アクティブな英語能力を高める
東京大学に入学すると、全学生が駒場キャンパスにある教養学部に所属し、2年間にわたって幅広い教養や知識を身につける教育を受ける。そのなかでも、英語の発信力を養うために1年生の必修科目として行われているのが、東大独自の学術英語ライティングプログラム「ALESS/ALESA」(アレス/アレサ)とスピーキングプログラム「FLOW」(フロー)だ。
これらの授業はすべて、英語で行われる。いずれも1クラス15人程度の少人数制で、教員と密接に議論できる態勢にある。指導を担当するのは、さまざまな国出身の教員約30人。ほぼ全員が博士号を持つ研究者でもある。各プログラムを開発、運営する東京大学教養学部附属グローバルコミュニケーション研究センターのセンター長、トム・ガリー教授は、次のように紹介する。
「現代のグローバル社会においては、『書く・話す』という能動的(アクティブ)な英語能力を養うことは極めて重要です。英語力だけでなく、考える力、論理的に表現する力をも高めるプログラムとなっています」
英語で論文の執筆とプレゼンを行う

ICT 支援型協調学習教室 KALS
2008年、理系1年生を対象に英語の科学論文の書き方を学ぶ「ALESS(Active Learning of English for Science Students)」を必修科目として開始。そこで学生たちは自ら科学実験をデザインし、その結果を論文としてまとめ、英語でのプレゼンテーションも行う。
このALESSのメソッドを活用し、13年にスタートした「ALESA(Active Learning of English for Students of the Arts)」は、文系1年生の必修科目だ。こちらは学生が自らテーマを設定して調査・検討し、英語の論文を執筆。プレゼンテーションや討論を行い、社会に出ても通用する英語力を養う。
今年6月下旬、ALESSのクラス。科学論文冒頭のタイトル、アブストラクト(要約、要旨)がいかに重要であるかなど、執筆する際のポイントや作法を学ぶ講義が行われた。
「タイトルは10~12語程度の短さが求められ、アブストラクトには、その科学論文で最も大きなインパクトをもつ言葉をキーワードとして盛り込まなくてはいけません」
クリストファー・マキュワン特任講師が注意点を説く。その後、「レム睡眠の減少と肥満の関係性」をマウス実験で検証した論文のアブストラクトを各学生に手渡す。
「これを読んでタイトルを推測してください。まずキーワードと思われる単語を丸で囲みましょう」と呼びかけると、学生たちは作業に入った。
学生からは論文の内容についての質問も飛び出す。こうしたやりとりも挟みながら、1コマ105分の授業は進む。
理科Ⅱ類1年の鹿野友美さんは、「英語オンリーの授業を経験したのはALESSが初めてで、最初は戸惑いました。専用の実験室『ALESS Lab』を備えており、やりたい実験をすぐにできる環境があるのも、この授業の画期的な点だと思います」と語る。
多角的なアクティブ・ラーニングは、施設にも表れる。「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)」は、最新のIT環境を備えるだけでなく、ディスカッション、グループワーク、製作活動など、幅広い学びに対応できるよう、教室のレイアウトが自由に変えられるようになっている。
研究の場や社会で必要な会話力を養成

東大駒場キャンパス1号館
理系・文系共通のプログラム「FLOW(Fluencyーoriented Workshop)」では、さまざまなテーマを議論・討論し、研究の場や社会で必要となるスピーキング力と批判的精神を養成する。
「毎週、刺激を受けています」
と楽しそうに話すのは、理科Ⅰ類1年の濱祐輝さん。バイオマテリアル分野の研究職を目指す理科Ⅱ類1年の江目(ごうのめ)皓祐さんは、「将来、英語で議論することはとても重要になると感じています。FLOWでは簡単な単語でもいいから、英語で自分の意見を伝えることが一番大事だと教わりました」と語る。
徹底したアクティブ・ラーニング型の英語の取り組みを積極的かつ効果的に運営できるのは、同じく必修科目「教養英語」が培う知的な英文を読み解く英語力がベースにあるからだろう。教養としての英語に今も重点を置いている東京大学の伝統が、革新的な英語教育に挑める土壌となっている。