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2012.10.1

教育とジャーナリズムは似ている。
全力で人と向き合うことが基本です。

安田 菜津紀 氏
フォトジャーナリスト

教育学科での学びが私の原点。

中学の時に父と兄を亡くした私は、高校2年生になって、NGO「国境なき子どもたち」のプログラムでカンボジアに行くまで、学校が好きではありませんでした。こんな辛い経験をした私のことなど誰もわかってくれない、と思い込んでいたためです。でも、カンボジアで人身売買の被害者である同年代の子どもたちと出会い、そんな気持ちは吹き飛んでしまいました。豊かな日本から来た私にも心を閉ざすことなく、自分の思いを何とか伝えようとしてくれる彼らを見て、学校と向き合う決心をしたのです。自分の無知を知り、勉強したいという気持ちも湧いてきました。そんな中、進学先として選んだのが上智大学の総合人間科学部教育学科です。

その頃の私は、カンボジアでの経験から、教育面で国際協力に携わりたいと思っていました。そのためには、日本と違う環境にいる子どもたちの多様な価値観を知った上で、「教育とは何か」考えなければなりません。入試の2次試験の面接でそんな思いを伝えると、面接官の先生は「それならぜひ上智の教育学科で学びなさい」と熱く語ってくださいました。ご自分の学科を誇りにしていらっしゃる気持ちが伝わり、とても感動したことを覚えています。これが恩師・増渕幸男(ますぶち ゆきお)先生との出会いです。

入学してからは、増渕先生の教育哲学のゼミに入りました。人間や教育について真剣に考えているメンバーばかりで、研究の内容は違っても同じ方向を向いているという意識がありました。「教育とは『受けとめる力』だ」という先生の言葉は、今も心に残っています。

勉強のかたわら、カンボジアへの渡航費を稼ぐために、アルバイトも一所懸命やりました。授業が終わった後いくつもアルバイトをこなし、徹夜明けでそのまま大学へ向かう日も多かったのですが、目標がはっきりしていたため苦になりませんでした。16才で出会ったカンボジアの子どもたちは、私にとって家族と同じです。彼らに会いたい、彼らやカンボジアについて五感で感じたことを多くの人にシェアしたい、という一心でした。私には医療技術も、財力もありません。多くのことを教えてくれた彼らのためにできるのは、伝えることだけだと思っていたのです。大学3年の時にカメラに出会って写真という表現手段を得てからは、その思いが形になり、掲載の仕事もいただけるようになっていきました。

多くの国を取材するよりも同じ場所、同じ人を撮り続けることが大切。

上智大学で学んだことは、今の私の活動に違和感なくつながっています。全力で人と向き合うという基本的な部分で、ジャーナリズムと教育は同じだと思うのです。取材で出会った人たちには、決して背を向けたくありません。カンボジアはもちろん、エイズ孤児の取材で行ったウガンダも、震災後から通っている東北も、ずっと撮り続けていくつもりです。それは彼らを忘れていない・忘れてはいけない、という意志表示であると同時に、問題の本質をとらえるためでもあります。取材がひと段落することなどありません。人は生き続けますし、問題は形を変えて存在し続けるのです。

子どもたちに届く活動にも、ずっと取り組んでいきたいと思っています。そのひとつが使い切りカメラを使った「写真教室」です。イラクやカンボジアの子どもたちを対象に行ってきたものですが、昨年は東北の3つの学校でも実施しました。家族を亡くしたり家を流されたりした子どもたちは、周りの大人を気遣って、行き場のない気持ちを自分の内に押し込めています。楽しく自由に写真を撮っているうちに心の中に溜まったものを吐き出し、自分の思いを他の人とシェアすることで元気になるきっかけをつかめるのではないかと思っています。

「カンボジア スタディツアー」も多くの子どもたちに新しい出会いの場を提供したい、と考えて始めた試みです。私が体験したように、まったく違う世界の人たちと出会って心の選択肢を増やしてほしいのです。また、子どもたちと一緒にカンボジアを訪れると、自分が今までの経験や知識にこだわって見落としていること、見えなくなっていることに気づかされます。私にとって子どもたちは、いつも驚きや学びを与えてくれる存在。増渕先生もおっしゃっていましたが、教育とは一方的に相手に何かを詰め込むことではなく、共に学び合うことなんだな、と改めて感じます。

2012年9月に、若手ドキュメンタリー写真家の登竜門「名取洋之助写真賞」をいただきました。3度目の挑戦がやっと実った受賞で、本当に嬉しく感じています。ひと目見た瞬間に、無関心を関心に変えることができるのが写真の力。人の心を動かすためには、気持ちだけでなく技術も必要です。努力を忘れず、多くの人に思いが伝わる写真を撮っていきたいと思っています。

安田 菜津紀(やすだ なつき)
フォトジャーナリスト・2010年 総合人間科学部教育学科卒業
studio AFTERMODE所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジアを中心に、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。