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スペシャルインタビュー 備えて安心地震の話 震災はもう“非日常”じゃない。誰もが自分事として、地震リスクに備えるべき時代です。避難時の備え。経済的な備え。 ファイナンシャルプランナー 清水 香さん

2011年の東日本大震災からわずか5年。今年4月に起こった熊本地震は九州だけではなく、日本全国に大きな衝撃を与えました。さらにここ数カ月、関東で小規模な地震が群発するなど、日本は今もなお揺れ続けています。そうした中、着実に高まっているのが災害対策への意識です。地震発生後の暮らしを支える「地震保険」への加入も、万が一の備えとして押さえておくべきポイントでしょう。今回は『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)などの著書を持つファイナンシャルプランナー清水香さんに、地震保険の役割や仕組み、重要性を伺います。

リスクの高まりを伝える保険料の改定

――地震保険は、戸建て住宅だけでなく分譲マンションでも加入できるんでしょうか?

清水さん 分譲マンションの専有部分については、住宅と家財について区分所有者がそれぞれで加入します。躯体、エントランス、貯水槽、エレベーターなどの共用部分についてはマンション管理組合が一括で入ります。共用部分についても、火災保険金額の30~50%の範囲内で地震保険金額を設定できますので、火災保険の契約金額が1億円ならば、地震保険は最大5000万円が上限となります。

――共用部分が被害を受けると、修繕もかなり費用がかかりそうですね。

清水さん 地震保険の契約をしていなければ、マンション管理組合が積み立てている修繕積立金が頼みです。ですが、十分なお金が貯まっているマンションばかりではないでしょう。住民の追加負担を検討することになりますが、住民の抱える経済事情はそれぞれですから、負担が難しい世帯もあるかもしれません。そうなると再建に向けた合意は難しくなりますが、この時に修繕のための財源が確保されていれば、話は変わってくるでしょう。

――生活再建への前向きな検討ができるようになると。

清水さん おっしゃる通りです。マンションの地震保険は、住民同士が再建への道筋を話し合えるようになる「合意形成のツール」といえます。実際、東日本大震災では、仙台でも多くのマンションに損害が発生しましたが、修繕資金の有無が管理組合の合意形成を左右し、特に地震保険の保険金を受け取れたかどうかで復旧工事に大きな影響が出たと聞きます。機会を捉えて、ぜひ住民の皆さんで加入の確認・検討をしていただきたいですね。

――ちなみに、2017年1月から地震保険料が改定になるそうですが、その点はいかがですか?

清水さん 都道府県や建物の構造によって、保険料が引き上げられるところと引き下げられるところがありますが、全国平均では5.1%ほど引き上げになる予定です。引き上げとなると、つい金額だけに意識が向きがちですが、むしろ大事なのは、保険料が上がる「意味」を知ることです。一般的な保険商品は、過去の統計データから発生確率を割り出して保険料が算出されますが、地震保険は国が予測する将来の地震の発生予測に基づき、被害レベルをシミュレーションして保険料を算出しているんです。

――将来の地震リスクの予測データが、保険料の基本になっているわけですね。

清水さん 先ほども申した通り、地震保険は保険会社の利益にならない保険なので、保険料が上がるということは、地震の発生で被害が生じるリスクが高まっており、多くの保険金が支払われる可能性の高まりを示していることにほかなりません。もし自分の住んでいる地域の保険料が上がっていれば、「今から備えをしなくちゃ」と捉えるべきでしょう。また保険料改定に合わせて、現在「全損・半損・一部損」とされている3区分の損害区分が4区分に細分化されます。

――そうした改定が、地震保険の必要性を見つめなおすきっかけにもなりそうです。

清水さん そうですね。今回の改定も、被災するリスクが増しているシグナルだと捉えてほしいですね。災害リスクを無視した生活設計はもう成り立たない時代を迎えています。大地震はもう非日常ではなく、いつでも、どこでも起こりうることなんだ、と自分事として考えていただけるといいですね。

――本日はありがとうございました。

備えて安心地震保険の話