大学受験予備校として60年の歴史を誇る代々木ゼミナールは、大きく変わりつつある教育の潮流を捉えた様々な取り組みを行っている。そうした改革の狙いと、その背景にある若者たちへの変わらぬ思いを、高宮敏郎共同代表に聞いた。
若者たちの未来の可能性を応援したい

SAPIX YOZEMI GROUP共同代表
学校法人高宮学園 代々木ゼミナール 副理事長
高宮 敏郎 さん
たかみや・としろう/1997年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年学校法人高宮学園に。米ペンシルベニア大学で大学経営学を学び、教育学博士号を取得。09年から副理事長。現在、SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。
人間の仕事の多くが、いずれAI(人工知能)に取って代わられる。そんな話は遠い未来の出来事だと思っている人がいるかもしれません。しかし変化は、すでに足元で起こっています。
たとえば時価総額の大きい企業や役員報酬の高い会社のランキングを見ると、一般の人には少し意外な名前が上位に入っていることがあります。実はそうした企業の多くは、工場などのオートメーション化に貢献するシステムや製品の提供で業績を伸ばしています。人間から仕事を奪う産業が成長している、というのは言い過ぎかもしれませんが、こうした流れに私たちはもっと敏感であるべきでしょう。
もちろん、機械によって便利になったことはたくさんあります。私たち代々木ゼミナールでも、生徒たちの学習状況を管理・支援するスマートフォンのアプリを活用していますし、VOD(ビデオ・オン・デマンド)方式による授業配信には以前から取り組んできました。
近年の入試や教育環境の変化を踏まえた対応は、ICTの活用だけにとどまりません。たとえば英語の4技能、なかでも会話力の向上に重点を置いた個別指導講座や、大学入試改革を見据えた論理的思考力の評価試験「SRT」など。この1年ほどの間に、相次いで新しいプログラムがスタートしました。
ずいぶんあれこれ手を広げているように思われるかもしれませんが、私たちの根幹にある思いは何ひとつ変わっていません。それは、若者たちの未来の可能性を応援したいということです。良きにつけ悪しきにつけ、時代は移り社会は変化し続けています。教育のニーズもますます多様化するなかで、予備校だけが旧態依然というわけにはいきません。今後も私たちの核になるのは大学受験指導ですが、そこを中心に同心円状に取り組みを広げ、幅広いニーズに応えたいと思っています。
基礎的な学力は自分を裏切らない
冒頭で私は、これから多くの仕事が機械に置き換わっていくだろうという話をしました。では教育はどうか。個人的には、教育がAIだけで完結することは将来も決してないと考えています。
教育も一面ではサイエンスなので、この訓練をすればこの力が伸びるというように、結果をかなり正確に予測し、検証し、再現できる部分があります。一方で、教師のかけた言葉や仲間の応援が、生徒の意識を一瞬で変えてしまうこともある。人の内面から発したものが人に作用する、いわばアートとしての側面が教育にある限り、今後も教室という場の価値が変わることはないはずです。
近ごろは、大学入試をどう変えるか、それに伴い中等教育をどう見直すかという論議がさかんですので、生徒たちはともすれば自分がこれまで受けてきた教育が間違っていたように感じるかもしれません。しかし大学入試新テストが求める思考力、判断力、表現力も、基礎学力があって初めて身につくものです。コツコツ積み上げてきた学力は決して自分を裏切らないので、自信を持って今の学習を続けてください。
時代は常に変化し、知識もすぐに古びていくとしたら、学ぶことに何の意味があるのか。そう考える人がいるかもしれません。しかし私は、学びの目的とは、突き詰めていえば「学ぶ力」を養うことだと思います。未知の状況に対して自分で新たな答えを見つけられる。そのために自分で学び続けることができる。代ゼミはこれからも、そんな人を育てていきます。(談)