来年4月、長野県に新しい県立大学が誕生する。グローバルマネジメント学部と健康発達学部の2学部で、1年次全寮制や2年次の全学生が参加する海外プログラムなど、独自の修学環境を予定している。阿部守一長野県知事、元ソニー社長の安藤国威理事長(予定者)、慶應義塾大学名誉教授の金田一真澄学長(同)の「産学官三役」が大学の理念や抱負を語り合った。
長野県の可能性を世界と結びつける
阿部守一知事 長野県はしばしば教育県と称されますが、私は常々「学習県」にしたいと考えてきました。老若男女、誰もが向学心が高く、とても勤勉な県民性だからです。長野県立大学には、主体的な学びを尊ぶ長野県のシンボル的な存在になってほしいと願っています。
安藤国威理事長予定者 米国のシリコンバレーでは、大学がイノベーション(革新)の起点になるケースが少なくありません。理事長として長野県立大学が中核となって企業や自治体、金融機関などと協力しながら新しい産業や価値を創造していく仕組みを整えたい。
金田一真澄学長予定者 経営者だった安藤さんならではのビジョンですね。私はグローバルな視野を持って地域に貢献できるリーダーを養成したい。長野県が持つさまざまな可能性を世界と結びつけるリーダーとしての役割を担う若者が、ますます必要になることでしょう。
安藤 長野県立大学の理念は三つのキーワードで表せます。リーダー輩出、地域イノベーション、そしてグローバル発信です。どれも重要なものばかりですが、生きる支えとなる専門知、進むべき道を指し示す教養知などを融合する知識は、大学を構成するすべての基盤になります。
独自カリキュラムで少人数教育を実現
企業や自治体などと協力し、新しい価値創造

安藤国威 理事長予定者
阿部 知識の吸収には、教える側も教わる側も貪欲(どんよく)であってもらいたいですね。一方で長野県立大学には、シンクタンクのように県の課題解決に向けた研究機関であることも期待しています。
金田一 地域社会に貢献することは県立大学の大きな使命です。グローバルマネジメント学部では、県内にあるさまざまな資源や人材を活性化するためのプランニングを行い、実行に移します。また、健康発達学部(食健康学科、こども学科)では長野県の特長である健康長寿の維持や、信州型自然保育を推進するなど、地域とともに歩む大学としていきます。
安藤 現代はビジネスもライフスタイルもインターネットによって激変しました。世界と地域は直結しているといっても過言ではないでしょう。世界的な視野で地域を考える“グローカリゼーション”を身につけるため、長野県立大学は独自のカリキュラムを構築しました。
金田一 1年次からの「発信力ゼミ」や「英語集中プログラム」で、対話重視の少人数教育が特長です。前者は学部混合で、16人程度のクラスで大学教育に必要な基礎能力を高め合うプログラム。自分の意見を的確な言葉で伝え、相手の意見も尊重するようなコミュニケーション能力が飛躍的に伸びることが期待できます。後者は25人程度のクラスで、週4回みっちり英語も学びます。TOEIC®600点相当以上の力を2年次修了までにつけることが目標です。その後に、2年次の全学生が参加する短期海外研修を実施。語学だけでなく、専門分野の実習なども予定しています。

金田一真澄 学長予定者
全国から集い、大きな夢に挑戦できる場に
安藤 研修先は米国や英国、スウェーデン、ニュージーランドなど、世界6カ国を予定。異文化体験や英語によるプレゼンテーション、現地の学生との交流を通じて、ビジネスマインドを持ったグローバルリーダーの資質を磨きます。
金田一 健康発達学部にもグローバルな視点を持ったリーダーシップが必要なのか、と感じる人がいるかもしれません。ボーダーレスな時代、世界と関わりを持たない学問分野はほとんどありません。海外で知見を広げることは重要ですし、例えば管理栄養士を目指すのであれば、日本食の素晴らしさを客観的に分析することで、より深い学びが身につきます。
安藤 学生のキャリア支援のため、県内外で活躍する企業経営者などを招いた実践的な講義も予定しています。このプログラムは「象山学」としました。
阿部 江戸時代末期の思想家・佐久間象山先生は信濃出身で、江戸に開いた私塾から勝海舟や吉田松陰、坂本龍馬などの偉人を送り出しています。象山先生にあやかって、新しい時代を拓(ひら)く原動力になってほしいと思いました。
起業家精神育み キャリア構築後押し

阿部守一 長野県知事
新しい時代を拓く原動力になってほしい
金田一 善光寺の近くには1年次を対象にした全寮制の「象山(ぞうざん)寮」も建設中です。ICカードによるセキュリティーシステムで安全・快適な生活ができ、長野らしい健康的な朝食が食べられます。共同生活のなかで、授業では得られない新鮮な学びを習得できることでしょう。全国から大勢の若者が集い、大きな夢に挑戦できる場にしたい。私が新入生全員と直接話して、将来の夢を聞きます。
安藤 さらに学生寮に併設してソーシャル・イノベーション創出センターもつくります。このセンターは産学官連携を推進するユニークなもので、多様な価値観を持つ人たちと交流できることが魅力です。さまざまな体験を通じて起業家精神を育み、主体的なキャリア構築を積極的に後押ししたいと考えています。
阿部 地域に必要なのは「ひとづくり」。少子化の時代だからこそ、「あのとき県立大をつくってよかった」と将来県民のみなさまに振り返ってもらえる、あるいは全国から“長野モデル”とお手本にされるような、価値ある大学にしていきたいと思います。