金融力で災害レジリエンスの高い日本社会をデザインします

企業の防災対策、BCMをより高度化する仕組みとして期待される「BCM格付融資」

日本政策投資銀行
サステナビリティ企画部

東日本大震災等を機に、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を整備する企業が増えています。しかし、大切なのはその運用だといいます。そこで、世界初の金融商品「BCM格付融資」を運用する日本政策投資銀行(DBJ)のサステナビリティ企画部の皆さんに、SDGsにおいても期待されている企業のリスクマネジメントを支えるBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)について詳しく伺いました。

宮谷伊穂奈さん
(経営企画部 兼サステナビリティ企画部 副調査役)
臼井瞭さん
(サステナビリティ企画部 副調査役)
蛭間芳樹さん
(サステナビリティ企画部 BCM格付主幹 兼経営企画部)
木坂友佳さん
(サステナビリティ企画部 副調査役)

BCMの真の目的は、その企業が社会にどれほど必要とされているかを考え、事業を継続する役割を果たすこと

―DBJ評価認証型融資には、環境格付、BCM格付、健康経営格付の3種類があります。このうちBCM格付とは何を評価認証する格付けなのでしょうか。

宮谷さん:BCMとは、Business Continuity Managementの頭文字をとったもので、「事業継続マネジメント」と訳されます。日本では、2011年3月に発生した東日本大震災やタイの洪水災害を機に、事業をいかに継続していくか、経済主体としての役割をどのように果たすのか、という戦略を記したBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定する企業が増えましたが、策定したまま満足してしまっているというケースもあるようです。そもそもBCPは計画文書ですので、危機時の組織対応を日常業務と同期させ、いざという時のために実効性を持たせる必要があります。そのため、BCM格付においては、BCPの内容だけでなく、立案した戦略を適宜見直し、会社全体を統括する体制が整っているかということや、その計画に実効性を持たせるための訓練および教育の機会が用意されているかといった日常的なマネジメント、つまり企業のBCMを評価の対象としています。また、自らの弱さ、脆弱性を自己認識し、先手で対策を講じることも必要です。

臼井さん:BCM格付は2012年から制度運用が開始されましたが、これは2006年に開始した防災格付を前身としております。東日本大震災を契機に、人の命を守る大切さはもとより、自然災害をはじめとするあらゆる災害や事業環境の変化に対する企業の適応力と、これを契機に新しい均衡環境を創造する力を「レジリエンス」と定義し、「災害レジリエンスの高い日本社会をデザインする」という理念を掲げ、これまで運用してきました。

―BCM格付を通して、企業側は具体的にどのようなメリットを享受できるのでしょうか。

臼井さん:BCM格付は融資制度であるため、ランクに応じて金利が優遇されるという直接的なメリットがございますが、それだけではありません。まず、本融資にお申し込みいただくと、4段階でランクAからランクDのいずれかに格付を行います。評価をして終わりではなく、ご融資後に評価結果を「見える化」してフィードバックさせていただいているのですが、こちらは大変好評いただいています。例えば、同じ年度に評価を受けていただいた企業様の平均値と、お客様の取組状況を組織診断として比較しながら、「こういうところが優れていますね」「ここはもうちょっと頑張れそうですね」といったように、対話をしながら強み弱みをお伝えしています。

宮谷さん:また、参考になりそうな他社事例や、同規模・同業種の企業における優れた取り組み事例、最新のトレンドや法改正における影響などを一緒にお伝えしながらアドバイスやマネジメントの高度化のお手伝いをさせていただいております。ランクDは不合格として対象外となりますが、格付を取得されたお客さまと同様に今後のご期待ポイント、他社の取り組み事例、直近のBCM、BCPに関するトピックスなどの情報をフィードバックさせていただきますので、それを参考にBCPを策定することや、見直していただくことも可能かと思います。

―目的通り、BCPを実効性のあるBCMにするために企業と丁寧な対話しながら共にPDCAを回していくイメージですね。

宮谷さん:お客さまの4割くらいが、定点観測のような形で毎年格付を受けていただいているリピーター様で、歩みを共にしてサポートしつつ、ランクを上げていくというお客さまもいらっしゃいます。

臼井さん:実は、格付評価を受けていただくだけで、企業様内部の体制管理にも活用できるように本制度は設計されています。評価を受けていただく際に、スクリーニングシートへの記入をお願いしているのですが、そこに記されたおよそ100個の設問について、毎年私たちサステナビリティ企画部員が、世の中の最新トレンドや他社事例からエッセンスを抽出し、外部有識者で構成されるアドバイザリー委員会から設問の方向性についてアドバイスや提言をいただきつつ、見直しを行っています。そのため、その設問を見ていただくだけでも、お客様ご自身が気づきを得られる内容になっています。

企業価値の源泉としての非財務情報

―BCMについてはよくわかりました。ではなぜ今、企業にとってBCM格付が重要なのでしょうか?

宮谷さん:昨今、「ESG投資」といわれる企業の環境・社会・ガバナンスの取り組みに着目して投資の意思決定を行う手法が広がっています。金融危機を契機に企業価値を財務情報だけで推し量ることは難しいと考える投資家が増えているのです。こうした非財務面の取り組みに着目している投資家の目線を意識して、リスクマネジメントに積極的に取り組み、情報発信することが、企業にとって今やブランディングやPRの材料になっています。

蛭間さん:ただ、ESGですが、特にヨーロッパ諸国や米国が中心となり設計されている概念です。一方で、最近はSDGs(持続可能な開発目標)という言葉をよく目にすると思いますが、これは文化や地域、経済特性が異なる国や地域を含めた世界共通の目標で国連が制定したものです。様々なグローバルアジェンダが次から次へと登場しますが、私たちが大事にしているのは、その国や社会の成り立ち、風土、文化などの側面です。その観点から見ると、防災やBCMのテーマは自然災害という脅威との共存を果たすための必要な社会技術であるとも言えます。SDGsが採択される前に重要な国連の国際会議が二つありました。一つは皆さんご存知のCOP21「パリ協定」です。温暖化対策にむけたCO2削減目標が定められ、SDGsにも「気候変動に具体的な対策を」という項目があります。これと同格のものが、2015年に仙台で開催された第3回国連防災世界会議の成果文書である「仙台防災枠組」です。実は、その前身の過去2回の国連防災世界会議も、日本で開催(横浜、神戸)されています。日本の様々な防災対策が、国連SDGsのイニシアティブを牽引しているのです。SDGsの「住み続けられるまちづくりを(都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする)」というゴール11は、この仙台防災枠組がベースとされているのです。こうしたなかで、私たちのBCM格付は「防災×金融」という領域で、リーダーシップを発揮して行きたいと思います。

宮谷さん:先ほどESG投資についてお話ししましたが、海外のこうした投資家や災害管理の方たちは、BCM格付の考え方に驚かれます。一般にリスクマネジメントを考えた際、まずは保険を考えます。期待損害に対して、保険をかけていれば、それでリスクは管理されているということです。しかし、それでは代替の効かない人命は守れませんし、後手の危機対応になりかねません。BCM格付融資の考え方は事前の予防投資を行うことで、組織や社会のリスクコントロールに貢献するリスクファイナンスでありたいと思うのです。

BCMをより高度化するためのアフターフォローも提供

―BCM格付を取得した企業がより有効にBCMを実行するためのフォローアップなどは用意されているのでしょうか。

蛭間さん:BCM格付を取得されたお客様だけが参加出来る「BCM格付クラブ」というプラットフォームがあります。BCMや危機管理は、有事の経営計画のため他社と交流する機会がなく、担当者が会社のなかで孤立してしまうという、お客様の声をきっかけに発足しました。こうした担当者の方が一番求めているのは実は「失敗事例」なんです。そのため成功例はもちろん、失敗事例まで共有するというのが本クラブの目的です。またもう一つの目的は、そうした縁がお互いのビジネスを助け合う。共助の世界を超えて、ご縁の力「縁助」を発揮する場になればいいと考えています。

企業様同士、本業であれば競争領域が当然あるのですが、リスクマネジメントの分野においては、ある種の協調領域が発生する側面もあります。金融機関は、お金を融通することが第一義的な役割ですが、情報や人の融通、様々なリソースのマッチングなどを行えるポテンシャルがあるはずです。業としての金融のあり方が変革する中、社会、経済、産業の災害レジリエンス向上に金融機関が果たせる役割に挑戦して行きたいと思います。

―共有や連携といったところもBCM格付の特徴のようですが、外部企業との連携もあるようですね。

臼井さん:まずSOMPOグループ様との業務連携があります。BCP作成のコンサルティング業務のご紹介を行うリスクコントロールと、災害時に資金提供を行うリスクファイナンスという2つの支援サービスにおいて提携をしていますが、BCM格付を取得した企業様は、格付ランクに応じて、企業総合保険、企業総合補償保険が一定程度割引かれます。つまり、企業側の自助努力が、融資でも保険でも料率に貢献し、金融側も保険側も対象債権の既存リスクが低減するというビジネスベースでのWIN-WINな提携かつ関係者の災害レジリエンス向上モデルとも言えます。

宮谷さん:他にもJTB様との連携があります。例えば、東京に本社のある大企業はバックアップ拠点として関西などに支社を置いているケースが多いと思いますが、そうした企業が災害に遭った際、移動手段やホテルなどを事前に確保している会社はほとんど無いというアンケート結果があります。そこに問題意識を持って生まれたのが、同社が提供する「BCP実行支援サービス(RECOVALUE)」です。万一の際、移動や宿泊を一括して手配を行っています。BCM格付のスクリーニングをする際、「バックアップ施設はありますか」といった対話をさせていただいていますが、次に「では実際にそこに到達する実効性を確保していますか」という話になるとなかなか確保できている企業はありません。そこで、こうしたサービスと連携することで、BCPの実効性をアップすることができるのです。

蛭間さん:防災やBCPというと、行政の仕事であり、公助の域と考える方が多いと思いかもしれません。しかし、いまの社会状況を考えますと、公の限界があるのも事実です。そのため、スピードと実行力のある民間に期待が寄せられているのですが、それを単にボランティアやCSRに頼る時代ではありません(もちろんそれらも重要ですが)。企業自身が、あるいは企業間で、そして企業と公共が繋がり、社会共通の目的に向かうような設計思想で、BCM格付融資を踏まえた、次なる新規事業を検討しています。BCM格付融資が、日本や災害多発の国や地域にあって良かった、と思われるような仕事をして行きたいと考えています。

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