1年次から16人の通年ゼミを体験

山本直樹准教授(右手前)の「発信力ゼミ」は心と体をたっぷり動かす。みんなで拍手して授業が終了
扉が重くて開かない。その状況を一人の学生がジェスチャーだけで表現する。すると、見ていた別の学生が状況を察し、目に見えない扉を引っ張ったり、叩いたりして手伝い始めた。
「自分が発信して伝わった喜びを感じてほしい。扉といっても、ドアもあれば引き戸もあるから、なかなか伝わらないこともある。相手を何とか理解しようとする姿勢も大事です」
と、山本直樹准教授は学生たちに語りかける。
これは、4月に開学した長野県立大学の1年生を対象とした「発信力ゼミ」の一コマだ。大学にはグローバルマネジメント学部と健康発達学部があり、週1回、全員が受講する。「自分から発信する力」を1年間かけて養い、論文の書き方、プレゼンテーションの方法など、大学での学習に必要なスキルも身につける。
学部、学科を横断して約250人の学生を15クラスに分けるので、自分と思考の異なる学生と出会う機会にもなる。授業の進め方は15人の担当教員に任されている。演劇が専門の山本准教授は、演劇的手法を使って発信力を磨く。半年後にはみんなで人形劇を上演する予定だ。
「多様な学生が集まって一つのものを作るだけでも意味がある。失敗してもいいので積極的に発信し、うまくいかなくてもやり抜いてほしい。その経験は社会でも役立つはずです」
海外留学に備え 英語教育に力を注ぐ

学生から意見を引き出す金賢仙准教授(左)
別の教室をのぞくと、法律を専門とする金賢仙准教授の「発信力ゼミ」が行われていた。こちらは学生が4人ずつのチームに分かれ、架空の株式会社設立のプランを練っている。出張理髪サービス、結婚式場などの事業計画を立て、資金調達のためのプレゼンテーションをする。
「株式会社の仕組みを学んだ上で、長野県内の上場企業について研究、発表します。聡明で遊び心のある学生が集まっているので楽しみです」(金准教授)
金田一真澄学長は発信力ゼミについてこう話す。
「少人数教育のよさを1年次から味わってほしくて始めました。一人ひとりに時間をかけて指導するには10数人が限度です。20人になると多すぎます。双方向での対話型の授業が、本学がめざす教育の原点です」
2年次からは専門分野のゼミがスタートする。専門は3年次からの大学が多いが、
「早くから専門分野の面白さに触れてもらいたい。人生100年時代の今、学びの楽しさを気づかせることは教育者の使命の一つ。楽しい、面白いと思えたら、人は生涯学び続けることができる。大学を卒業してからも持続的に学び、伸びていくことが大事なんです」
と話す。2年次に全員が海外研修に行くのも特徴的だ。
「海外研修は短期でもかなり充実したものを予定しています。長期のほうが、英語力がつくという意見もありますが、せっかく優秀な教員とカリキュラムが整っているので、やはり長野県立大学でじっくり学んでほしいと考えています」
当然、英語教育にも力を入れている。海外研修という具体的な目標を設定し、1年次には週4回の英語の授業を行う。英語専任の教員は9人体制を取っており、うち4人はネイティブスピーカーだ。2年次の終わりに全員がTOEIC600点以上を取ることをめざす。
寮で育つ協働力やコミュニケーション力

地元長野県産の木材をふんだんに使用したキャンパス
こうした新設大学らしいユニークな制度の中でも、開学前、賛否両論あったのが1年次全寮制だ。しかも個室ではなく2人部屋である。
寮生活が始まってから、金田一学長は寮を訪れ、新入生全員と面談した。すると学生からは異口同音に「寮は楽しいし、すごく刺激的だ」という感想が飛び出した。
「私たちは世界を舞台に活躍できるリーダーの輩出をめざしています。これからのリーダーは学力、語学力だけではなく、困っている人に声をかける温かさも大事。寮生活で人間力やコミュニケーション力を磨いてほしい。幅広い教養に加えて、核となる専門分野を持ち、グローバルな視野で考えられる若者を育てたいと思っています」
現在の入学試験は学力テストと面接が中心だが、今後はより個性的で伸びしろのある学生を受け入れていく方針だ。