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2012.12.1

アジアと日本を結ぶ「ソフィア・ミッション」こそ
真にグローバルな大学の姿です。

石澤 良昭 氏
学校法人上智学院学術顧問・上智大学教授(特別招聘教授)・上智大学アジア人材養成研究センター所長

フランス語の師・リーチ教授がくださったアンコールワットとの出合い。

私とアンコールワットとの半世紀にわたる関係のきっかけを作ってくださったのは、上智大学時代のフランス語の師であるリーチ教授です。リーチ教授はアルザス生まれのフランス人で神父でもあられましたが、学生たちのよろず相談所と言っても差し支えないほど面倒見がよく、破天荒な面もある魅力的な方でした。私の先輩である井上ひさしさんの小説『モッキンポット師の後始末』に登場する、ユニークな神父さんのモデルとしても有名です。

私は、教授の授業「フランス海外交流史」でフランスの文化貢献活動の一つとして取り上げられたアンコールワットの保存修復に興味を抱き、教授がベトナムでの集中講義のあとカンボジアに寄る際に同行させていただきました。実際にアンコールワットを見た私は、当時の人たちがこの偉大な寺院にどんな願いや祈りを込めたのか知りたい、という思いに駆られて、フランス人の教授の許に弟子入りすることを決めました。1961年のことです。

大学に入るまでフランス語を学ぶ機会などまったくありませんでしたが、上智で「読む・聞く・話す・書く力」を鍛えられたおかげで、フランス人ばかりのアンコールワット保存修復顧問団の中に入っても、言葉の面でひけをとることはまったくありませんでした。私だけではなく、当時のフランス語学科の学生たちは、卒業するとフランス系の企業や金融機関などに就職して第一線で働いていました。リーチ教授は、我々に4年間で実践力を身につけさせてくださったのです。

現地で遺跡の保存修復研究活動に携わったのはカンボジア人でした。最初は、なぜ日本人の私がここまでカンボジアの文化に関心を寄せるのか、と不思議に思ったようです。カンボジア人の研究仲間と親しく交流するうちに、将来は必ず一緒に修復の仕事をしよう、と約束を交わすほど親しくなりました。70年代にポルポト政権下で知識人の虐殺があり、彼らの多くが亡くなってしまったことを知った時、鎮魂のためにも必ずカンボジア人の後継者を育てなければならない、と誓ったのです。

カンボジアからアジアへ、そして世界へ。受け継がれるソフィアの理念。

当時私が「カンボジア人のためのカンボジア人による遺跡修復」を唱えたところ、フランス人はもちろん日本の著名人までが「カンボジア人にそんなことはできない」と言い放ちました。しかし、私は現地で修復の訓練を受けた時にカンボジア人の優秀さに感銘を受けていましたから、そんな言葉には惑わされませんでした。それに、アンコールワットと共に生きる現地の人びとは、祖先が創りあげたものを感性で理解することができます。このような自然に備わった美的感覚が、遺跡の修復にはひじょうに重要です。

アジアの知性発掘プロジェクト「ソフィア・ミッション」がスタートしたのは、21年前のことです。カンボジアの優秀な人材を上智大学に受け入れるだけではなく、現地にも専門知識を学べる拠点を設立しました。自分で判断し自分で動ける人材になるためには、自分の考えをまとめて論文に仕上げるというプロセスが必要だと思い、学位取得もすすめました。英語での執筆は大変ですが、上智の教員たちが徹底して添削を行ってくれました。2011年までに13名が修士号を、6名が博士号を取得して母国で活躍しています。

修復に必要な石材の石のみを使って作る技術を教えるために、日本から流山市の石材職人さんがボランティアで参加してくれました。石工の技術習得には実に8年もの歳月がかかりましたが、技術を得た彼らは自分たちの手で4年間かけて修復を行いました。人材育成には時間がかかります。地味な活動ですが、人造りこそ国の骨組み作りだと思うのです。

1992年、シアヌーク前国王はユネスコの会議で「最初に井戸を掘った人を忘れてはいけない」と発言されました。内戦が収まらず多くの国がカンボジアに背を向ける中、唯一カンボジアに来てくれた人を記憶に留めよう、という「ソフィア・ミッション」を讃える言葉です。今では現地の拠点である「アジア人材養成研究センター」もカンボジアと日本だけでなく、ラオス・ベトナム・タイ・ミャンマーなど現地を取り巻く多くの国から若い人材が集まり、共に学び、交流する場となりました。これは考古学研究上、熱帯地域での遺跡保存・修復のノウハウを共有するという意味でもひじょうに有意義なことです。

いま多くの大学がグローバル化を唱えていますが、このような取組みを行ってきた大学は上智以外にはないと自負しています。振り返ると、リーチ教授が私をアンコールワットに導いてくださったのは、「苦難に遭う人たちに手を差し伸べる」というソフィアの理念をアジアで実践してほしい、という願いからだったのではないでしょうか。これからも多くの上智大の後継者が未来へ、そして世界へとソフィアの理念を伝えていってくれることでしょう。

石澤 良昭
学校法人上智学院学術顧問・上智大学教授(特別招聘教授)・上智大学アジア人材養成研究センター所長・1961年 外国語学部フランス語学科卒業
専門は東南アジア史、特にカンボジア・アンコール時代の碑刻文学専攻。パリ大学高等学術研究院にて古クメール語碑刻文学を研究。文学博士。