55年前に発表された三島由紀夫の『美しい星』を映画化、吉田大八監督が語る[PR]

  • 2017年5月19日

火星人として覚醒したお天気キャスターの父親役を演じる主役のリリー・フランキーさん
(c)2017「美しい星」製作委員会

  • 「もし三島(由紀夫)さんが観てくれたとしても、怒らない気がするんです。ニヤッと笑って劇場を出ていくんじゃないかな」と話す吉田大八監督 (c)2017「美しい星」製作委員会

「地球(ここ)は僕たちが限られた時間を過ごす場所(ホーム)
生きる意味を求めてもがき、やがて家族や大切な人と別れていく」

 ある日突然、平凡な家族が「宇宙人」として覚醒し「美しい星・地球」を救う使命に目覚めた。三島由紀夫が1962年に発表した異色のSF小説を現代に大胆アップデートした映画『美しい星』。筒井康隆が「なんという繊細な映画であろう」、又吉直樹が「何回も観(み)たくなる映画」と惜しみない賞賛をおくるこの映画について、吉田大八監督に話を聞いた。

『美しい星』の映画化は30年越しの悲願

 『美しい星』は、初めて読んだ大学生の時に「映画化したい」と思い、周囲にそう言い続けてきた、僕の30年越しの思いが成就した作品です。原作は三島さん自身が「実にへんてこりんな小説」と語るほどの異色作。スピリチュアルという言葉もまだ一般的でなかった時代に、平凡な家族が宇宙人の意識に覚醒し、地球を守る使命を担う。不条理で、先駆的。8ミリカメラで自主映画を撮っていた当時の僕は、この途方もなく自由な表現に憧れました。

 原作のある作品を映画化する場合、そのスピリットをどう摑(つか)むかに注力します。本作では、1962年の米ソ冷戦時代の核の危機をタイムリーに小説の中に取り込んだ三島さんの同時代性に意義を感じました。だから原作の時代設定のままの文芸作品にするのではなく、今を描く映画にしなければと思いました。

 現代に舞台を変える脚色は、想像をはるかに超える大変な作業でしたね。「もし三島さんなら今の世界をどう見るか」と、無謀ながらも徹底的に考えました。原作の「核」に変わる危機は「地球温暖化」にしましたけれど、危機の種類が何かより、迫り来る危機を意識してもこの地球という惑星で生きるしかない人間たちのジタバタする姿を見つめるような作品にしたいと思っていました。

使命を得ることで人は変わることができる

 主人公一家のキャラクターも、現代風にアレンジしました。

 主役のリリー・フランキーさんが、火星人として覚醒したお天気キャスターの父親役を演じます。温暖化の危機を激しく訴えながら、徐々に消耗していく鬼気迫る演技に、あらためてすごい俳優だなと思いました。金星人として目覚める娘役は橋本愛さん。自分自身をも傷つけてしまうほどの孤高の美しさを持った女性という設定で、この役は彼女以外に考えられなかった。父親として自分が息子にどんな目で見られたら一番きついかと考えて、浮かんだ顔が亀梨和也さん。水星人として目覚める、野心家でナイーブな息子を鮮烈に演じてくれました。中嶋朋子さん演じる母親は地球人に設定して孤独感を強め、同時に家族をつなぎとめる役割を持たせました。

 みなさん、演じるのはとても難しかったと思います。宇宙人として目覚めたといっても、僕も「宇宙人」の演技については説明のしようがない(笑)。でも宇宙人という設定は特殊ですが、使命に目覚めることは誰にでもありますよね。例えば子どもができた時に父親という使命が生まれるとか。僕は使命感を持って映画を作っているけど、実は作らなくても誰も困らない。それでも僕は使命がない人生を送れないだろうし、多くの人もまたそうだと思うんですね。主人公たちも覚醒した後のほうが生き生きとしています。

 人は誰もが、使命を得て変わることができる。こうありたいという自分と生の自分の接点を、ギリギリのところで探りながら生きていく。宇宙人役という使命を与えられた今回のキャストは、同じように苦しみながら、自分で役を摑み取って熱く演じてくれました。

 そう言えば、何かが降りてきたとしか思えないような出来事がありました。リリーさんがテレビの中で、火星人としてメッセージを送る時に決めるポーズがあるんですが、本番で事前に決めていたものとは全く違うポーズをとったんです。すごいインパクトだったのに、本人は「俺、何かやりましたか?」って。覚えていなかったんですよ。

ラストシーンに僕が観たかったもの

 印象に残っているシーンはたくさんありますが、例えばクライマックスの地球人を救うべきかの論争シーン。僕自身が地球や人間の問題をどう捉えるかを徹底的に考えなければならず、シナリオで最後の最後まで苦労した場面です。リリーさん、亀梨さん、蔵之介さんが壮絶に演じてくれて、見応えのあるシーンになりました。

 そしてラストシーン。原作では後半、バラバラだった家族がそれぞれに傷つき、つながりを取り戻して壮大なラストに向かうんですが、この場面が僕は好きなんです。だからそこはほぼ原作通りに作り、最後にあえて原作にないシーンを入れ込みました。それは僕自身が最後に観たかったもの。このシーンを思いついた時「自分はこの映画を作れる」と確信できました。

 原作ファンの賛否両論は覚悟しています。でも、そもそも三島さん自身が、物議を醸し出すことを恐れぬ覚悟があった方。怒られるぐらいに挑戦するのが三島さんの作品を映画にする際の正しいスタンスだと、自分を駆り立ててきました。

 とは言え、常に自分の頭の中にいる三島さんと対話しながらいろいろなことを決めてきたつもりなので(笑)、もし三島さんが観てくれたとしても、怒らない気がするんです。ニヤッと笑って劇場を出ていくんじゃないかな(笑)。

 今、この時代にこの映画を発表する必然性をつくづく感じています。55年前にこの原作に「小さな祈り」を込めた三島さんからバトンを受け取り、映画にして、観る人の心に届けることが僕の役目。僕らは地球という「美しい星」の上である限られた時間を過ごし、やがてそれぞれに家族や大切な人々と別れていくけれど、そのかりそめの時間、誰もがここで生きる意味、生きた証しを求めて精一杯もがかずにはいられない。映画の中で主人公一家がもがく姿を通じて、自分と世界との関わりというものに少しだけ思いを馳(は)せていただけたら。そして観ている間も、観た後もどこかにずっとそんな思いが残っている。そんな息の長い映画になったらうれしいですね。(談)

吉田大八(よしだ・だいはち)
映画監督。1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外で広告賞を受賞。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され話題となる。その後の監督作として『クヒオ大佐』(09年)、『パーマネント野ばら』(10年)。『桐島、部活やめるってよ』(12年)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。『紙の月』(14年)で第38回日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。作・演出を手がける舞台『クヒオ大佐の妻』が5月19日から東京芸術劇場シアターウエストにて上演。

【ストーリー】
「当たらない」お天気キャスターの父・重一郎(リリー・フランキー)、野心あふれるフリーターの息子・一雄(亀梨和也)、美人すぎて周囲から浮いている女子大生の娘・暁子(橋本愛)、心の空虚感を持て余す主婦の母・伊余子(中嶋朋子)。そんな大杉一家が、ある日突然、火星人、水星人、金星人、地球人として覚醒。「美しい星・地球」を救う使命を託される。ひとたび目覚めた彼らは生き生きと奮闘を重ねるが、やがて世間を巻き込む騒動を引き起こし、それぞれに傷ついていく。なぜ、彼らは目覚めたのか。本当に、目覚めたのか――。そんな一家の前に一人の男が現れ「地球に救う価値などあるのか」と問いかける。

出演:リリー・フランキー 亀梨和也 橋本愛 中嶋朋子/佐々木蔵之介ほか 監督:吉田大八 脚本:吉田大八 甲斐聖太郎 原作:三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫刊) 配給:ギャガ (c)2017「美しい星」製作委員会

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