学術スキルを学ぶ初年次ゼミナール

「社会を表す指標を検討する」授業での最終発表会の様子
2017年に創立140周年を迎える東京大学は、学びを支える独自の教育プログラムを展開している。その一つが、1年生が基礎的な学術スキルを身につけるための「初年次ゼミナール」だ。1クラスは20人前後の少人数で行われる。教養教育高度化機構初年次教育部門長を務める増田建教授は、「学生が自発的に学ぶ姿勢を養成したい」と話す。
理科では、全学の理系学部・研究科、研究所の教員が専門性を生かして授業を設計。「光の波動性と粒子性」や「『性』を科学する」など、計100授業を開講する。授業はすべてグループ共同学習で、プレゼンテーションや論文発表に至るまでの過程への主体的な参加を重視している。
「月曜日に緩衝液を作りたいのですが、先生空いていますか?」と学生が話しかけると、「午後5時以降なら大丈夫だよ」と増田教授が応じる。7月初旬にあった「光合成を科学する」の授業中の1コマだ。
「授業は基本的に学生の主体性に任せています。開講時に研究テーマを設定させ、座学で基礎的な知識を与えた後は、学生が自発的に研究を進めます」
仮説を立て、文献を読み、研究する過程で疑問が生じると、増田教授の出番だ。
「授業以外に毎週5時間以上、研究や文献調査などに費やすグループもいます。知的探求心を満たすようなテーマを上手に提示すれば、学生は進んで知識を得ようとします」
同日にあった文科の授業「社会を表す指標を検討する」では、これまでの学習成果を披露する最終発表会が行われていた。
「形式的『報道の自由』を脱する」や「国民投票の民主性を検証する」など、学生は各自が定めたテーマごとに仮説を立て、先行研究の検討や問題提起、仮説とその検証方法など、学習の成果を発表。8分間の発表が終わると、「宗教的価値観との関係をどう検証するのか」「問題意識と仮説の間に論理的飛躍があるのではないか」など、次々と質問や提案が飛び、学生同士、白熱した議論が繰り広げられた。
担当教員の岡田晃枝准教授は「幸福度や民主化度といった指標がどのように構成されているかを学び、最終的には学術的な議論ができることを目指しています。学術的な文献を批判的に読み、自ら問いを立て、論理的に検証するという学問のスタートを1年次からしっかり押さえ、今後の学生生活に必要な『知の技法』を実践的に学んでほしい」と話す。
新しい視野を開かせる体験活動プログラム
学生が今までの生活と異なる文化・価値観に触れることを目的とした「体験活動プログラム」は12年にスタートした。
要介護高齢者の生活状況を学ぶ「在宅医療・介護体験プログラム」や日系企業参入の可能性を探る「新興国インドでのマーケティングリサーチ」など、100を超えるプログラムを通じて新しい考え方や生活様式を学び、アイデアを生み出す力を身につける。
「医学と平和」に参加した医学部医学科4年の古川渉太さんは、14年にカンボジアを訪れた。首都プノンペンを拠点に、病院や地雷・不発弾撤去現場などを見学。現地の職員や日本人スタッフとの交流を通じて、これまでの取り組みや今後の課題について話を聞いた。
古川さんは「プログラムに参加して、新たな課題を突きつけられました」と話す。
「参加する前は、『途上国で何ができるのか』ばかりを考えていましたが、そこに『現地の文化を尊重する』視点が欠落していました。現地職員との交流を経て、先進国の援助は価値観の押しつけになるケースもあると知ったので、今後は現地の歴史や経済に関する勉強もしたい」
東京大学にはほかにも海外留学プログラムや、教養学部英語コース「PEAK」の科目履修など、異なる文化や価値観に触れるさまざまな機会がある。
多様な学生構成を実現するために

地雷・不発弾撤去現場を訪れた古川渉太さん(左端)
東京大学は今、学生の多様性の促進に注力している。全国7会場での主要大学説明会開催のほか、女子学生による母校訪問の実施、自宅外通学となる女子学生向けに返還義務のない「さつき会奨学金」の設立、さらに来年度からは、自宅から通学困難な女子の学部新入生のために、安心・安全なマンションなどを100室程度用意する予定で、首都圏以外の出身者や女子学生の入学を歓迎する。
独自のプログラムに加え、学生の多様性を促すことで、さらに活気ある大学となるだろう。