&30

アップルの音声認識スピーカーHomePodで、コンピューターが消える未来

  • 文・ライター、ブロガー 堀 E.正岳
  • 2017年6月19日

アップルが社運を賭けるHomePod。 [© 2017 Apple Inc. All rights reserved.]

 家電の操作もネットでの注文も、すべて声に出すだけ。コンピューターを“操作する”という認識は過去のものとなる。そんな未来が、実際の製品として手に届くまで、あと一歩というところまで近づいている。

 「Amazon echo」や「Google Home」などといった、音声認識機能をもったスピーカー型のデバイスが注目されている。これらは、自宅の居間などに置いてWi-Fiと接続することで、音声で操作して、商品の注文や調べ物ができる。昨年販売されたAmazon echoはすでに1000万台以上が販売されるヒット商品になっており、この分野では他社を大きく引き離している。

 その状況で、アップルからもiPhoneなどに搭載されている音声認識システム「Siri」を応用したスマートスピーカーが発表されるとの情報が流れ、6月初旬に開催された開発者向けの会議「WWDC 2017」には注目が集まった。

謎が深まったアップルHomePodの発表

 その期待の新製品、アップルのHomePodの発表は前評判からみると多少「斜め上」からのものとなった。Siriによる音声認識機能やホームオートメーションよりも、あくまでスピーカーとしての機能が前面に押し出される説明となったのだ。

 Wi-Fiに接続し、自動的に部屋の空間を認識して音響の指向性を調整してくれる機能に多くの人が感嘆の声を上げたが、どこかで本当に重要な説明を避けているような歯切れの悪さが基調講演にはあった。

 しかし、発表された内容を注意深く見ると、アップルがこのスピーカーの中に、将来へのさまざまな布石を仕込んでいるのが見えてくる。

 例えば、HomePodは音楽が鳴っている最中でも、周囲に取り付けられた6基のマイクによって音声によるコマンドを判別することができる。これは、大勢の人が会話している場で、HomePodに音声コマンドを認識してもらうために全員が一度口を閉じなくてはいけないような居心地の悪さを避けることにも応用できる技術だ。

 そしてAmazon echoがアマゾンの膨大な商品を購入することができるように、HomePodは最初からアップルの音楽定期購読サービス、アップル・ミュージックと直結している。「さっき流れたものと同じような曲をかけてくれ」「このギタリストのアルバムはあるかい?」といった質問にあわせて楽曲をダウンロードして再生してくれる。

 また、さりげなく紹介されたものの、HomePodを駆動しているCPUであるA8チップはiPhone上でさまざまなアプリを駆動できるほど高機能なもので、スピーカーに搭載するには過剰にも思える。ここにも、将来の機能追加にむけて十分な処理能力を最初から確保しておこうという狙いがうかがえる。

 その一方で、期待されていたSiriによるホーム・オートメーションについては、天気やニュースの読み上げや、リマインダやタイマーの設定といったように、すでにスマートフォンでできる機能の説明にとどまっており、アップルがHomePodでできることの射程をどのように考えているのか謎が深まった。

先行して市場を切り開いたAmazon echo。[© 1996-2017, Amazon.com, Inc. or its affiliates]

アップルの切り札となるHomeKit

 HomePodの直接の競争相手となるAmazon echoが人気である大きな理由は、搭載されている音声認識システムAlexaに対して、他の企業も「スキル」という機能拡張を作れることだ。

 これらの「スキル」は開発者であれば簡単に作成し、自社の製品やサービスを直結することが可能だ。たとえば「アレクサ、ダイソンで空気をきれいにして」と声を発するだけでダイソンの空気清浄機を起動することや、「ニュースを読み上げて」というコマンドで指定したニュース番組からの情報を受け取る、といったように、膨大な選択肢がすでに用意されている。話題になっているスキルのひとつは、スターバックス・コーヒーが提供を開始したもの、「アレクサ、スターバックスでいつものコーヒをお願い」とコマンドを発するだけで、最寄りの店への注文が送信され、あとで店舗でピックアップできる。

 これに対抗する機能をアップルが開発中していないとは考えにくい。その際、アップルの切り札となるであろう規格が、すでに照明器具、暖房機器、セキュリティーカメラなどといったデバイスをiPhoneから操作することを可能したIoT規格のHomeKitだ。

 基調講演ではほんの1分ほど触れられたにすぎないが、HomePodにはHomeKit規格で接続されたデバイスを相互に連携して動作させる機能があるため、帰宅したら照明をつけてエアコンを入れるといったことも可能だ。また、HomeKitはiPhoneなどのiOSデバイスからも操作できるため、外出中に自宅の様子を監視する、玄関にやってきた来客と会話することもできるようになるはずだ。

声で操作できるとなにが可能になる?

 すでに開発競争が激化している音声認識デバイスの分野だが、実際に声で操作ができるデバイスが浸透することで私たちの生活はどのように変わるのだろうか?

 一つは、音声による操作の一元化がある。私たちの部屋を見回してみると、エアコン、テレビ、照明といったように、それぞれの機器に特化したリモコンが複数あるが、こうした機器がひとつの音声認識デバイスで操作できるようになれば、まずはリモコンが不要になるのだ。

 また、いままではテレビはテレビ、HDDプレーヤーはHDDプレーヤーといったように個別に操作していた機器がすべて連動することも可能になる。「さあ、映画をみるよ」と声を上げるだけで、テレビが自動的にオンになり、プレイヤーが映画を選ぶと、照明がその内容に合わせた雰囲気に調整され、スピーカーはテレビの前にいる家族の場所を認識して音響空間を作り出す……。それらすべてが、ユーザーが意識せずに自動的に行われるのだ。

 こうしたホーム・オートメーションは、単純な便利さだけにとどまらず、たとえば介護分野での自立支援といった面でも期待されている。キーボードが消え、声が操作の主役となるということは、ユーザーがコンピューターやその操作に精通していなくても動かせるということなのだ。

ひとこと指示するだけで、家中の家電が自動的に動き出す、そんな未来がすぐそこまで来ている。 [Si-Gal/DigitalVision Vectors/gettyimages]

現状では声の分析が課題

 HomePodの登場によって、ようやく役者がそろった印象のある音声認識デバイスの分野だが、本格的な広まりは今年の年末から来年になりそうだ。

 HomePodは12月発売で、当初はアメリカ、イギリス、そしてオーストラリアに販売が限定されている。これには音声認識システムの言語の壁が大きく立ちはだかっているとされている。開発が先行している英語においても、地方のなまりや、独特なアクセントは認識率が悪くなることがAmazon echoでも、Google Homeでも報告されている。

 HomePodが搭載しているSiriでも、認識の精度を高め、日本語を含む他言語に対応させてゆくのは至難だと予測され、アップルの本気が試されることとなる。

 対応した機器を音声でつなぎつつ、複雑な設定や操作を不要とする音声認識デバイスは、今後爆発的に普及することが予想される「すぐそこにある未来」だ。コンピューターといえば、モニターのついたパソコンやスマートフォンの画面を指していた時代から、本体がどこに置いてあるかも意識することのない、見えなくなったコンピューターを声で呼び出すという新時代がいま始まろうとしている。

(文・ライター、ブロガー 堀 E. 正岳)

[PR]

<筆者紹介>
堀 E. 正岳
「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。気候学者。理学博士。

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!