銀座・由美ママ 男の粋は心意気

席を譲るやさしさと譲らないやさしさ

  • 文 伊藤由美
  • 2017年3月9日

  

  • 銀座「クラブ由美」オーナーママ・伊藤由美

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 少し前にお店の女性から、こんな話を聞きました。彼女が乗っていた電車に、ひとりの高齢と見える女性が乗ってきました。するとドア近くの席に座っていた学生らしき若い男性が、意を決したように「ここ、どうぞ」と席を譲ろうとしたのです。すると、その女性はニコリともせず「冗談じゃない。私がそんな年寄りに見えるっていうの!」と言い放ちました。立ち上がりかけた彼は、まさかの“逆襲”に気後れして気まずそうな顔で座り直し、バツの悪さからかずっと顔を伏せていたそうです。

 その女性はなんて無粋なことをと思いました。年寄り扱いされたくない気持ちもわからないではありません。「まだ若者に席を譲られるような歳じゃない」「若者に気遣ってもらうほど衰えてない」というプライドや気性はたいしたものだとは思います。でも、そういう問題ではないですよね。大切なのは、席を譲ろうとした男性の気持ちにどう応えるかではないでしょうか。彼は勇気を振り絞って「どうぞ」と立ち上がったのかもしれません。その女性の言動は、その善意に応えるにふさわしいものだったのかということです。

 私などは「意地を張らないで、笑顔で譲ってもらえばよかったのに」などと思ってしまいます。譲られるのがイヤでも「ありがとう。でもすぐに降りるから大丈夫ですよ」などの断り方がなぜできなかったのでしょうか。もしかしたらその出来事がトラウマになって消極的になり、その男性は高齢者に席を譲れなくなってしまうかもしれません。

 「年寄り扱いされろ」というのではありません。相手が差し伸べてくれた善意への応え方にもマナーがあると私は思うのです。「ありがとう」と言って素直に善意を受ける。そうでなければ「ありがたいけど、今回はご遠慮させていただきます」ということを伝える。これが社会生活のマナーなのではないでしょうか。年寄りが立っているのに、若い人は席を譲ろうとしない。最近の若者は常識がないと批判する人たちもいます。でも、こうした話を聞くと考えてしまいます。席を譲らない若者と席を譲られて不機嫌になり、非難めいた言葉で断る高齢者……。

 友人から誕生日のプレゼントをもらったとき「もう誕生日なんて嬉(うれ)しくない歳なんだからいらない」「またひとつオバサンになったって言いたいわけ?!」と人の好意を無にして突き返す人がいたら、なんて非常識で失礼だと思うでしょう。たとえ「これ持ってる」「こういうのは趣味じゃない」と思っても「ありがとう」と笑顔で受け取るのが思いやりというものでしょう。それと同じですよね。善意に対する人として最低限のマナーだと私は思います。

 お店でそんな話をしたところ、ある若いお客さまは「そういうとき、僕は次の駅で降りる振りをして何も言わずに席を立つんです。これなら“席が空いた”だけで、譲った譲られたになりませんから」とおっしゃっていました。「ただ、想定外で若い人が座っちゃうこともあります。『あなたじゃないんだけど』って(笑)」

 電車で席を譲るには、譲る側がここまで気を遣うのかと驚きました。年寄り扱いではなく、目上の人や高齢者への敬意とやさしさだと受け取ってもらうのは、想像以上に難しいことなのかもしれません。譲るのがやさしさか、譲らないのがやさしさか……。高齢化社会のひとつの側面を垣間見た気がしました。みなさんはどう思われますか?

 次回は3月23日の配信を予定しています。

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PROFILE

伊藤由美(いとう・ゆみ)銀座「クラブ由美」オーナーママ

写真

東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京、クラブ「紅い花」に勤務。その後、19歳で「クラブ宮田」のナンバーワンに。さらに22歳で勝新太郎の店「クラブ 修」のママに抜擢される。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店(2013年に30周年を迎えた)。15年11月に「シャンパーニュ騎士団」より叙勲、オフィシエ(将校)を女性経営者として初叙任。著書に『スイスイ出世する人、デキるのに不遇な人』『銀座の矜持』(共にワニブックス)、『粋な人、無粋な人』(ぱる出版)、『記憶力を磨いて、認知症を遠ざける方法 銀座のママと脳神経外科医が語る、記憶の不思議とメカニズム』(ワニ・プラス)などがある。また、女優の杉本彩さんが理事長を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(エヴァ)」の理事も務め、動物愛護活動をライフワークとする。

BOOK

「できる大人は、男も女も断わり上手」(ワニブックスPLUS新書) 銀座「クラブ由美」オーナーママ 伊藤由美 著

 銀座「クラブ由美」オーナーママ 伊藤由美
「はっきりNOと言えればこんなに楽なことはないけれど」。誰しもが日常感じていることであろう。銀座で35年間にわたって一流クラブのオーナーママを務めてきた著者は「長年、政財界で活躍するお客様と接してきて感じるのは、できる人は男女ともに、断わり方がお上手だということです」と語る。また、お店で働く数多くの女性たちを見てきて、断わり上手な女性の方が長いスパンでお客様の信頼を獲得できることも感じてきたという。ビジネスから恋愛まで、著者が接客のプロとして大切にしてきた、今すぐ使える、角の立たない「お断わりの作法・技術」。

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