点」が2013年、文部科学省および科学技術振興機構が推進する「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に採択された。世界中の人々が安全で安心な水を利用できることを目指し、ナノカーボン製の水分離膜の研究を皮切りに、オールジャパン産学官連携体制で世界的な研究が進められている。
2. 長野の冬をホットに!繊維学部の学生が手がけた「軍手ィ」
ハナサカ軍手ィ(ぐんてぃ)プロジェクト
信州大学にはユニークな学生ボランティアサークルが数多く活動している。そのひとつが「ハナサカ軍手ィ(ぐんてぃ)プロジェクト」だ。スタートは2007年の冬。繊維学部の感性工学の学生が、地元の人たちの心と体を温めようと、オリジナルプリント柄の軍手を作成。商店街のイベントでプレゼントしたところ、デザイン性が話題を呼び、09年に「軍手ィ」と名づけて販売も始めた。現在はその売り上げでチビ軍手ィをつくり、長野県内の子どもにプレゼントする活動も。
3. 信州で初&唯一。学士(法学)が修得できる学部が誕生
2016年4月に入学した経法学部一期生の授業風景
2016年4月、経済学部が経法学部に生まれ変わった。同学部は経済学を中心に学ぶ「応用経済学科」と、法学を中心に学ぶ「総合法律学科」の二学科制。もともと信州大学の経済学部は、経済学だけではなく、経済活動には欠かせない法律の知識も身につけてほしいという方針から法学系科目が充実していた。その土台を生かす形で、学士(法学)が修得できる総合法律学科が誕生した。これによって、長野県では学士(法学)を養成する唯一の大学となった。
4. 未来の社会のために。独創的な研究が進行中
橋本 稔 教授
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手嶋 勝弥 教授
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信州大学では、超高齢化社会やエネルギー問題など社会が直面する課題に取り組む研究が行われている。今回はサイボーグプロジェクトの主要メンバーでもある2人の教授、着るロボティックウェア「curara®」の実用化を目指す橋本稔教授と、次世代型蓄電池を開発する手嶋勝弥教授に自身の研究について聞いた。
橋本稔教授の研究はこちら
手嶋勝弥教授の研究はこちら