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05月24日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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設立50周年の伝統と新たな時代に向けた学部・学科改組

 今年、日本工業大学は設立50周年と学園創立110周年の節目を迎えるが、成田健一学長の言葉には、祝賀気分に浮かれる様子はみじんもない。1967年、高度成長の時代を背景に、実践的な技術者教育を提供する場として開学。当初は工業高校卒業生が入学者の大半を占めたが、徐々に普通高校出身者の割合が増え、現在その割合はほぼ4対6となっている。

 「実工学」を教育・研究の目標とし、実験・実習を通してものづくりの第一線で活躍する人を育てる教育は、産業界などから長年高く評価されてきた。しかし成田学長は、いつまでもその位置付けに安心しているわけにはいかないという。「社会が急速に変化するなか、求められる知識や技術も変化し続けています。『実工学』とは、ひと言でいえば役に立つ工学ということですが、10年後、20年後に役立つのはどんな力か、誰にも明快な答えなど出せません」

 日本工業大学では、時代の急速な変化に対応する危機感と、そのなかで生き抜く力を育てる大学としての使命を果たすため、来春から大幅な学部・学科の改組を計画している。

 そのため今春から新たに20人以上の教員を増強し、応用化学棟を建設するなど積極的な教育投資を行っている。これは既存組織の見直しではなく、新たな分野の拡充に重きを置く。応用化学分野の開設をはじめとし、ロボット技術や情報技術など、変化が速く、今後人材需要が見込まれる分野を拡充する。

 従来の1学部7学科から、基幹工学部(機械工学科・電気電子通信工学科・応用化学科)、先進工学部(ロボティクス学科・情報メディア工学科)、建築学部(建築学科建築コース・同学科生活環境デザインコース)の3学部6学科2コース体制となる予定だ。

基礎力を高める教育改革

将来の可能性を全方位に広げる学び

 しかし成田学長は、こうした学部・学科の改組以上に、クオーター制と習熟度別クラス編成(数学・物理・英語)を軸とする教育システムの改革こそ、日本工業大学にとっては大きな挑戦だという。「磨きをかけたいのは基礎の力です。専門性ももちろん重要ですが、将来強い変化の風が吹いてもしっかり立っているためには、やはり足元、つまり基礎が大切だからです。一人ひとりの成長に合わせて適切なハードルを設定するのは、教員にとっても負荷の大きな仕事です。しかし、私たちはそれをやり抜くと決めた。学生たちに修羅場をくぐらせたいからです。私たちは覚悟を決めたので、学生たちにも必死でついてきてほしいと思います」

 1学年を4期(クオーター)に分け、学習の達成状況を細かく確認しながら、学生一人ひとりにその時点で最も適した課題を与える。基準をクリアした人にはさらに高度な課題を与える一方、つまずいたときは確実に身につくまで反復学習を課す。

 クオーター制によって教員にも学生にも厳しい教育になることは承知のうえで、あえてこうしたシステムを導入するのは、学生たちに成功体験を積ませるためでもある。困難な条件の下、努力して結果を出す。そのことで人から評価される。そうした体験が彼らを大きく「化けさせる」のだと、成田学長はいう。「専門科目は数を絞り、必修を多くしたカリキュラムになっています。楽な、気を抜いて受けられる授業はひとつもありません」

 学習環境を支えるための施設の整備も進む。50周年記念建設事業の一環として新設される多目的講義棟1・2Fには、用途を限定しない広いオープンスペースを設けた。授業でわからないことがあれば先輩に質問したり、友達同士で教え合ったり、そうした場として活用されることを期待している。同時に、学修支援センターや英語教育センターなどの機能を同じ建物に集約する。「授業で厳しく追い込む一方で、きめ細かなサポート体制を充実させました。このやり方なら確実に学生たちが成長すると、自信の持てる仕組みができあがったと思います」

学びのスイッチは誰のなかにもある

成田健一学長

 効率よく正解を得ようとして泥臭く努力することを嫌う。競争が苦手で野心や向上心が乏しい。「さとり世代」と批判的に語られることもある今の若者たちだが、成田学長の目に映る姿は、そうした印象とはずいぶん違う。「少しおとなしすぎるきらいはありますが、ひとたび『学びのスイッチ』が入れば寝食も忘れて研究に熱中するエネルギーは、全員が内に秘めています。そのスイッチが入るタイミングを見きわめ、背中を押してやることが私たちの務めです」

 彼らが担い手の中心となるころ、社会の姿はどう変わっているのか。予測はつかないが、悲観することはないと成田学長はいう。「大学で学んだ知識や技術は古びてしまっても、常に学び続ける姿勢があれば、それが彼らを生涯守る武器になるでしょう。私たちが学生に与えてやれるものは、結局それしかないのではないかと思います」。修羅場をくぐらせるという言葉とは裏腹に、学生たちの未来を見つめるまなざしは、どこまでも温かい。

工房スタイルのものづくり
カレッジマイスタープログラム

 「フォーミュラ工房」「ヒューマノイドロボット研究」「2×4木造建築工房」など、個人またはチームでリアルなものづくりに挑むプロジェクト。「昨年までの工房教育よりも、最終成果物を完成させたかどうかを単位取得の条件として明確に問うようにした。『参加することに意義がある』では済ませられない」(成田学長)。本格的な施設・設備を用いて教員の指導の下につくり上げる作品はいずれもレベルが高く、国内外のコンテストや展示会で高い評価を受けている。

県内4大学の連携を強化
彩の国連携力育成プロジェクト

 少子高齢化などの社会的課題に埼玉県内4大学(日本工業大学、埼玉県立大学、埼玉医科大学、城西大学)が共同で取り組み、それぞれ専門の知見を生かしながら連携力の強化をめざす取り組みが進んでいる。文部科学省の支援事業を受けた5カ年のプロジェクトは昨年度で終了したが、4大学があらためて話し合い、今後もこの枠組みを維持していくことで意見が一致。今年度は埼玉県も加えた5者で新たなスタートを切った。

今年3月に第1期竣工
大学設立50周年記念建設事業

 今年6月に設立50周年を迎えるにあたり、日本工業大学ではキャンパス施設の新設・拡充をはかる記念建設事業が進行中。今年3月にはクラブ棟や新食堂、「キッチン&カフェ・トレビ」などが完成、第1期の竣工式が無事行われた。現在は多目的講義棟の建設を中心とする第2期工事が、来年12月の竣工をめざして続いている。なお大学ではこの他に、記念シンポジウムや講演会などのイベントも計画している。