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2013.9.2

グローバル化はマクロとミクロの視点でとらえよ

納家 政嗣
外国語学部特任教授

グローバル化でよみがえるローカルなネットワーク

グローバル化というと、一般的には国際的な市場統合などの動きをマクロな視点でとらえて語られることが多いのですが、いま私が興味を持ち注目しているのは、その裏で起こっているややミクロな現象です。

アジアを中心に、歴史的には16、7世紀にまでさかのぼる、都市同士の古い交易圏のようなものが、グローバル化にともなって再び力を持ち、活発に機能し始めているのです。たとえばマラッカ海峡周辺の交易圏、市場化・民主化したミャンマーとインド諸都市のベンガル湾交易圏、アフリカ東海岸まで含むインド洋交易圏。東アジアでも、わが国主要港湾都市と台湾、杭州、福州、韓国などを結ぶ古い交易ルートが、貿易で重要な役割をはたしています。

20世紀は戦争の時代。国家という枠組みが非常に堅固でした。それが緩んだときに、都市間の、コミュニティ間の、さらには個人間のネットワークといった、より歴史の古い国際関係の枠組みが浮かび上がってきたのです。現在のTPPをはじめとする貿易に関する国際協定や条約の主体は現代的な主権国家ですが、一皮めくると、それら条約や法律の隙間をこうした歴史的なネットワークが埋めているのです。こういうローカルな動きが、グローバル化の重要な特徴といえ、学問的な研究も盛んに行われています。

したがって経済だけでなく、この時代の国際秩序は、もはや国家間の合意のみで形成されるものではなくなりました。条約の中で、都市はもちろん、現場をよく知る多国籍企業やNGOなどの組織も実行に参加します。各国政府には、それらさまざまなアクターと柔軟に連携し、マネージする力が求められ、それができなければ波に乗り遅れることになりかねません。

その点でわが国は、やや出遅れの感もありましたが、JICAや地方都市、企業も動き始め、国際秩序作りに大きな役割を果たしつつあるように思います。GDPが3位に下がったとはいえ、大国である日本に対する海外からの期待は、日本人が考える以上に大きいのです。

一方、私のもともとの専門である国際政治、安全保障の観点からグローバル化を見たとき、一つの大きな問題は、市場経済化による国ごとの成長が不均等だということです。先進国の成長が緩慢であるのに対し、BRICsはじめ新興国は急速に成長し、力関係が急激に変化している。国際政治の最大の課題でしたが、それを受けて国際秩序をどう作り直すか。

戦争を懸念する声もあります。しかし新興諸国が既存の秩序に依存する形で成長を遂げていることから、当分の間は先進国中心の秩序に新興国を取り込み、修正を加えつつ維持していくことになるでしょうが、管理・運営がとても難しい局面であることは間違いありません。

とりわけ注目すべきは、言うまでもなく、GDP2位に躍り出た中国です。紛争の火種となりうる領土問題を、わが国を含むいくつかの国との間に抱えており、いまがもっとも危険な状況といえるかもしれません。ただ、中国の一見過激な発言や行動の多くがむしろ、急速な経済成長にともなう国内の社会変動や混乱にかかわる側面も持っていることを、とくに私たち日本人はきちんと認識して、冷静に対処すべきです。

いずれにせよ、グローバル化時代の安全保障は、従来の国際政治的・外交的手段と、先述の交易の問題のように国際機関、NGOから企業までさまざまなアクターが連携して問題解決にあたる「グローバル・ガバナンス」的手法との二本立てで考えることが必要となっているのです。

新学部は大きな知的実験の場に

市場、民主主義、人権、法の支配といった、いわば「世界標準」の価値観に基づくシステムが整っている先進国においては、グローバル化の影響は安定的に吸収されます。ただ私たち日本人は、食糧、衣料から文化まで日常生活のあらゆる場面に浸透している「グローバルな依存関係」を、国境を越えてトレースできる敏感な感性を磨く必要があります。

一方、そうした国内システムが脆弱な途上国においては、グローバル化の影響は激しく、しばしば悲劇的です。アフリカの多くの国で、紛争・内戦が引き起こされました。近年は「アラブの春」をきっかけに、中東諸国でも厳しい状況が見られる。どう支援できるかが、問われます。

上智大学が2014年に新設する「総合グローバル学部」では、地域研究の対象として、アジアのほかにアフリカおよび中東を重視しています。それは、グローバル化を考える上でそこがきわめてホットな地域であるという認識からです。

交易の問題しかり、安全保障の問題しかり、グローバル社会を把握し、そこで起こる問題に対処するためには、マクロとミクロの二つの視点を併せ持つことが重要です。新学部は、国際関係論系(マクロ)の科目群と地域研究系(ミクロ)の科目群を用意し、メジャー・サブメジャーとして両者ともに学ぶことを学生に課しますが、これはまさに、グローバル社会で活躍しうる人材を育てるためのカリキュラムといってよいでしょう。

とはいえ、二つの科目群は学問としては独自の体系をなしていますから、国内、海外の大学を見わたしても、それらの融合に成功している例はまれかもしれません。しかしその融合こそが求められている、その意味で新学部は、壮大な知的実験の場であるといっても過言ではありません。

教員がここでのチャレンジを面白いと思えば、学生たちはその姿勢を見て、ここでの学びを面白いと感じる。その両者の意欲的な取り組みの相乗効果が、思いがけなく大きな成果を産む。そんなことがこの新学部で起こるはずだと、私は大いに期待しています。

第一期生として、パイオニアとして、その知的実験にぜひ参加してください。

納家 政嗣(なや まさつぐ)
外国語学部特任教授

冷戦後の世界秩序のありように関心を持つ。アメリカの覇権、中国の台頭の問題と金融、環境、人権などグローバル・ガバナンスとの関係。専門は国際政治学、安全保障論など。