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2012.3.1

上智で学んだジャーナリズムの視点が
映画作りに活きています。

川村 元気 氏
東宝株式会社 映画プロデューサー

フィクションとドキュメンタリーの間が
学生時代から、僕の興味がある場所でした。

父が映画関係の仕事をしていたため、幼い頃から常に映画が周りにある環境で育ちました。だから、受験の時、上智大学の新聞学科を第一志望に選んだのもごく自然なことでした。面白い人が集まるだろうという期待もありましたし、単に自主映画を撮るというだけではなく、報道やドキュメンタリーの視点を要求されるところが勉強になりそうだと思っていました。実際に入学してみてもやはりジャーナリズム色が強く、その中で僕の作品は少し異色でした。僕は「真面目なことを真面目に伝えても興味を持ってもらえないだろう」と考えているので、どうしても観る人を面白がらせてしまいたくなる。ドキュメンタリーを撮っても、フェイク・ドキュメンタリーのようになってしまうんです。ある先生に「君の作品は、アジテーション(扇動的)だね」と言われたくらいです。
出来のいい学生ではありませんでしたが、上智で学んだジャーナリズムの視点は今も活きています。最新作「宇宙兄弟」でも、宇宙飛行士の訓練や宇宙開発の歴史を取材する中で、新しい宇宙の描き方を見つけることができました。

カルチャーの上では、アポロ計画の時代はロック・ミュージック全盛期。アポロ11号が月に到達した1969年は「ウッドストック・フェスティバル」の年でした。すると、当時の宇宙飛行士はロックスターと同じような存在だったのではないかと思えてきました。実際、NASAは海兵隊の荒くれ者に「ちょっと危ないかもしれないけど宇宙へ行ってみないか?」みたいなノリでリクルートしていたようです。今の宇宙飛行士はアカデミックなイメージが強いと思いますが、「宇宙兄弟」ではアポロ時代のように宇宙飛行士をロックスターみたいに描くという発想が生まれました。

また、当時の宇宙開発は米ソの国家としての威信をかけた競争であり、アポロ11号の乗組員が月面に立てた星条旗は愛国心の象徴です。もし日本人が月に降り立ったら、やはり同じように日の丸を立てるのではないか。僕たちはサッカー日本代表の試合の時のように眠い眼をこすりながらその瞬間を早朝にテレビで見て、日本人としての誇りに胸を熱くするのではないか。制作途中で東日本大震災が起きたという経緯もあって、映画で日本がひとつになるようなカタルシスを描きたいという思いが強くなりました。こうした発想のもと、「宇宙兄弟」はドキュメンタリーの目線を取り入れたエンタテインメントに仕上がっています。

情報過多な時代だからこそ
映画だけが持つ可能性を追究したい。

僕はもともと自分で映画を作るよりも、観るほうが好きです。就職活動をしていた時にも、制作側になることに悩んでいました。仕事にしてしまうと映画を純粋に観ることができなくなるのではないかという不安もありました。東宝に入社して最初に配属されたのが大阪のロードショー館だったので、映画はあくまで興行であり、作り手の理屈がそのままお客さんに届くわけではない、という実感も持っています。このような一観客の目線で見ると、映画はとてもハードルの高いエンタテイメントです。約2時間もの長い間、人を拘束する。大人なら1,800円も払ってもらわなくてはならない。でも、だからこそ逆に人の心に「刺さる」、つまり人の心に住み着く可能性も持っているのではないでしょうか。そして、僕はその「刺さる」ということにこだわって、あえてハタチの若者に向けて映画を作りたいと思っています。子どもと大人の間にいるハタチの心に「刺さる」映画を作れば、それは生涯彼らの記憶に刻まれるでしょうし、ハタチの若者たちの間で話題になる映画は社会人にもティーンエイジャーにも興味を持たれるはずですから、より多くの人たちを巻き込むことができるのです。

「告白」や「悪人」という映画も「刺さる」作品を目指して作ったものです。エンタテインメントですが、ハッピーエンドではありません。結論を言い切ってしまう映画ではなく、観た人が自分で考えたり、一緒に観た家族や友達と話したりしながら結論を出す映画です。情報や価値観が氾濫している今の時代には、自分で何かを掴まなくてはならないものが心に残る。座学で習ったことよりも、自分で実際に動いて得たもののほうが確実に残っているのと同じです。

上智時代の同級生でよく一緒に遊んでいた仲間は、テレビ局でバラエティを制作していたり、新聞社で政治記者をやっていたり、メディアやエンタテインメントに関わっている人が多いんです。今も集まると何らかの刺激をもらい、自分の立ち位置を改めて確認することができます。
先日、現役の新聞学科の学生たちと話をする機会をもらいましたが、メディアにとって難しい時代だからこそ、若い人たちには状況を打開するような新しい発想を求められているし、だからこそ面白いことが自由にできるチャンスなのではないかと話しました。自分が学生のときは気づいていなかったのですが、学生時代には本当に豊かな選択肢と時間がある。僕は卒業した後にそのことに気付いて後悔しました。だから今のうちに、時には学生のコミュニティから外れて、海外を旅したり、知らない人たちとふれあう機会を作るのもいいのではないでしょうか。視野を広げ、未来の仕事のために、今しかない「あり余るほどの時間」を使いきってほしいですね。

川村 元気 (かわむら げんき)
東宝株式会社 映画プロデューサー・2001年上智大学文学部新聞学科卒業
卒業後、同年東宝に入社。2005年、26歳で映画『電車男』を企画・プロデュースし、興行収入37億円の大ヒットを記録。その後も『スキージャンプ・ペア Road to Torino 2006』(2006)、『陰日向に咲 く』(2008)、『デトロイト・メタル・シティ』(2008)などの個性的なヒット作を企画。2010年には『悪人』(李相日監督/興収20億円)と『告白』(中島哲也監督/興収38億円)を企画し、両作は大ヒット。ともに、キネマ旬報ベストテンの1位、2位に選出され、日本アカデミー賞各賞を分け合った。また同年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia 2010」にプロデューサーとして選出され、2011年には「第30回藤本賞」を史上最年少で受賞した。2011年の企画作品『モテキ別ウィンドウで開きます』(大根仁監督)は大きな話題とともに興行収入22億のヒットを記録、12月に公開された3DCGアニメーション映画『friendsもののけ島のナキ別ウィンドウで開きます』(山崎貴・八木竜一監督)は現在14億超のヒットを記録中。本年は5月5日公開『宇宙兄弟別ウィンドウで開きます』(森義隆監督)を企画したほか、7月21日公開『おおかみこどもの雨と雪別ウィンドウで開きます』(細田守監督)にも参画中。

『宇宙兄弟』
http://www.spacebrothers-movie.com/別ウィンドウで開きます
5月5日公開

 

『おおかみこどもの雨と雪』
http://ookamikodomo.jp/別ウィンドウで開きます
7月21日公開