パリ協定が変えるビジネス

日本におけるESG金融への期待

日本政策投資銀行

2016年11月に発効した温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」によって、世界は脱炭素経済へとかじを切り、環境や社会課題を考慮して投資するESG投資が広がっています。
2月16日に朝日新聞東京本社で開かれたシンポジウム「脱炭素革命とESG投資~パリ協定が変えるビジネス」(主催:朝日新聞社、共催:名古屋大学大学院環境学研究科、協賛:日本政策投資銀行)では、世界で進む脱炭素革命と今後、さらには日本企業が迫られる変革についてさまざまな分野の代表者が議論しました。

今回は、日本政策投資銀行の竹ケ原啓介・執行役員産業調査本部副本部長が「ESG金融への期待~求められる非財務情報とはなにか~」と題しておこなった特別講演の内容を掲載します。

非財務情報への評価

まずはそもそも「ESG」とは何かということについてお話しします。下の図を見てください。

水面上に出ているデータというのは、企業がもうかった損したといった財務情報、つまり数字で語れる世界です。四半期の決算を見て、この企業が次の四半期も大丈夫か知りたいのであれば、数字を見ればほとんど説明がつくでしょう。しかし10年、20年、30年後にもこの会社は元気なのか、そこにコミットして投資しようと思うと水面下にある非財務情報も見ないわけにはいきません。企業の非財務的な価値を総合的に評価しようというのが、ESG投資の基本的な考え方になります。

もともと投資とは、成長過程の企業に着目して資本を入れて、企業の成長とともに歩んで、お互いにもうけを得るものです。やはり息の長い投資が大事だということを、われわれは2008年のリーマンショックで金融バブルがはじけた時に改めて気づいて反省したわけです。短期的な投資のウエイトが高くなりすぎ、視野が狭くなってしまっていたのです。

ESG投資では会社のビジネスモデルの持続可能性について考えます。いまの会社を支えている強みは何か、それをどうやって維持していくのか、その強みが喪失するリスクにどのような手を打っているのか、といった長期の事業継続戦略をちゃんと投資家に見せることが大事になっていきます。たとえばSDGsのような社会課題を、自社の成長やリスク管理とひもづけてどのように「腹落ち」して語ることができるか。会社側も投資家側もやっているつもりだけど、まだまだできていないと思います。

日本政策投資銀行 竹ケ原啓介 執行役員・産業調査副本部長

企業を複層的に評価

世界的にみると、日本はESG投資に出遅れました。しかし、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が責任投資原則に署名した2015年9月以降は急激に伸びてきており、これから大きく変わってくると思います。日本政策投資銀行では04年から、環境、事業継続マネジメント、健康経営という観点で企業を評価する「評価認証型融資」をやってきました。すでに1000社近い企業を評価し、融資しています。

我々の評価はシンプルな構造です。守秘義務契約を結んだうえで社内の非公表情報を見せて頂き、さまざまな角度で評価して点数化していきます。たとえば環境格付融資では、経営全般、事業関連、パフォーマンス関連の3分野で約120項目、250点満点の評価をします。

日本政策投資銀行が進める環境格付融資の仕組み

私たちは自分たちの評価が適正かどうか、年間100社を超える企業との対話や、外部のアドバイザーなどの意見を通して、毎年評価項目をアップデートしています。日本だけに通用する「ガラパゴス化」しないようにするためです。現在では欧米のESG評価軸と遜色ないと海外の機関投資家に評価されていますし、事業継続マネジメントに関してはユニークな取り組みだとダボス会議でも評価頂きました。

日本には世界的に見てオンリーワンの企業がたくさんあります。それらの企業は、震災など非常に大きなリスクを抱えながらも徹底的な事業継続マネジメントをやっています。自社のボトルネックはどこか、調達先がつぶれたらどうするかなど、ある意味、秘中の秘のようなもの築き上げています。そのことはCSRレポートにはどこにも書いてありません。これに対して、現在ESG情報の評価は、公表情報のみに基づいて行われているものが主流です。私たちは日本企業がかいている汗をもっと複層的に評価して、金融市場に反映させていく、そのような仕事を続けていきたいと思います。質の高い企業との対話は間接金融の世界でもできると思いますし、日本は間接金融が強い国ですから、ESGを踏まえた投資と融資が両輪にそろうと、国際的にないユニークなESG金融ができるのではないかと考えます。

ESG金融の未来へ

ESG投資はこれからもっともっと主流になっていきます。ちゃんとやってきた企業にはチャンスでもあるし、やっていなかった企業にとってはリスクでもあります。その中で投資家が一番知りたいのは、企業の競争優位を支えるビジネスモデルです。当社は30年経っても強いというロジックをどう示すのかということです。そこが問われてくると思います。

企業がそのような情報を出してくれるとすると、今度は金融側がどう受け止められるかが問われてきます。間接金融、つまり銀行が非財務的な競争力に着目して融資をするようになっていけば、しっかりやっている会社はローンの世界でもエクイティの世界でも金融市場から評価されるという流れになります。それを実装することができれば、日本のESG金融も世界的にユニークな存在になって、企業の脱炭素化をサポートできるようになると確信しています。

竹ケ原啓介(たけがはら・けいすけ)
株式会社日本政策投資銀行 執行役員 産業調査本部副本部長
1989年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行、フランクフルト首席駐在員、環境・CSR部長、産業調査部長などを経て、2017年6月より現職。経済産業省や環境省の検討会の委員などを務める。共著に『再生可能エネルギーと新成長戦略』(エネルギーフォーラム社刊)など。

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