試乗記

伝統と革新 アストンマーティンDB11試乗記

  • 2017年3月17日

アストンマーティンDB11ローンチエディション(FR/8AT)

  • 従来モデルから意匠が一新されたインテリア。レバーで操作するフライオフ式だったパーキングブレーキは、「DB11」ではボタン操作の電子制御式となった

  • 今回のテスト車は、2017年4月までに生産される1000台限定の「ローンチエディション」。アストンマーティン推奨のオプションが、標準で搭載されている

  • アストンマーティンがターボエンジンを採用するのはこれが初。気筒休止システムやアイドリングストップ機構を備えるなど、環境性能にも配慮がなされている

  • ZF製8段ATのシフトセレクターは押しボタン式。手動での変速は、ステアリングコラムに備わるシフトパドルで行う

  • メーターはデジタル式で、パワープラントのモードに応じて表示の内容やデザインが切り替わる

  • タイヤサイズは前が255/40ZR20、後ろが295/35ZR20。フロントのフェンダーパネルには、フロントから入った空気を放出し、フロントリフトを抑制するエアアウトレットが備わる

  • 「DB11」にはコーナリング時のトラクションを高めるLSDや、トルクベクタリング機構が標準装備される

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 アストンマーティン伝統の、「DB」の2文字を車名に冠したニューモデル「DB11」。端々に伝統を感じさせるデザインで、新開発の5.2リッターV12ツインターボエンジンと先進のエアロダイナミクスを包んだ新世代アストンの実力を試す。

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ヒエラルキーを脅かす存在

 アストンマーティンのニューモデル発表のスケジュールを振り返ってみれば、新世代の幕開けを飾ったのは、一世代前も現行世代においても、ともにフラッグシップであり彼らがスーパースポーツと自社のラインナップの中で位置づける「ヴァンキッシュ」だった。

 現行ヴァンキッシュはアストンマーティン100周年を記念する2013年の発表だが、昨年(2016年)秋に高性能バージョンの「ヴァンキッシュS」に進化。フロントミドに搭載される今や絶滅危惧種といわれる自然吸気V12エンジンは、6リッターの排気量をそのままに最高出力を573psから603ps(EU仕様、日本仕様は588ps)に向上させた。

 しかし、同門にこのフラッグシップをしのぐ最高出力608psを与えられたモデルが存在するとなると、穏やかではない。それが昨年発表されたDB11だ。まさしく今、スイスで開催されているジュネーブショーにおいて、昨年アストンマーティンが「DB9」の後継モデルとしてDB11をワールドプレミアしたのは、まだまだ記憶に新しい。

 DB9の後継市販車の車名が“ひとつ飛ばし”のDB11となったのは、ご存じのように映画『007』シリーズの最新映画『スペクター』に「DB10」がスペシャルモデルとして登場したからだ。その生産台数は映画のためのわずか10台といわれている。ただし、厳密にいえばこちらも市販モデルではある。10台のうち2台がチャリティーオークションで販売され、4億円近い価格で落札されたというニュースを耳にした方も多いはずだ。

 そんなサイドストーリーはともかく、フラッグシップのヴァンキッシュを超えるおきて破りともいえそうな最高出力を達成した秘密は、アストンマーティンの100年以上に及ぶ歴史上初めてとなる、ターボチャージャーを採用した5.2リッターV12ツインターボにある。

アストンマーティンの流儀を守る

 現在のアストンマーティンは、周知の通りメルセデスAMGと技術提携を結んでいる。そのアライアンスゆえに5.2リッターV12ツインターボもAMGの……と思ってしまいそうだが、実はこのパワーユニットは完全自社開発なのだという。試しに確認すると、ボア×ストロークは89.0×69.7mm。89.0×79.5mmのボア×ストロークを持つ、おなじみの6リッター自然吸気V12のストローク短縮版であることが分かる。

 わずかとはいえ、フラッグシップのヴァンキッシュSを上回る608psの最高出力は、確かに強力無比だ。Dレンジでも無造作にアクセルを踏み込めば、3速でもホイールスピンを引き起こす。ついつい出力にばかり目がいってしまったが、ツインターボの恩恵で最大トルクも71.4kgmである。これらを「怒濤(どとう)のパワー」と表現することにためらいはない。無論、アストンマーティンも現代のスーパースポーツの例に漏れずトラクションコントロールなどの電子デバイスが有効に働き、ホイールスピンは最小限に押さえ込まれるが、しかし3速であっても多少のホイールスピンを許容するあたりは、スポーツカーの国である英国の嗜好(しこう)がそうさせるのであろうかと、走りへのこだわりをその一方で印象付けるのだ。

 アストンマーティン初のターボエンジンと聞き、V12独自の滑らかさやシャープなエンジンの吹け上がりがどうバランスされているのか、ここは気になるポイントだ。しかし心配は無用。アイドリング少し上の1500rpmから最大トルクを発生し、それが5000rpmまでシームレスに続く。しかも上はトルク感を失わずにレッドゾーンまでキッチリ回る。ZF製となる8段ATとのマッチングも良好だ。この感覚はまさにV12であり、ターボでもある。

 ターボエンジンでありながらフォーンと軽く乾いたエキゾーストノートもまたアストンマーティンの流儀を守っており、われわれファンが期待するそれの延長線上にある。DB11のパワーを体感すれば、「エンジンは自然吸気に限る」などの発言がいかにも前時代のたわ言であると理解できるはずだ。ツインターボになってもアストンマーティンの魂は失われてなどいない。それどころか、より魅力的になったとさえ思える。

乗り味の端々にブランドを感じる

 フロントに重たいV12を搭載しながら、できるだけそれをバルクヘッド側にセットし、なおかつトランスアクスルを採用するシャシーの前後重量配分は、静止状態で51:49。ステアリングを切れば切っただけスッとノーズがコーナーの内側に入る。この1900kgオーバーの車重を意識させないオンザレール感覚は、過去のアストンマーティンを知るものにとって、いかにもアストンマーティンのステアリングを握っていると思わせてくれる美点だ。

 シャシーはより進化した新開発のVHプラットフォームで、軽量なアルミ製。薄いタイヤを経由して路面から伝わるフィーリングも、これまでのアストンマーティンに近い。よってブレーキングでフロントにしっかり荷重をかけてコーナーに入るマナーはとても気持ちのいいものである。その反面、不用意にアクセルを抜いた際にフロントタイヤの接地感が少し物足りなく感じる瞬間や、路面状況によってはABSが割と早く利き始めるような感覚なども、これまで同様に残っている。

 今回の試乗は、途中から降りだした雨によって行程の半分がウエット路面だった。ドライビングのセオリー通り、コーナーでは事前にきっちりブレーキングを完了し、クリップ手前からアクセルに足を乗せて微量でもトラクションを掛け続ければ、下りのぬれた路面でもオンザレール感覚は失われない。ABSの利きが早いと感じたのは、それがデフォルトのセッティングなのか、タイヤのキャラクターによるものか、はたまた微妙なブレーキコントロールができないドライバーのスキルによるものなのかは断言できないが、コントロールの幅がもう少しあるとありがたい。

 ちなみにサスペンションはコンフォートからスポーツまで3段階に可変し、同様にパワートレインもGT/スポーツ/スポーツ+の3つのモードが、ステアリングスイッチを用いてワンタッチで選択可能。全9タイプのセッティングが任意に選べるようになっている。

伝統のデザインと先進のエアロダイナミクス

 どこからどうみてもアストンマーティンに見える(当たり前だが)エクステリアデザインにも、新世代ならではの秘密がある。これまでのアストンマーティン、つまりDB11の前となるヴァンキッシュまでは、塊から削り出したようなソリッドなボディーフォルムが特徴だった。確かに新意匠のLEDヘッドライトを採用しているとはいえ、クラムシェルデザインといわれるボンネットや、おなじみのグリル形状、ロングノーズ・ショートデッキのフォルムはDB11でも健在で、一見これまでのアストンマーティンをブラッシュアップしたように見える。

 しかし、歴代モデルのイメージは受け継ぎながらも、DB11では積極的に最先端のエアロダイナミクスコンセプトが取り入れられている。史上初のターボエンジンとともに、このエクステリアデザインもまた、DB11最大のハイライトといって過言ではない。

 まずはフロントセクション。フロントフェンダー左右にエアアウトレットが用意されているが、これはもちろんダミーではなく、フロントグリルから入った空気をここで抜いている。それにより、エンジンの冷却を機能的に行うと同時に高速走行時のフロントセクションのリフトを抑制。ホイールハウス内の整流効果も期待できる。もちろんブレーキの冷却にも有効だろう。このエアアウトレットを効果的に機能させるために、これまで後ろヒンジだったエンジンフードは前ヒンジに変更。「ランボルギーニ・ミウラ」のようにフロントカウルは車両の前に向かって大きく開く。たとえボンネットの構造を大きく変えてでも(手間もコストもかかる)、空気の流れをボディーの内側で緻密にコントロールしたいという意思の表れである。

 そして車両上半身。AピラーからCピラーまで連続するルーフフレームは一見「プジョーRCZ」のようだが、クルマに大胆でパワフルなイメージを与えてくれるのと同時に、左右Cピラーの根元に設けられたエアインテークに空気を流す役割を担う。こちらのエアインテークもダミーではない。このルーフやサイドウィンドウから流れてきたエアは、いったんボディー内部に取り込まれたあと、リアデッキリッド後端上部の開口部から排出される。これはF1マシン等で採用される「ブロウンスポイラー」と同様の技術であり、アストンマーティンではこれを「エアロブレード」と呼んでいる。

ゾクゾクするほど革新的

 大げさなリアスポイラーを採用することなく、高速走行時に強力なダウンフォースを得ることができるアエロブレードの採用は、間もなくその全貌が解明されるであろうアストンマーティン期待のウルトラハイパフォーマンスカー「ヴァルキリー」の存在にも通じるものがある。もちろん空力的付加物を用いることなく最新のエアロダイナミクスを搭載したのは、ハイパフォーマンスカーでありながらノーブルという形容がふさわしいアストンマーティンの美意識から生まれ出たものだと考えることもできる。

 かつて、ヴァルキリー(当時は「AM-RB 001」と呼ばれていた)の発表会のために来日したアストンマーティンのデザインディレクター兼チーフクリエイティブオフィサーであるマレック・ライヒマンに、直接話を聞く機会があった。彼は「機能を持たない単なるデザインは、次世代のアストンマーティンにふさわしいものとは言えない」と語っていたが、すでにDB11でもそうしたコンセプトを実現していたのだと感心しきりである。塊から削り出したような造形がアストンマーティンの持ち味だと思っていたが、それにミックスされた空力的機能に裏打ちされたレイヤードデザインこそが、次世代モデルの証しである。

 インテリアにメルセデスの影がちらついて見え、特に逆回転のタコメーターやダッシュボードに差し込むECU(エモーショナル・コントロール・ユニットとは言い得て妙なネーミングである)が廃止されたあたりに寂しさも感じるものの、しかし(オーナーにしてみればスペアキーを作る際には)バカ高く重いクリスタルのキーの有無よりも、モダンに進化し、ダウンサイジングブームの中にあってもV12を捨てなかったDBシリーズが次の100年の歴史を作るために継続されたことを喜ぶべきだろう。

 大きく開いたグリルを持つ、いかにも伝統的なアストンマーティン然とした見た目にだまされてはいけない。DB11はわれわれが考えている以上に先進的で革新にあふれた、ゾクゾクするようなニューモデルである。

(文=櫻井健一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

テスト車のデータ

アストンマーティンDB11ローンチエディション

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1950×1290mm(車検証記載値)

ホイールベース:2805mm

車重:1910kg(車検証記載値)

駆動方式:FR

エンジン:5.2リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ

トランスミッション:8段AT

最高出力:608ps(447kW)/6500rpm

最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1500-5000rpm

タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)295/35ZR20 105Y(ブリヂストン・ポテンザS007)

燃費:--km/リッター

価格:2591万5720円/テスト車=2879万6080円

オプション装備:スペシャルAMLカラー<ウルトラマリンブラック>(61万9920円)/エクステリアフィニッシャーパック<ダーク>(36万9360円)/アンダーボンネット・ジュエリーパック(26万0280円)/10スポークディレクショナルシャドウクロムホイール(17万4960円)/ブレーキキャリパー<ブラック>(18万4680円)/コンテンポラリーパック(43万5240円)/インテリアブラックパック(8万6400円)/ジュエリーパック<ダーククロム>(18万4680円)/ヘッドレストエンボス加工<DB11ロゴ>(5万1840円)/パッセンジャーシートIsofix(3万4560円)/パワーシートボルスター(8万6400円)/フロントシートベンチレーション(18万4680円)/プレミアムスモーカーパック(8万6400円)/アンブレラ(3万4560円)/オートパーキング(8万6400円)

テスト車の年式:2016年型

テスト開始時の走行距離:4179km

テスト形態:ロードインプレッション

走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)

テスト距離:226.0km

使用燃料:34.0リッター(ハイオクガソリン)

参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)

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