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ザッピングさえ難しい情報過多のいま、自分たちの「好き」を発信 VICE Japan

  • 佐藤ビンゴ&川口賢太郎さんインタビュー
  • 2017年5月11日

 今もアイヌの女性が肌にまとう入れ墨にフォーカスし、綾野剛が映画で演じた悪徳警官のモデルとなった人物に話を聞く――既存メディアとひと味ちがう記事と動画をアップしつづけるVICE Japan。1990年代以降「若者のBBC」と呼ばれ、ニューヨークを拠点に世界30カ国以上に支部をもつ一大デジタルメディアの日本支社として、2012年に立ち上げられた。率いるのは、メディア出身でなく、かつて国内外でカルト的な人気を誇ったバンドのメンバーだった2人。代表・佐藤ビンゴさんと編集長・川口賢太郎さんの新鮮な言葉は、情報に埋もれる私たちのあり方を見つめ直させてくれる。

VICE Japan代表取締役の佐藤ビンゴさん(左)と編集長の川口賢太郎さん

――本体のVICEは94年、パンクやセックス、ドラッグなどの情報を扱うフリーペーパーとして始まり、その後ウェブに進出、2015年にはテレビ局「VICE LAND」も開局させました。VICE Japanも骨太のテキストがあり、YouTubeにアップされた動画は1000万再生を超えるものもある。新興のストリーミングサービス「AbemaTV」のドキュメンタリーチャンネルでも放送しています。

佐藤 良いコンテンツをつくれるようになってきたと思うので、どこに出しても大丈夫、という感じですね。他社のメディアやプラットフォームでもコンテンツを展開する「分散型メディア」が流行していますが、それとは違うと思っています。

 もちろん、試行錯誤しています。VICEは“タブー”を扱う、だから“ヤバい”と評価された時期があり、本国アメリカでも、そうしたイメージに乗っかって安易にタブーに突っ込んだ時期があった。2012年にVICE Japanをローンチした後でも同様のことがありました。しかし、だんだんとアウトプットするものも変わり、進化してきたのではないでしょうか。

VICE Japan代表取締役の佐藤ビンゴさん

川口 本当に人の役に立つコンテンツをつくりたいです。過去のVICEのイメージを引きずって「最近のVICEにはタブーが足りない」と言ってくる人もいて、難しいですが。そもそものVICEが生まれた90年代は、タブーをタブーとして囲い込むようなこともありませんでした。メインストリーム以外は全部、良い意味で〝変なもの〟で。情報が増えて人が混乱しだした時に、タブーという分かりやすいレッテルに物事を押し込みたくなったのではないか。

 そもそも、僕らが若いころにテレビを見て抱いた違和感と、いまネットの主流を見て感じる違和感は何も変わっていません。最近テレビがつまらなくなったと語られますが、僕らは前から主流の文化がつまらなかったからこそ、「訳がわからない」と言われるような音楽をしていたわけで。インターネットにしても、これで世界が変わるとみんなが期待していたころから知っていますが、情報が増えた分、余計にメインがハッキリしてきてしまったし……。

――そうした状況下において、VICE初の定額制動画配信サービス「VICE PLUS」を今年2月にローンチしました。ドキュメンタリーから、ルイ・リュミエールやスパイク・ジョーンズらの名作短編映画、新進作家の映像作品と、こだわりのコンテンツが集まっています。

川口 NetFlixやHuluもいいけど、そんなにたくさんコンテンツがあっても、「いや俺、これしか見たいものないのになあ」って思うんですよね(笑)。

佐藤 自分たちが見たいものしか置いていない「VICE PLUS」は、ある意味でレコード屋っぽいところがあるかもしれないね(笑)。物事の良しあしはなかなか判断できませんが、公の場で、これが「好き」だということを、もっと人は言っていいと思います。大事なことなのに、みんな、なかなか口にしないですよね。

川口 これだけ世の中に情報量が多くなったら、もう選べないじゃないですか。12チャンネルだったらなんとか1人でカバーできたかもしれないけど、もう今は無理でしょう。言わば、ザッピング(テレビのチャンネルと次々と変えてながら視聴すること)さえできなくなっている状態。だったら、VHSの時代から海外のパンクバンドシーンを撮っていた映像製作チームに新しい動画を撮ってもらおう、というのがVICE PLUS。メディアという立場を通じて、夢を実現しているだけかもしれませんが(笑)。人に対して、これが面白いでしょと強要はできませんが、こういうのが「好き」だとは言えますから。

VICE Japan編集長の川口賢太郎さん

佐藤 きちんとビジネス上の意味合いもあります。ブランドやキャリアにスポンサーについてもらうB to Bのコミュニケーションも大事ですが、他方できちんと読者と直接向かい合うB to Cの場を構築していきたいと思っています。

――「好き」の結果が、広く社会と結びつくのが興味深いです。川崎の工業地帯において、シビアな環境で育ちながらサバイブする若手ヒップホップ集団を追った動画は、100万再生を突破するほど話題を呼びました。

佐藤 やっていることは、普通と言えば普通です。関心がある対象者がいて、行って、話をして帰る――。

川口 答えの出ない話を聞きに行く、というVICEの姿勢が、新鮮に感じられるのでしょうね。僕らもバンドマンだったから身に覚えがありますが、あらかじめ答えを持ってくるインタビュアーの方っているじゃないですか(笑)。

佐藤 ドキュメンタリー映像の世界においても、落としどころがある程度決まった企画書があって、それに沿って撮影もナレーションも進行させる――そうしたことがVICEにはないですね。「このトピックについて知りたい」という動機が大きい。

川口 「本当に知りたいのなら、俺のことなんか説得しないで行ってくればいいじゃん」って言うときもあります。「いいよ、企画書なんて気持ち悪い」って(笑)。

  

――「行ってくればいい」と言うにしても、〝体当たり取材〟をするような既存のマスメディアとも違う態度だと思います。一方で要領よく情報だけ引っ張ってきてキャッチーなタイトルで読者を巻き込む近年のキュレーションメディアとも異なる。本体のVICEが2007年に公開した映像『Heavy Metal in Baghdad』(フセイン政権失墜以降のイラク戦争下、バグダッドで活動していたヘビーメタルバンドを追ったドキュメンタリー)は、その意味で象徴的です。

川口 けなすわけではないですが、芸能人の恋愛事情とか、別に知らなくていいことを〝すっぱ抜く〟ことがもてはやされるのもピンとこないです。そのリークが、政治権力にまでかかわっている大規模な汚職とかなら話は別ですけど、そうではないゴシップの速報には、僕個人の問題かもしれませんが、何の意味も感じないので。

 僕たちは変なところに興味があるというか、その〝興味〟しかない。だって、あのバグダッドのヘビーメタルバンドは、正直言うとカッコよくもなんともないじゃないですか(笑)。でも、イラク戦争でドンパチやっているところで敵国側の文化であるヘビメタに夢中になっているというのは、誰にとっても驚きであるわけです。戦争をしていても、別に国民みんなで総力戦をやっているわけではない、個人それぞれの生活があるという意味で、とても面白い。

佐藤 外から見たら同じネット発信のメディアとしてくくられるかもしれませんが、僕たちは別にキュレーションメディアの世界に飛び込もうとしているわけではないですし、ほとんど意識はしていません。もっと人を〝釣り〟ましょうという意見をもらうことも多かったですが、面倒くさいなあと感じていたし、今でもそうしたメディアは早く淘汰(とうた)されればいいと思っています(笑)。

 たしかに、そこには何百万人も多くの人が集まって来るのでしょう。でもVICEは役割が違うと思いますし、だからこそ見に来てくれる人がいる。そして僕らのコンテンツも、何百万人の人に集ってもらえるものになると思っています。

同じネットでも、キュレーションメディアは意識していない、VICEは役割が違うと語る

(文・宮田文久、写真・花田龍之介)

VICE Japan
http://jp.vice.com/

VICE PLUS
http://jp.vice.com/topics/vice-plus

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佐藤ビンゴと川口賢太郎

佐藤はVICE Japan代表取締役、川口が同編集長を務める。1995年にバンド「54-71」を同級生らと結成、国内外でカルト的な人気を集める。2007年に音楽レーベル&プロモーター事業を行う「contrarede」を設立。2012年には佐藤がグローバルメディアであるVICEの日本支社「Vice Media Japan」を設立、同社代表取締役に就任。追って川口が合流し、現在に至る。

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