インタビュー

自分の知らない自分を見たくて 「恋妻家宮本」主演の阿部寛

  • 2017年1月18日

映画「恋妻家宮本」に主演する阿部寛

  • 「スクリーンの中の見慣れぬ自分が面白い。役者にとって新たな自分を引き出してもらえるのは、とても幸せなことなんです」

  • 「おこがましいんですが、天海祐希さんとはいい具合に油断しあった夫婦を演じられたと思います」

  • 「30代はただガムシャラに役幅を広げていった。実践主義だったわけですけど、今は基本を大事にしたいと思うようになった」

  • 映画「恋妻家宮本」から (c)2017「恋妻家宮本」製作委員会

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 阿部寛の主演映画「恋妻家宮本(こいさいかみやもと)」が1月28日から全国公開される。「家政婦のミタ」など注目ドラマを執筆してきた脚本家、遊川和彦が初メガホンをとった映画で、子供が巣立った後の50代夫婦が離婚の危機を迎える物語。阿部演じる宮本陽平は教師だが、とにかく優柔不断でおろおろする男。専業主婦の妻・美代子役に天海祐希を迎え、見たことのない二人がそこにいる。

――「恋妻家宮本」をご自身でご覧になっていかがですか。今回は普通にカッコ悪い阿部さんの姿が新鮮でした。

 とてもやさしい気持ちになれる作品だと思いました。重松清さんのやさしい雰囲気の原作が、遊川監督風味で独特の味わいとなっていますが、そこに作品の力があると思った。僕自身のことは、スクリーンの中の見慣れぬ自分が面白くてね(笑)。実は最初にこの映画のオファーがあった時に、遊川監督からメッセージをいただいたんですよ。そこには、遊川監督がこの作品に命をかけている熱意が満ちており、感動してお引き受けしました。監督は「今まで見たことのない阿部さんを撮りたい」とおっしゃってくれたんですが、役者にとって新たな自分を引き出してもらえるのは、とても幸せなことなんです。

――どのような演技指導があったのですか。

 演出は監督にすべてお任せしましたが、よく言われたのは、「下町ロケット」の直後だったので、「キャラがかぶらないように、声を低くしないで!」と。ついつい無意識に低くなっては、「下町になってますよ!」と指摘されて、低い声を封じられたのは難しかった(笑)。あとは監督が演技の見本を見せてくれるのですが、これが面白くてね(笑)。

50代の夫婦が男と女で向き合う

――天海さんとの夫婦役はいかがでしたか。

 とてもやりやすかったです。実は天海さんとは、役者として駆け出しの頃の共演と、15年ぐらい前に時代劇で恋人同士を演じたことがあるんです。その後はお互い別々に仕事をして、ドラマなどで主役を演じるようになった。時々「彼女も大変だろうな」と勝手に自分に重ねてみたり。だから今回は満を持しての共演タイミングでした。

――天海さんが酔って阿部さんに馬乗りになるなど、珍しいシーンが見られました。

 おこがましいんですが、いい具合に油断しあった夫婦を演じられたと思います。十数年ぶりに共演した天海さんがものすごく成長されていて、彼女の演技で僕は助けられた。すてきな女優さんに着実になられた。

――阿部さん演じる宮本陽平という男性はどんな人物ですか。

 とても優柔不断で、教師としても夫としても迷いながら生きている男です。すごく真面目なのに、結婚生活も教師の仕事も向いていないと妻や生徒に言われてしまう。でも、宮本陽平のその誠実さは魅力でした。

――陽平は妻が隠していた離婚届を発見して悶々(もんもん)とします。もし阿部さんだったらどうしますか。

 ものすごくショックだと思います。でも僕は黙っていられず、まず、聞きますね。時間が経てば経つほど致命的なことになりそうな気がして。そこは宮本と違いますね。

――今回、最も印象的なシーンはどこですか。

 いつもオロオロしている陽平が、毅然(きぜん)として自分の気持ちを告げるシーンがあるんです。それはこの作品のテーマでもあって、脚本を読んだ時からひかれていました。生徒からのプレッシャーや、富司純子さん演じるとても正しいけれど怖い保護者の圧迫にめげず、「正しさよりやさしさを自分は大事にしたい」と伝える場面です。長回しの撮影だったこともありますが、彼の内面が出たような演技になったと思います。リハーサルの時には、いいセリフだからついつい力が入っちゃって、監督から「説得しようとしないでください」と言われ、本番はとにかく力を抜くように心がけました。

――子供が巣立った後の50代の夫婦が、再び男と女として向き合うことがこの作品の大きなテーマとして描かれています。

 僕自身はまだまだ子供が巣立つ年齢ではないので、想像でしかありませんが、今まで中心に置いていたものがいなくなったら、やはり空っぽな気持ちになって、こんな風に戸惑うんじゃないかな。ここからまた二人で始めるという、夫婦のリセット時期だというのは、わかる気がします。

――この作品に出演して、あらためていかがでしたか。

 この年齢でこういう作品に出られたことはよかった。新しい自分を引き出してくれる、圧倒的な統率力のある遊川監督と仕事できたことも、本当に楽しく、エネルギーになりました。年齢を重ねると、本当のことを言ってくれる人は減ってくるものです。みんながわかっていることでも、自分だけが気が付いてないこともたくさんあるでしょう。撮りたいものをハッキリと遠慮なく伝えきる遊川監督の言うことはすべて受け入れようと思いました。

いろんな仕事はすべて「宝の山」

――そんな風に演出家や監督から影響を受けた経験はありますか。

 もちろんです。例えば蜷川幸雄さんも圧倒的なパワーがあり、あの難しい舞台に立つことで自分が役者としてとてもエネルギーをいただけていました。「下町ロケット」の福澤克雄監督も、とても力強い演出で引っ張ってくれました。中でも影響を受けたのは、若い時に役者に転向し、低迷していた時に出会ったつかこうへいさんです。あの時の僕は、モデルとして一度引き上げられた後、俳優になって落ちて。演技の基礎も何もない中、どうしたら演技が上達するのか、どこでどうやって学べばいいかもわからずに何かを懸命に探していた。世間では「モデル上がりのいい男」という評価の時に、つかさんは僕にオカマの刑事役という難解な役を振ってきたんです。過激な演出しかなかった。日々これでいいのか悩んだ。

――よく続けられましたね。

 正直あの時は、毎日「こんなセリフ言えない」と言おうと思って稽古場に行っていました(笑)。でも結果的にあの舞台があったから今があります。つかさんから学ばせていただいたことは大きいですね。

――阿部さんご自身、役者として今どんな50代を生きていると思いますか。

 ありがたいことに、いろいろな仕事や人との出会いがあり、とても充実しています。最近思うのは、若い時より今のほうが自分のアンテナ力というか、感受性が広がっている。全て宝の山に見えて仕方ない状態。だから若い時とは違った形で貪欲(どんよく)になってるんですね。30代はただガムシャラに役幅を広げていった。実践主義だったわけですけど、今は基本を大事にしたいと思うようになった。いろいろな役をやり過ぎてグチャグチャになっているから一度整理したい、そんな状態です。

――若い時に苦労していたご自分に対して、何か言ってあげたいことはありますか。

 一瞬「もっと苦労しろ」と言おうと思ったけど(笑)、十分長く苦労しましたからね。どこに行けばいいのか、どうすればいいのか、何もわからずに答えを一人で探していた。そんな時が5~6年続いて本当に苦しかった。あの時の自分に、「もがいていた時間は無駄じゃない」と、今だから言える。

(聞き手・田中亜紀子 撮影・小山昭人)

    ◇

阿部寛(あべ・ひろし) 1964年神奈川県生まれ。87年に俳優デビュー。2012年の映画『テルマエ・ロマエ』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、14年の『ふしぎな岬の物語』で同賞優秀主演男優賞、『柘榴坂の仇討』で同賞優秀助演男優賞を受賞。16年は『エヴェレスト 神々の山嶺』『海よりもまだ深く』『疾風ロンド』などの映画に出演。

    ◇

映画「恋妻家宮本(こいさいかみやもと)」。子どもが巣立ち、2人きりになった宮本夫婦。ある日、夫は妻が隠していた離婚届を見つけてしまう。そこから始まる、おかしくもいとおしい夫婦の物語。1月28日(土)から東宝系で全国ロードショー。

監督・脚本 遊川和彦、原作:重松清「ファミレス」上下(角川文庫刊)、出演:阿部寛 天海祐希 菅野美穂 相武紗季 工藤阿須加 早見あかり 奥貫薫 佐藤二郎/富司純子

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