私の一枚

絶望を乗り越えた経験が今に生きる 趣里さん

  • 2017年4月10日

6歳の時のバレエの初舞台を踏んだ趣里さん。4歳から井上バレエ団で稽古を始めた

  • 身体表現が美しい女優趣里さん

  • 趣里さんが出演する舞台「黒塚家の娘」

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 私が人生で初めて舞台にあがった日の写真です。バレエの発表会が6歳の時にあり、同じような小さな子たちと一緒に「カルメン」を踊りました。メイクも初めてで「こんな顔になるんだ」と驚いたこと、舞台では緊張のあまり「右、左、右」と足を出すところを「右、左、左」になってあせったこと、また照明のまぶしさや満員の観客席などを覚えています。

 両親が撮ってくれたこの写真やビデオを見返すたびに、私のバレエ人生は、この舞台からはじまり、ずっと毎年途切れることなく舞台に立っていたことを思い出します。やはり、この初舞台には特別な思い入れがありますね。

 この後レッスンを懸命に続け、5年生の時に憧れていた「くるみ割り人形」の主役、クララ役をいただきました。この頃から本格的にバレリーナになりたいという夢を描きはじめたのだと思います。踊ることや表現することが好きなのはもちろん、見る側でも美しさや日常から違う世界に連れて行ってくれるバレエに魅了され、その道に進みたいと思いました。

 中学生になると留学を目指し、毎日レッスンに通うバレエ一色の生活に。そしてオーディションに合格し、高校にあがるタイミングで英国のバレエ学校に留学できた時は、本当にうれしかった。憧れている場所でのバレエ漬けの生活は夢のようでした。

 でも海外の方とは体格も違うし、英語も当初は話せず不安もいっぱいありました。それで、頑張りすぎたんでしょうね。最初はねんざを重ね、アキレス腱(けん)も痛め、ついにはジャンプに失敗した時に骨折してしまったんです。治療のために留学を中断して帰国。お医者さまから「感覚が戻るかどうかはわからない」と言われ、結局、バレリーナへの夢を断念せざるをえなくなりました。

 当時はおかしくなりそうでした。それまで自分がずっと一生懸命やってきたことが無になってしまって……。正直、死んだほうがいいとまで思ったこともあります。それでも、やっぱり生きていかなくてはいけない。そのために前を向こうと徐々に思い始め、高校の卒業資格を取って大学に進みました。

 学びながら将来を模索し、どうしても表現したい気持ちが消えず、同じエンターテインメントである芝居のレッスンを受けてみることにしたのです。やってみて、本当にやりたい覚悟ができたらその道に進もうと。私の場合、もし女優を目指すなら「二世」になるので、生半可な覚悟ではできないという危機感もありました。

 しかしやってみるとこれが面白くて……。特にレッスンの先生だった塩屋俊さんとの出会いが私には大きかった。バレエへの心残りや、大好きで尊敬しているけどコンプレックスもある両親への思いなど、いろいろな思いを抱えていた私の人生を全面的に肯定してくださったんです。「趣里はそのままで大丈夫」と。その言葉は、女優を目指して活動する中で心が折れそうになるたびに支えになりました。

 いずれバレエをやってきたことが生かせられたらと思っていましたが、最近、映画や舞台で踊らせていただくことも増え、見た方が喜んでくださることがすごくうれしい。一度は絶望しましたが、あの時生きるために前を向いた、その経験がさまざまな困難を乗り越えさせてくれています。女優として、みなさんに楽しんでいただける仕事に携わっている今、私はとても幸せです。

    ◇

しゅり 女優。1990年東京生まれ。両親は水谷豊、伊藤蘭。2011年ドラマ「3年B組金八先生ファイナル~『最後の贈る言葉』」で女優デビュー以降、舞台、テレビ、映画など幅広く活躍中。近年の主な出演舞台作品に「大逆走」「ファンファーレサーカス」「アルカディア」「メトロポリス」「陥没」等。映像作品では、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、映画『過激派オペラ』『秋の理由』『母 小林多喜二の母の物語』など

◆趣里さんが出演する舞台「黒塚家の娘」が、5月12日から6月11日まで上演される。安達ケ原の鬼婆伝説が由来の能「黒塚」をモチーフとする幽玄の世界を、現代の人間の心に写すファンタジーホラー。傷心を抱え、放浪の旅に出た若き牧師が、霧深い森に迷い込み、謎めいた母子が住む屋敷で一夜を過ごすことに。そこで彼の前に「開けてはならない」という禁忌の扉が現れて……。出演:風間俊介、趣里、高橋克実、渡辺えり、会場:シアタートラム。詳細はシス・カンパニー公式サイト(http://www.siscompany.com/kurotsuka/)で。

「脚本を読んで、こんなにわくわくする作品はなかなかないと思いました。しかもこのようなすてきなメンバーの中で、とてもミステリアスな役をやらせていただけるなんて、楽しみで仕方がありません。シス・カンパニーのお芝居は好きでずっと拝見してきて、『アルカディア』というお芝居で声をかけていただき、その時の役は今も自分の中で大きなものとして残っています。今回は主役の風間さんと一緒に観客の方も森に迷い込み、意外なラストに共に向かっていくようなお芝居にできたらと思っています」

(聞き手:田中亜紀子)

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