私の一枚

徹夜で踊り続けた郡上おどり 中村 中さん

  • 2017年4月17日

2016年8月。岐阜県の郡上おどりの中で、徹夜で踊り続ける「盂蘭盆会」に参加した中村 中さん

  • 芸能活動10周年を迎えた中村 中さん

  • 中村 中さんの10周年のファイナルを飾るライブ「天晴(あっぱ)れ! 我は天の邪鬼(じゃく)なり」

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 子供の頃から盆踊りが好きで、友人から「徹夜で踊り続けるすごい盆踊りがある」と聞いて昨年8月、岐阜県郡上市八幡町で行われた郡上おどりに参加しました。

 郡上おどりは7月中旬から9月上旬まで行われるのですが、お盆の最後の数日に行われる「盂蘭盆会(うらぼんえ)」は、夜の8時ごろから朝まで踊り続ける大がかりなもの。今は観光客も増えてきましたが、それだけの時間を割いて町の人たちがみな参加する、とても地元に愛されている盆踊りです。

 私は、郡上八幡近くの「白鳥」という場所の盆踊りと2夜連続で参加しました。白鳥の踊りは、徐々に速度をアップし、下駄(げた)のかかとを合わせてならし、最後にはタップダンスのような盛り上がりを見せます。一方、郡上の踊りはとてもゆっくりで、盂蘭盆の最後の晩は能のような静かな踊りが続き、何時間も延々と踊れるんです。私も夜通し踊る中、一度しか休みませんでした。みんなで黄泉の国に近づいていき、この世とのはざまでトランス状態になるというか。その静かな熱気の中には、生者も死者も共存するがごとく、最後はそれぞれの人や先祖に、また来年お会いしましょうと別れを告げる。

 町の老若男女、中には仲が悪い人もいるかもしれませんが、みんなが列をなして、同じ方向を見ながら、同じ振りを踊っていることは、とても平和的であり、それを見ると私は救われた気持ちになります。

 子供の頃から私は集団でやることにうまく参加できませんでした。当時はセクシャリティーのことは明かしていませんでしたし、自分が人と違っていることに触れられたくなかった。周囲も私をどう交ぜていいかわからなかった。でも自分の中でどこか集団でやることへの憧れはあったと思います。だから誰もが気軽に参加できる盆踊りが昔から好きだったのかもしれません。

 言葉もかわさずに同じ場所で同じように楽しんでいる人々を見ながら、なぜ普段はこんな風にできないのだろうと思います。だからこそ、つかの間の幸せを感じたくて、私は盆踊りに参加するのかもしれません。

 世通し踊った翌日は心地よい疲労感がありました。日ごろ抱えているものが、大きな渦に参加したことで、浄化される。そんなカタルシスがありましたね。こういう感じは自分の音楽活動にもすごく刺激を受けます。ライブも1曲目から最後まで気流というか、一つの流れを私が作り出し、その流れの中で観客の方と最終的には一緒に泳いでいるような気持ちになり、浄化される。そんなライブを私もしたい。郡上の盆踊りは、そういう意味でも私の憧れの形です。

 今回の刺激もあって、前からやってみたかったローカルな盆踊り用の音頭と振りつけを作ってみました。この曲で多くの方が踊って、盆踊りに来てくださった方にその町のことも知っていただける。そんな流れになったらすてきですね。

    ◇

なかむら・あたる 歌手・作詞作曲家・役者。1985年東京生まれ。2006年シングル「汚れた下着」でデビュー。体と心の性が一致しないトランスジェンダーであることを公表。セカンドシングル「友達の詩」(06年)で第58回NHK紅白歌合戦に出場。最新作はアルバム「去年も、今年も、来年も、」(15年)。岩崎宏美、八代亜紀など多くの表現者に詞・曲提供も行い、また役者として『夜会vol.18「橋の下のアルカディア」』(14年/作演出・中島みゆき)、『ライ王のテラス』(16年/演出・宮本亜門)など様々な舞台に出演。

◆中村 中さんのデビュー10周年のファイナル企画として、5月20日に「天晴れ! 我は天の邪鬼なり」を東京国際フォーラムで開催。デビュー以来、歌手、作詞作曲家、そして役者として幅広い活動を続けてきた彼女の10周年の結びを飾る10本目のライブ。

「私はこの10年、ずっとステージに上がる人間としての在り方に迷っていました。デビュー後、自分のセクシャリティーについてカミングアウトしました。歌の内容と自分が直結しているように見えたと思いますが、曲を書いた時の自分としてステージに立つことが難しかったのです。今後は自分がこうあるべきというステージをお見せしたい。それが私にとって『天の邪鬼』なんです。やわらかいと思ったら固い、冷たいと思ったら熱い、触ったら逃げそうなのにまとわりついてくる。そんな人に私自身がふりまわされたい。悩みがあっても、喜怒哀楽を全部出し、張り詰めたものと弛緩(しかん)したものの両方を見せることで、みなさんの心がライブで浄化できるといいなと思っています」

(聞き手:田中亜紀子)

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