インタビュー

現地集合主義を掲げた編集者・岡本仁が語る「綴じられた印刷物の魅力」

  • 2017年6月6日

「バブル期の最後の方だったので、編集のための予算を厳しく指摘されたことはなかったですね」と話す岡本仁さん

  • 「先輩は夜飲みに出て、また帰ってきて朝まで仕事するような豪傑ばっかり。とんでもない世界に足を踏み入れたな、という印象を抱きました」

  • 「『一緒に仕事をしたことがない僕を、なぜ後任にしようと思ったのですか?』って質問したんですが『君は生意気そうだから、任せるんだ』と返されて」

  • 「『貸し切りバス』みたいな編集方針だと、同じ目的地にいっぺんに着いて楽だけど、全員が同じ景色しか見ずにつまらなくなってしまう」

  • 「『変わり続けるのが東京の面白さ』だと感じています」(写真は「渋谷パルコ」の跡地)

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 雑誌『BRUTUS』『relax』『ku:nel』等の編集に携わり、その後ランドスケーププロダクツで「カタチのないもの担当」として、プランニングなどを手掛ける編集者・岡本仁さん。この4月に書籍『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』を刊行した岡本さんに、面白いと思える雑誌の作り方、印刷物の魅力、そして「原風景」について話を聞いた。

――まず、岡本さんが編集者になった頃のことを教えてください。

 テレビ局から出版社(マガジンハウス)に転職をしたんですが、当時はまだバブル期の最後の方だったので、編集のための予算を厳しく指摘されたことはなかったですね。先輩は夜飲みに出て、また帰ってきて朝まで仕事するような豪傑ばっかり。とんでもない世界に足を踏み入れたな、という印象を抱きました。営業からの転身で編集経験はありませんでしたが、中途採用だったし、全て現場で覚えていました。書き方や編集の仕方を教わった人は誰もいないんじゃないでしょうか。自分なりに文章を書いて、何か言われたら直していました。

――いくつかの編集部を経て、1998年には『relax』の編集長に就任されます。

 一度も一緒に仕事をしたことがなかった編集長・椎根和さん(『Hanako』『relax』などを創刊した編集者)に「君が次の編集長をやらないか」と言われたのがきっかけです。「一緒に仕事をしたことがない僕を、なぜ後任にしようと思ったのですか?」って質問したんですが「君は生意気そうだから、任せるんだ」と返されて。「生意気だから」という気概がかっこいいなと感じて、引き受けました。

――その後、どのようにして「面白い」と思える雑誌を作ろうとしたのですか。

 『relax』では「現地集合主義」を掲げていました。僕が1から10まで関わったら、わかっている範囲の面白さしか集まらないからです。いろんな要素を事前に決めてしまう「貸し切りバス」みたいな編集方針だと、同じ目的地にいっぺんに着いて楽だけど、全員が同じ景色しか見ずにつまらなくなってしまう。想像しなかったものが見られるのが、雑誌本来の面白さだと僕は信じてたから「みんながそれぞれ考えて、好きなルートで来てください」という作り方をしていました。人が面白がっているものにどれだけ乗っかるか、という手法ですね。

――2009年にランドスケーププロダクツへ移り、書籍『ぼくの鹿児島案内。』を出版されました。鹿児島に魅せられたのは、どういった理由からですか。

 僕の出身地は北海道の夕張で、いわゆる炭鉱町出身なんですよ。炭鉱のあった場所って、閉山すると人がいなくなり、汚れていた川はやがてきれいになって、徐々に自然へと帰っていく。そうやって今までの風景がなくなっていく過程を目にしてきたから、自分自身の「原風景」というものにはあまり思い入れはなかったんです。ですが、ある日、初めて鹿児島を訪れた時に、勢いよくパァーッと目の前で噴火する桜島の姿を見て。今まで出あったことがない、わかりやすいランドスケープ感が心に刺さったというか、自分にとっての疑似故郷に思えた。向田邦子さんの著書『鹿児島感傷旅行』に「故郷もどき」という言葉が出てくるけど「故郷ってこういうものなんだな」ということを確認するために、気がつけば何度も通うようになり、鹿児島の本を出したんだと思います。

――今はSNSで気軽に情報発信できる時代ですが、毎年のように本を出版されています。

 インターネットに限らず、僕は新しい技術が楽だったら、そっちの方がいいんですよ。本が持っている質感に対して、過剰にロマンティックな感情は持っていないんです。印刷の世界でも、かつては活版がグラビアに変わっていったわけだし、時代が変われば新しい技術が生まれてくる。だから、ブログがあればブログでいいし、インスタグラムがあればインスタでいい。鹿児島の後に出版した『ぼくの香川案内。』や『ぼくらの岡山案内。』にしても、初めは仕事がきっかけで通うようになって、通うことが面白いし、面白いから通う。それがある時、本にできるかもしれないと思ったり「本にしませんか?」って言われたことがきっかけで、形になっています。

――岡本さんの街歩きについての視点や切り口はとても興味深いと思います。

 元々雑誌編集者なので、単行本を編集する際に雑誌的な視点で考えるところがあります。表紙に自分の名前しか載っていなくても、僕ひとりだけの視点では面白くならないと思ってしまう。自分にとって馴染(なじ)みのない街を「まるで馴染みがあるかのように書いている」という感覚が嫌なんです。だから、あまり訪れたことがないという場所は、その土地に詳しい友人に道案内をお願いしたり、意外性のある「他者の視点」を入れることで、同じ街が違って見えてくる。デザインにしても、ページの並びが単調にならないように組み替えて、工夫することもあります。

――『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』では「東京は変わり続けるのが面白い」と語っています。岡本さん自身も「変化」を求めているのでしょうか。

 東京に出てきて、鹿児島で雄大な風景を見て「故郷」の原風景を知ったけど、やっぱり東京という都会に帰ってきてしまう。昔は良かったって語るのはかっこ悪いし「変わり続けるのが東京の面白さ」だと感じたいと思っています。とはいえ、以前あった建物が壊され、突然、工事現場になってしまったり、慣れ親しんだものが全然違う何かへと変わってしまうことに対しては、切ない気持ちがものすごくあるわけですよ。だけど、結局全て変わっていくんだよなって事実を、どう受け入れるかと格闘した結果が『ぼくの東京地図。』という単行本になったんだと思います。

 デジタル化が進み、編集というのは、印刷物を作るだけの仕事ではなくなっています。「なぜ本を作るか」という問いに対しては、本が好きだからとしか言いようがないんですけど、画面のスクロールではなく、印刷されたページをめくることは、読者の中により深く入っていく何かがあるわけですよね。その「めくる」という行為や「なぜ、次のページをめくるという行為をさせられたんだろう?」という不思議さみたいなものを含めて、面白いんだと思います。それが、綴(と)じられた印刷物の魅力だと感じますね。(構成&写真 ライター・山田敦士)

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岡本仁(おかもと・ひとし)
1954年、北海道夕張市生まれ。大学卒業後、テレビ局勤務を経てマガジンハウス入社。2009年にランドスケーププロダクツ入社。著書・共著に『今日の買い物。』『続・今日の買い物。』(共にプチグラパブリッシング)、『ぼくの鹿児島案内。』『続・ぼくの鹿児島案内。』『ぼくの香川案内。』『ぼくらの岡山案内。』(以上ランドスケーププロダクツ)、『果てしのない本の話』(本の雑誌社)などがある。17年4月に『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』(京阪神エルマガジン社)を刊行。

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