マッキー牧元 エロいはうまい

<26>希少な肉の部位を食べる喜び、ここにあり/とんかつひなた

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年2月16日

上ロース定食

  • 上ロース定食

  • 上ロース

  • ランプ

  • しきんぼ

  • トントロ

  • 東京・高田馬場「とんかつひなた」

 お尻やもも、首だって、思っていたに違いない。

 「どうして私たちを、とんかつにしてくれないのか」。

 「なぜ、ロースやヒレだけが優遇されるのか」と嘆き、怒っていたに違いない。

 しかし彼らの悲願は、ようやくここに成就されることになった。

 今年1月にできたばかりのとんかつ屋「とんかつ ひなた」のメニューを開けば、「ロース」や「ヒレ」に交ざって、「ランプ(腰からお尻にかけての赤身肉)」、「しきんぼう(外ももの中の内側の部位)」、「トントロ(頰から首にかけての脂の多い部分)」という品書きが載せられているではないか。

 早速、直ちに頼みたい。大至急頼みたいが、ここはまず我慢して定番の上ロースを頼もう。

 運ばれてきたロースカツの断面を見れば、ほんのりとピンクに染まった肉がしっとりと肉汁でぬれている。

 「美味しく揚がったよ。でもいつまでも見られているのは恥ずかしいから、早く食べて」と言っている。

 たまらず一口食べて、目を丸くした。

 肉がきめ細かく、前歯が肉にゆっくりと包まれると、甘い香りが広がり、肉汁がこぼれ出る。

 肉質は柔らかすぎることなく、肉をかむ凛々(りり)しい喜びを与えながら、どこか品も漂う豚肉である。

 ぴったりと肉に密着した細かい衣も香ばしく、肉との調和もいい。

 こうしたカツは、断然塩である。

 しかもこの後、他の部位も食べなくてはいけない(勝手に自分が決めているだけだが)。ソースをかけてはご飯が恋しくなってしまう。

 さあ次はランプが来た。赤い肉体からは、これまた肉汁がにじみ出て輝いている。「もう我慢できない、今すぐかんで」と言っている肉にかぶりつく。

 ああ、赤身肉なのに、甘い香りがする。

 ふくふくとした肉汁が舌に流れくる。

 ランプでうっとりとしていられない。今度は「しきんぼう」である。

 こいつはヒレである。いやヒレより少したくましい食感があって、勇猛さを兼ね備えたヒレと言った風情で、いいではないか。

 最後はトントロときた。

 脂があるがやや筋張っているので、しっかりと揚げてあり、その分衣の茶が濃い。色合いが濃い分、衣が香ばしく、カリリと揚がって、その痛快な食感と豊富な脂の溶ける具合の対比が楽しい。

 こいつにウースターをたっぷりかけて、ご飯をかきこんだ。

 たまらない。

 長らく、とんかつにされず憂き目を見て、冷遇されてきた部位たちの喜びの声が、食欲を刺激して、ああ誰か止めてくれ。

    ◇

とんかつひなた
東京都新宿区高田馬場2-13-9 鈴木ビル1階
電話:03-6380-2424

「成蔵」「とん太」という名店が居並ぶ激戦区、高田馬場に新しくできたとんかつ屋。豚肉は薬膳を配合した飼料で育てた“薬膳豚”を一頭買いしているという。そのためあらゆる部位をとんかつに向くか揚げてみて、上記の部位を揚げることになったという。他にリブロースもあり。上ロースかつ定食は昼1500円、夜1800円。なお1日1組限定(4人がベスト)で、全ての部位が少量ずついただける「食べ比べコース3500円」もある。

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

写真

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋社)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!