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液体から固体へ 蓄電池の性能が劇的に上がる革新的な技術 環境・エネルギー材料科学研究所長 工学部 手嶋 勝弥 教授液体から固体へ 蓄電池の性能が劇的に上がる革新的な技術 環境・エネルギー材料科学研究所長 工学部 手嶋 勝弥 教授

Your Dream × Shinshu University

原理は塩の結晶づくりと同じ。次世代型蓄電池の開発

フラックス育成した結晶が拓く先端デバイス

私たちの研究室では結晶材料を作っています。結晶とは、原子や分子がきれいに並んだ固体のことです。理科の実験で、塩を100度のお湯に溶かし、そのお湯を冷やして塩の結晶をつくったことがありますよね。塩そのものを液体に戻してから結晶化させようとすると、融点は800度。一方、お湯という溶媒に溶かせば100度ですから、エネルギーも手間も少なく結晶を作ることができます。このように何にどんなものを溶かすと結晶ができるのか、その条件を見つけ出して、効率よく単結晶をつくる技術をフラックス法と言います。この技術でさまざまな元素を組み合わせて化合物をつくり、それをものづくりの材料として活用してもらおうというのが研究目的です。

現在、取り組んでいる研究の一つが全結晶(固体)型蓄電池の開発です。私たちが研究している蓄電池は、リチウムイオンが電解質を通じて正極と負極を行き来することで、放電と充電を繰り返します。今使われている電池は、正極と負極の間を埋める電解質が液体です。液体の中であれば、リチムイオンは自由に移動することができるためです。けれどもロスも多い。もしも電解質を固体にできれば、イオンが無駄なく素早く両極を移動できるようになり、その速度が100倍、1000倍にもなるという予測もあります。

そのため、世界中の研究者たちが電解質を固体化する方法を探していますが、一般的な蓄電池ではまだ実用化には至っていません。固体化というと、正極と負極で電解質を挟んで加熱して固めればいいと思うかもしれません。しかし、それではイオンが両極を移動する「道」ができません。イオンが通るための、わずか数ナノメートルという細い道、それを「伝導パス」と呼びます。この伝導パスを何本も開通させながら固体にしなければならないのです。

そこで私たちが考えたのが、フラックス法で電解質の結晶をつくり、正極と負極をつなぐという方法です。結晶とは原子や分子がきれいに並んだ状態ですから、裏を返せば、空間も規則正しくできています。きれいな電解質の結晶ができれば、この空間が『超』伝導パスになってくれると考えています。

また、物質本来の形(自形)のあるきれいな結晶には、それ自体が持っている性能を最大限まで引き出すことができるという特長もあります。電解質であれば、結晶化することで「イオンを通す」という性質が最大限になり、従来の蓄電池のエネルギー効率が飛躍的に向上すると予想できます。どこまで向上するのか、現状ではまだ夢の話です。現在の電気自動車は1回の充電で東京から熱海ぐらいまでしか走れませんが、もしかすると名古屋を超えて大阪まで、あるいは九州まで行けるようになるかもしれません。

今使われている蓄電池を高性能化する、世界初の技術

5V級リチウムイオン電池の実現に向けて(プレスリリース)

私たちの目標は、2030年までには全結晶型蓄電池を実用化させること。すでに結晶化の技術で正極材料をつくることには成功しました。次は同じ方法で正極の上に重ねて、電解質の結晶をつくっていく技術を研究しています。

その一方で、現在使われている蓄電池の性能を飛躍的に向上させる技術の開発にも取り組んでいます。その一つが電極表面の処理技術です。これは炭素、フッ素、ケイ素、酸素から構成される1.3ナノメートルという非常に薄い膜「フルオロアルキルシラン単分子膜」で正極材料を覆うだけで、電池が高性能化できるというものです。蓄電池は充電と放電を繰り返すうちに材料が劣化してしまい、その結果、放電容量がだんだん落ちてしまいます。けれども、この膜で正極を保護すると材料の劣化を止めることが可能になり、結果、蓄電池の耐久性が向上します。

また、これは予想していなかった効果ですが、この表面処理をすると、正極と電解質をリチウムイオンが高速で行き来できるようになることもわかりました。従来のものと比べ、3倍ぐらい速くなります。この速度が上がると、充電時間が高速化できるという蓄電池の高性能化につながります。

この処理技術は、すでに実用化を見据えて企業でのサンプルテストの段階に入っています。近い将来、この処理を施した蓄電池がスマートフォンやパソコン、電気自動車などに搭載されるようになると期待しています。

前歯を折って知った、不思議なアパタイトの粉

環境・エネルギー材料科学研究所長/工学部
手嶋 勝弥 教授 てしま・かつや/1972年、愛知県生まれ。2003年、名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了。信州大学工学部助手や准教授を経て、11年、工学部教授。日本フラックス成長研究会副会長。14年3月より現職。

研究の原点は、中学生のときに知ったアパタイトです。アパタイトとはリン酸カルシウムの化合物一つで、骨や歯の硬組織の主成分です。ある日、野球部の練習中に前歯を折ってしまったんです。歯医者で差し歯を入れてもらうことになって、まず歯茎に小さな白い粒を入れられたんです。「なんでこんなものを入れるのかな」と疑問を持ちました。

歯科医師さんに尋ねると、その小さな粒はアパタイトといい、差し歯をつけるときに入れると、生体と親和性の高いアパタイトが骨と馴染んで、よくくっつくようになると教えてくれました。そのときに「すごいな」「おもしろいな」と思ったのが、研究のきっかけになっています。大学時代、アパタイトの研究がしたくて入った研究室で、フラックス法を用いてアパタイトをつくっていたことから現在に至っています。

私は全結晶化蓄電池のほかにも、水をきれいにする材料や、太陽光で水素をつくる材料、バイオマテリアルや太陽光電池など、さまざまな材料を研究開発しています。いずれも最先端の研究ではありますが、やっていることは土の中で宝石や岩石が成長するという、自然界にある単純なメカニズムの応用です。ユニークな現象が自然界にはたくさんあるんです。例えば、ハスの葉の上で水滴がコロコロと転がることやヤモリが手足を壁につけてペタペタと上っていくこと、クモが切れない強い糸をつくれること……。しかも、生物はそのような行動に、さほどエネルギーを消費しません。現代のテクノロジーで同じ能力を再現しようとすると、膨大なエネルギーと非常に複雑な機器がどれほど必要になるでしょうか。

人間のテクノロジーでできることは、自然界の現象には遠く及びません。そこから学ぶことやヒントは、とてもたくさんあります。だからこそ日々、いろいろなことに興味を持ち、「なんでだろう」と不思議に感じてほしいと思います。その発見から、新しいテクノロジーが生まれるのです。

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