私の一枚

三味線好きの「天才少年」がたどり着いた境地 上妻宏光さん

  • 2017年6月12日

三味線を弾く6歳の上妻宏光さん。中棹(ちゅうざお)の楽器でも子供には大きい

  • 伝統と革新の両面から熱い演奏を追求する津軽三味線奏者、上妻宏光さん

  • 上妻さんが出演する「上妻宏光 民謡アーカイブ~火の国の旋律~」は6月16日、東京・築地の浜離宮朝日ホールで開かれる

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 この写真は6歳の頃、地元茨城の民謡大会で「津軽じょんから節」をソロで弾いた時のものです。僕は6歳で津軽三味線を習い始めて1カ月ほどで毎週末、何かしらのイベントの舞台に立っていました。この頃の演奏には「無心」があって、実は今も迷った時にこの写真を見つめ直すんです。

 僕が津軽三味線を始めたきっかけは父の影響です。会社員だった父が三味線を習っていて、夜になると家で練習するのですが、聴いているうちにその深い音にひかれました。高価な楽器なので、父から「触るな」と言われていましたが、隠れて触っては怒られ、そんなに好きならと父と一緒に習うようになりました。

 始めるととにかく楽しくて、ゲームで遊ぶような感覚で1日6時間ぐらい練習し、どんどんうまくなった。やがて新聞に「天才少年」などと取り上げられ天狗になっていましたが、その鼻も多くの上手な人の演奏を聴いてぽっきり折られました(笑)。

 子どもの僕にとって三味線はカッコいいと思う半面、友人に対しては気恥ずかしい面もありました。周囲の子どもから「おじいちゃんのようなことをやっている」と言われて傷つき、盆踊りのステージで弾いているのを同級生に見つからないよう、うつむいたりしていました。そういう経験が三味線のよさを若い世代にも広めたいと思う原動力になったと思います。

 もう一つ、現在の僕を作った原動力は、津軽の出身ではなかったこと。いくら演奏をほめられ、権威ある津軽三味線の大会で優勝しても、津軽の出身じゃないとわかると、急に「津軽の味がない」と言われて認めてもらえない。それが当時は納得できなくてね。もともと津軽三味線は、津軽の荒ぶる気候と、それに耐えて暮らす「じょっぱり」の気質から生まれた音楽。今なら彼らの言うこともわかりますが、当時は悔しくて自分の親戚が津軽に誰かいないか探したりして(笑)。茨城出身なんて最悪だとまで思いました。でも津軽出身じゃなかったからこそ、新しい道を切り開こうと思った。今ではよかったと思っています。

 ロックバンドに三味線で加入した時は、弾けないからそっちに行ったと思われるのは心外なので、津軽三味線の権威ある大会に出て1995年から2連覇しました。その後、伝統的な音楽の演奏は続けながら、洋楽やJ-POPの一流アーティストとコラボして、三味線のカッコよさを世界にアピールしてきました。でもコロンビアに行った時は、三味線をロックギターのように弾いた時よりも、ソロで津軽三味線の曲を演奏した時の方が拍手喝采。伝統芸能の力を改めて思い知らされました。

 6年前からは、歌舞伎や能、狂言など、同世代の伝統芸能の演者たちとコラボし、「日本」を発信する次のステップに入りました。今後も津軽三味線の魅力を伝統と新しい挑戦の両方からライブで伝えていきたいですね。

    ◇

あがつま・ひろみつ 三味線奏者。1973年、茨城県出身。ジャズやロックなどジャンルを超えたセッションで注目を集め、2000年に本格的にソロライブ活動を開始。ニューヨークやニューオーリンズで地元ミュージシャンとセッションも行う。01年ファーストアルバム「AGATSUMA」をリリース。これまで欧州、アフリカなど世界30カ国以上で公演し、ハービー・ハンコック、マーカス・ミラーらとも共演した。今年7月のカザフスタン「アスタナ万博」ではプロデュース公演を行う。8月27日(日)には「上妻宏光コンサート ―和心伝心― 其ノ参」をかつしかシンフォニーヒルズで開催予定。

◆6月16日(金)に東京・築地の浜離宮朝日ホールで日本ロレックスpresents「上妻宏光 民謡アーカイブ~火の国の旋律~」が上演される。「後世に歌い継がれるように、日本の民謡を体系的にアーカイブしたい」という上妻さんの思いから始まったコンサート「民謡アーカイブ」が2年ぶりに実現。昨年の震災の復興への願いも込め「火の国の旋律」を紡ぐ。出演:上妻宏光、はたけやま裕、伊賀拓郎、ゲスト:田中祥子、朝倉さや、日芸舞踊団「若竹」。

 「僕が初めて歌ったのが、熊本民謡の『田原坂』。若い頃やっていたロックバンドのリーダーの思いが詰まっていた曲で、僕はずっと歌い続けていた。その曲を今回歌いますが、他は地元の民謡歌手の方が、さまざまな熊本の曲を聞かせてくれます。ぜひ熱い火の国の旋律を聴きに来てください」

(聞き手:田中亜紀子)

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