受け継がれ進化する門戸開放の精神
「研究第一主義」「実学尊重」「門戸開放」。この三つは、東北大学が建学以来、掲げてきた理念だ。「研究第一主義」に基づき、研究中心の大学として人間・社会、自然など広範な分野の研究を行い、研究によって得られた新たな知識・技術・価値を「実学尊重」の考えのもと、広く社会に発信する。そのため「門戸開放」の理念で人種や国籍、性別を問わず、優れた能力や実績を持つ学生や教員を迎え入れるというものである。
なかでも「門戸開放」に関しては、1913年、日本の大学として初めて女子学生の入学を許可した歴史がある。その伝統は今にしっかり受け継がれており、東北大学では多くの女性が活躍している。大学院医工学研究科の田中真美教授もその一人だ。
田中教授は医療福祉工学の分野でモノに触ったときの感覚、つまり触感を計測するセンサーの研究をしている。
「触覚はヒトの五感のうちの一つで、日常生活のさまざまな場面で無意識のうちに利用されています。つるつる、しっとり、なめらかなど、モノに触ったときの手触り感のよさや風合いなどを測定できるセンサーをつくり出したいと考えています」
田中教授はもともと振動工学を研究していたこともあり、モノに触ったときに発生する振動とその周波数に着目した。そして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)という機能性材料が感覚受容体の応答反応に似ていることから、この材料をセンサーに用いた研究が進んだ。
女性支援制度で内閣府から受賞

研究室で大学院生と話す田中真美教授

開発中の触感を計測するセンサー
田中教授が研究に集中できるのは、大学の大きな支えがあるからだ。東北大学には全学の職員が利用できる川内けやき保育園、星陵地区職員を対象にした星の子保育園があり、さらに病気の回復期で登園・登校できない子どもを預かる病後児保育室・星の子ルームまで備わっている。
「私も保育園を利用していましたが、預かってもらえてよかったというだけではなく、親同士、共通の話題もあるし、研究者が多いので仕事の面でもモチベーションが上がりました」
今後、青葉山キャンパスにも保育園ができる予定という。
女性への支援はほかにもある。工学系分野はまだまだ女性が少ないこともあり、工学を志す女子学生や女性研究者を支援する「東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)」を田中教授が中心となって立ち上げた。ALicEは女子学生・女性研究者の育成・支援、工学分野における男女共同参画意識の醸成、女子学生が将来継続的に働く意識を高めるためのグランドデザインづくりのために積極的な活動を行っており、それが評価され、平成28年度女性のチャレンジ支援賞(内閣府)を受賞した。
また、東北大学サイエンス・エンジェルなるユニットも存在する。小中高生に「女性研究者ってかっこいい」「理系進学って楽しい」という思いを伝えるために結集した東北大学の自然科学系女子大学院生たちで、次世代の女性研究者のロールモデルとしてセミナーやイベントに参加し、科学の魅力・研究のおもしろさを伝える活動をしている。
工業分野に生かしたい 女性ならではの視点

田中真美教授。大学院医工学研究科医工学専攻、および工学研究科ロボティクス専攻に所属。博士(工学)。生活のワンシーンを工学の側面から考える研究に多く取り組んでいる
「われらこそ 国のいしずえ」
学生歌のこのフレーズは、東北大学の学生を端的に表した言葉だと田中教授は言う。学生は積極的に、そして粘り強くコツコツ研究するタイプが多いとも。
「人々は日常生活において、無意識のうちに工業製品の恩恵を受けています。国の産業として工業は非常に大きい分野。そこに女性の視点が入ることで、もっと違ったものを生み出せるはず」と田中教授は力強く話す。しっとり、ふんわりなど、手触りのよさをキーワードに測定するセンサーの研究開発も、女性ならではの視点といえるだろう。
東北大学で工学系を目指す女性は少しずつではあるが増えているという。それは大学と研究者自身がともに環境を整えてきた結果ともいえる。
百年あまり前、最初に女性に門を開いた東北大学は、今も「門戸開放」を謳(うた)うトップランナーとして走り続けている。