マッキー牧元 エロいはうまい

<33>浮世を忘れ、楽しく酔ってと誘われる/わくい亭

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年6月8日

メンチカツ

  • メンチカツ

  • メンチカツ

  • 本マグロの刺し身

  • ホタルイカとウドの酢味噌

 「わくい亭」には一人では出かけない。

 お供には、気のおけない、食いしん坊で飲んべえの友人か、親しくなった女性がいい。

 店の前に立つ。引き戸をがらりと開ければ、客たちのおいしい、にぎわいが流れ出る。

 「いらっしゃいませっ」。大将の涌井優二さん、奥様の純子さん、弟の純三さんが、人なつこそうな笑顔を浮かべて声をかけてくる。

 さあ、今日はなにを食べようかと、黒板の品書きに目を走らせる。

 思いは千々に乱れ、悩みに悩む。うれしいひとときである。 

 そう、まずは刺し身類から始めよう。鮮度の高い白身魚や貝盛りか、ふわりと甘いウニで、麒麟山紫峰あたりを傾けて、一杯。 

 次は、香り高い、いんげんのゴマあえやじゃがいものきんぴらといってみようか。

 背黒いわしの酢〆や、こちの刺し身がいいかな。はもの天ぷらや馬刺しも頼みたい。

 でも今夜は、まず、「茹でそら豆」に「ホタルイカとウドの酢味噌」を頼んで、ビールでやることにした。 

 ここでぬる燗(かん)に変えて、本マグロの刺身を頼む。

 鉄分の香りが舌に流れて、すかさず燗酒(かんしゅ)を流し込む。

 マグロの二切れは、しょう油を入れた小皿に酒を少し注ぎ、マグロを漬け込んで、即席漬けとしゃれてみた。

 これまた燗酒に合うのだな。

 この辺りで忘れちゃいけないのが、名物のメンチカツ。

 ご覧の通り、長さ15センチ、幅11センチという雄姿である。

 ジッジッと音を立てる熱々の衣に箸を入れれば、半透明の汁がにじみ出る。

 カリッと衣に歯を立てれば、甘い肉汁があふれだし、もう笑いは止まらない。

 上等なひき肉を使っているのだろう。肉の香りに満ちていて、なにもかけずとも十分にたくましい味が伝わってくる。

 史上最強のメンチは、香ばしい衣と口の中にあふれる甘い肉汁が、幸せを呼ぶ。

 お相手は、ビールでも、燗酒でもよし。

 ソースをかけてもおいしいが、酒に合わせて、塩をふる、しょう油をかけるなどしても楽しいぞ。

 途中でパセリを挟んで食べる。なんて遊びをしても面白い。

 なにしろでかいのだから、様々な食べ方や味を試してみると、いいのだな。

 この燦然(さんぜん)と輝く巨大メンチカツこそ、わくい亭の人情と心意気である。

 他店にはないおいしいものを、お腹いっぱい食べてもらいたい。

 浮世を忘れて、楽しく酔ってもらいたいという願いが詰まっているのである。

    ◇

本所「わくい亭」

 常に活気にあふれ、気のきいた肴(さかな)と、腹を満たしてうまい実質的な肴と銘酒があって、座るだけで「さあ飲めぇ、さあ飲めぇ」と、背中を押される店である。

 酒飲み心のツボをつく、日本料理の肴も魚介類の料理も、極めて質が高いのに加え、洋食料理人出身の弟さんが作る、洋風肴も素晴らしい。ぜひ二人以上で訪ねて色々頼みたい。もちろん独酌にも向いている。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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