テクノロジーの〝穴〟を突く次世代サービスへ 海外ITビジネスの猛者に学ぶ

  • 2017年4月13日

講演するベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)氏(写真提供:一般社団法人新経済連盟)

 4月6日、世界のIT業界を先導する2人が東京都内で開かれたイベントで登壇し、いま関心を持っているIT関連の最先端のテーマについて語った。

 1人は「シリコンバレー最強の投資家」とも称される、「Andreessen Horowitz」共同創業者兼ゼネラルパートナーのベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)氏。FacebookやTwitter、Airbnbといったテクノロジー企業に早期から投資してきた人物であり、ベストセラー『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』の著者としても知られる。

 もう1人は、今や5億人以上が使用しているというDropboxの共同設立者兼CEO、ドリュー・ヒューストン(Drew Houston)氏だ。2人が示した知見は、ビジネストレンドに敏感な来場者を大いに刺激していた。

 

 2人が登壇したのは、一般社団法人新経済連盟が開催した日本最大級のグローバルカンファレンス「新経済サミット2017」(New Economy Summit 2017)。4月6、7両日にわたって開催された。

 ホロウィッツ氏の基調講演では、新経済連盟代表理事の三木谷浩史氏がモデレータを務めた。冒頭、ホロウィッツ氏は、人工知能(AI)やIoT、シェアリングエコノミーといった新潮流が渦巻く現在の世界経済に対して、「これだけ急速に物事が進展していることは驚くべきことだ」と切り出した。

 ITビジネスの猛者でさえ驚きを隠さない現状では、続いて三木谷氏が述べたように、ユーザーフレンドリーになればなるほど、一部の人には、新技術に対するセキュリティ意識を高め、場合によっては危機感を募らせてしまいがちだ。しかし、ホロウィッツ氏は楽観的だった。

「アメリカで自動運転ビジネスに携わっている人と話をすれば、『人が運転しているよりも安全だ』と彼らは言うだろう。〝止まれ〟の標識が木の陰に隠れてしまっている、といった特殊な状況を除けば、自動運転にまつわる問題の9割は解決されつつある。AIがシンギュラリティに至った場合、人間の仕事がなくなってしまうと警鐘を鳴らしている人もいるが、今の段階でそう考える根拠はない。より現実的に考えるならば、インターネットが普及し始めた当時のことを思い出せばよいだろう。あの頃に危険視されていたセキュリティリスク、あるいはサイバー戦争勃発といった予測は、もちろん一部では当たってしまった。しかし、それでも私たちは皆、インターネットを手放さずに使い続けている」

  

 来たるべきブレイクスルーを阻害すべからず、という見識は、先駆的な投資を行ってきたホロウィッツ氏ならではだ。

 続いて、三本谷氏は「近年の起業家のミッションは『プラットフォームをつくること』になってきているかもしれないが、どのような起業家に興味を持つのか」と質問。ホロヴィッツ氏はこう答えた。

「他の誰もが持っていないような〝シークレット〟を持っている会社に投資する。〝シークレット〟とは、決して技術的な機密にとどまらない。多くの人の生活に影響を与えるという、社会的な責任もきちんと見込んだヴィジョンを指している。今日では、収益を上げたいという欲望だけでは企業は成り立たず、人材も集まらない。自らのビジネスが与える社会的なインパクトに対して、責任を負いながら、きちんと利益も生んでビジネスを成立させていく、ということ。このような意味において、たとえばFacebook創設者、マーク・ザッカーバーグは素晴らしい仕事をしている」

 そして、「今、気になっている分野は?」という質問に対しては、スタートアップも経済合理性を担保しやすくなってきていることを理由に「バイオロジー」を挙げ、隣接する分野として、創薬にかんするAIの応用可能性も見込まれるメディカルの分野に触れた。

 そしてもう一つ、氏はいま話題のテクノロジーに対して〝逆転の発想〟を披露した。

「〝アンチドローン〟――いわば、ドローンの飛行を不可能にする技術です。今でさえ、ドローンを飛ばして飛行機を落とそうなどと試みる例が出ているので、一斉に普及するドローンの動きを無能化する技術も必要になってくるのではないか」

Dropboxの共同設立者兼CEO、ドリュー・ヒューストン(Drew Houston)氏(写真提供:一般社団法人新経済連盟)

 もう1人の登壇者ヒューストン氏は、Dropboxの歴史と共に、データがドライヴさせるエコノミーの最前線を歩んできた。ヒューストン氏は、現在「〝チームの同期〟を支えるサービスに注力している」そうだ。

 データをオンライン上に預け、個人やグループで利用するプラットフォームに関して、もはや私たちは当然の存在として日々利用している。その次のステップとして、ヒューストン氏らが考えた新規ソリューションの一例が、今年初頭にリリースされた「Dropbox Paper」だ。チームメンバーが協力することによって、より良いアイデアの創出を促すフレキシブルな〝ワーキングスペース〟をうたっている。

 

「私たちが2007年にサービスを立ち上げた頃は、クラウド上に情報を格納できればいいと考えていた。その目標は現在ではほぼ達成できた。次に考えたのは、〝ストレージ〟という枠をこえた〝人々の連携〟だ。一つの部屋で会議をしているような体験を再現したかった。競合する他のサービスは、リアルタイムコラボレーションには優れているがアップされたデータの整理が手間だったり、既にアップされたデータは見つけやすいがそこからの編集が困難だったり、と一長一短がある」

「この双方の長所を組み合わせたのがDropbox Paperだ。ドキュメントのコラボレーションを可能にしながら、そのデータは整理され、すぐに情報を見つけられるようにした。まったく新しい形でナレッジマネジメントができ、チーム作業の組織化・体系化に優れている」

 日本でも「働き方改革」の視点で、活用されやすいサービスだ。一方で、重要な情報をオンライン上に置き続けることに対する不安も胸をよぎる。だが、そうした懸念をヒューストン氏は一掃した。

  

「新たな技術は常に進化する。皆さんもインターネット上で初めてクレジットカードの番号を打ち込む時、本当に入力していいか不安になった体験があるだろう(笑)。しかし新しいテクノロジーであればあるほど、セキュリティに対しては多くの投資がなされる。店頭で、まったく見ず知らずの店員にクレジットカードを手渡すよりはよほど安心なのだ。Dropboxのようなサービスの利用は、よりセキュリティに優れた環境に情報を置いていることを意味する」

 そして、こうした新サービスの立脚点は、情報を求めながらその情報に混乱させられている、そうした現代人のアポリアの打開にあったようだ。

「今は情報過多。Eメールは、うんざりするほど大量に届き、人々の間のコミュニケーションは混沌としている。いろんなランプが絶えず点滅することで集中ができず、図書館員のように、そうした状況を管理しなければいけない。しかし、情報を整理し、優先順位をつける作業は、機械が得意とするところだ。機械学習を活用することによって、私たちの仕事が変革されていくだろう」

 ホロウィッツ氏が言及した〝アンチドローン〟の可能性も、ヒューストン氏が提案した、整理された情報空間における〝ワーキングスペース〟のポテンシャルにしても、高度にIT社会が発達したからこそ発生した、ビジネスのネクストステップである。私たちを取り巻く環境を冷静に見つめ直すことが、新たなビジネスの芽の発見を促すのかもしれない。

(文・ライター 宮田文久)

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