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新日本プロレスとアニメ『はいふり』には共通点がある!?

  • “体験型消費”の未来
  • 2017年6月16日

横須賀市とアニメ「ハイスクール・フリート」のコラボ企画のひとつ、横須賀×「ハイスクール・フリート」福引でハッピー!のイラスト(12月まで)(C)AAS/海上安全整備局

 物的な消費から体験型の消費へ転換した、と言われるようになってかなり経つ。2017年5月31日から6月2日にかけて幕張メッセで開催された「第4回ライブ・エンターテイメントEXPO」「第4回イベント総合EXPO」は、活況の業界の熱気が伝わる内容だった。特に、6月1日に行われた講演では、「新日本プロレス」「アニメ・ゲームでの町おこし」といった話題のテーマが目白押し。先駆者たちの話から、体験型消費を成功させるカギを探った。

ファン層広げた新日本プロレス

 近年、“プ女子(プロレス女子)”という言葉が流布したように、イケメンで屈強なプロレスラーたちが新たなファン層を取り込み、人気を博しているのがプロレス団体「新日本プロレス」である。2012年からのオーナーは、カードゲームを中心に事業を展開している株式会社ブシロード代表取締役社長の木谷高明氏だ。総合格闘技ブームなどに押され“暗黒期”とさえ呼ばれた2000年代を耐えた新日本プロレスは、2012年時の売り上げは11億だったものの、その後の改革により2017年今期の売り上げ見込みは、会場で講演した木谷氏いわく「37億円」というところまで伸長してきた。

講演した株式会社ブシロード代表取締役社長の木谷高明さん

 新世代ファンが注目される新日本プロレスのブースに足を運ぶと、親子連れを含めて年代の幅は広いことが分かる。経営参画の初年度に投じた3億円という広告費について、木谷氏は講演で「職場で机を並べていても、お互いがプロレスファンだと知らないことも多い。電車のラッピングや駅の広告が目に入ると、『昔よく行ったなあ』『え、プロレス好きだったの? 今度一緒に行こうよ』という会話が生まれる。バラバラの点だったファンを線でつないで面にしたかった」と語った。

 かつてゴールデンタイムにテレビ放映されていた頃が、プロレスの“黄金時代”だったとよく言われる。テレビでの露出は減ったが、その後、メディアのテレビへの一極集中の時代も終わったことで、プロレスは、ファンへ向けて多角的にアプローチすることが可能になった。

 積極的なSNSの活用に加えて、『タイガーマスクW』のような新規アニメのテレビ放映、Abema TVなど新興のストリーミングサービスの活用、そして独自の動画配信サービスなど、「昔は一個だった“出口”が増えている」(木谷氏)現状を活用しているのだ。

 結果としてすそ野が広がり、「面」になったファンは、試合会場に足を運ぶようになり、新日本プロレスはスポーツ及びエンタメ市場で注目の的となっている。

 さらに興味深かったのは、木谷氏が「アメリカのスポーツ放映権料の“バブル”はいずれ弾ける」とにらみ、そこに新日本プロレスのアメリカ進出のチャンスがある、と強調した点だ。

 米国のスポーツ市場は1990年の5兆円規模から25年間に60兆円規模まで成長し、スポーツ映像の放映権料も高騰している。しかし、木谷氏も述べたように、北米スポーツの巨大メディアESPNがこの4月末に100人の大規模リストラを始めており、その“バブル”にも影が差し始めたという分析もある。木谷氏はそこに、アメリカを拠点としたプロレス界最大の団体・WWEに対抗する道を見出しているようだが、プロレスというジャンルを離れても、安易に海外の成功例を追いかけるのではなく、体験型消費の市場の行く先を冷静に見据えているのだろう。

アニメ・ゲームと積極コラボする横須賀市

 もう一つ、神奈川県横須賀市役所の職員2名による講演「アニメ、位置情報ゲームを活用した集客促進イベントの舞台裏」も耳目をひいた。横須賀市も、日本のほとんどの自治体と同様に、人口減少に向き合いながら、地域の魅力をどう発信していくかが課題だった。その突破口となったのが、港街である市を舞台にした『たまゆら』『ハイスクール・フリート』といったアニメ作品であり、実際の地図データ上で陣取り合戦をする「Ingress」や、一大ブームを巻き起こした「Pokémon GO」などの位置情報ゲームだ。

 横須賀市はそれらの「サブカルチャー」と積極的にコラボレーションしていくことで、先が開けた。『ハイスクール・フリート』の人気にいたっては、“聖地”である市に転入してくるファンまで現れたそうだ。

6月11日に行われた「三大カイジ」イベントのイラスト (c)福本伸行/講談社

 6月11日には、「三大『カイジ』の共演」と題して、横須賀駅に停車中のマンガ『カイジ』仕様の特急「かいじ」の中で「横須賀海自カレー」を食べるというイベントも行われた。『カイジ』の作者・福本伸行さんが横須賀市出身だったことから企画・実現した。Ingress関連では、市内で出現するミッションをクリアした人の中から、抽選でオリジナルの景品が当たるキャンペーンが6月30日まで行われている。

 横須賀市の事例で、重要なポイントは、職員たちもアニメやゲームに親しみ、作品を尊重することで、心底そのアニメやゲームが好きな人々――いわゆる“ガチ層”に届くイベントに成長させた点だ。「愛のあるイベントだな、愛のあるキャンペーンだな、とファンの方に分かってもらう」(観光企画課・古﨑絵里子氏)ことを心がけ、「協力してくれる地元商店街の方々には、ファンの方にできるだけ声をかけてもらうようお願いした」(集客プロモーション担当課長・矢部賢一氏)そうだ。

横須賀市の集客プロモーション担当課長・矢部賢一さんと観光企画課の古﨑絵里子さん(右)

 若者向けのアニメやゲームを地域振興に取り込もうとする試みはたくさんあるが、やりっぱなしでは、“ガチ層”には響かない。また、こうしたコンテンツには、はやり廃りがつきものだが、「一過性になりがちなコンテンツでも、継続することでファンが根付く。サブカルチャーにかんする企画は、“連鎖”が生まれるまで、長く続けることが大事」と、古﨑氏は熱く語っていた。

 プロレスも、アニメ・ゲームと自治体のコラボも、ファンに足を運んでもらうために、そのファンと同じ視線の位置でプロジェクトを推し進めている。横須賀市役所の職員は、自分たちも楽しんでいる。新日本プロレスの木谷氏も、自身もツイッターで団体内のヒール(悪役)のレスラーと論戦を行い、文字通り取っ組み合っている(その様子をファンに対して可視化している)。その姿からは、フラットな次世代型コンテンツの進む先が見えてくる。

チケット転売対策も課題

 一方で、ライブ産業を含めて“コト”の消費が盛り上がるほど、皆が頭を悩ませることになる「チケット転売」問題は、今回のEXPOでも注目されるテーマだった。特別セミナーを行った株式会社ディスクガレージ常務取締役・石川篤氏によれば、「2015年に大手チケット転売サイトが堂々とTVCMを放映したことにより、ネットダフ屋行為が『公然化』してしまった」という。

 石川氏は、正規のチケット販売サイトでも、ひとつのコンサートに対する同一人物の申し込みが1289件あったというケースを例に挙げたように、悪質なユーザーがプログラムを組み、自動的に大量のチケットを購入、転売しているケースが後を絶たない。法的な対処も、ネットダフ屋行為は絶妙に関連法の網の目をかいくぐっており、議員立法へ向けてのロビーイングは進められているものの、まだ決定打となっていない。

 そこで2017年6月1日にオープンしたのが、公式トレードチケットセールのプラットフォームとなるウェブサイト「チケトレ」だ。購入済みのチケットを定価で譲ることができ、「安全・安心」を掲げている。石川氏が高額転売対策担当委員を務める一般社団法人コンサートプロモーターズ協会を含めた、音楽関連4団体が「ぴあ」の運営するサイトで開設したもの。他のチケットプレイガイドの“相乗り”の可能性は未知数という課題は残るものの、「チケット高額転売問題を解決する第一歩」(石川氏)が踏み出されたというところだ。

「第4回ライブ・エンターテイメントEXPO」の会場の様子

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 魅力あふれるライブやイベントを企画し、多数の人が安心して参加できる環境を整備する――。それが、規模を広げている“体験=コト”消費型ビジネスの、さらに発展するためのカギと言えそうだ。

(文・ライター 宮田文久)

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