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中央集権型SNSへの怒りが生んだマストドン ふくらむ期待の先にあるもの

  • 開発者オイゲン・ロッコ氏の講演から考える
  • 2017年6月29日

Skypeで遠隔出演したマストドン開発者のオイゲン・ロッコ氏

中央集権型SNSにはうんざり!?

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、いつから「バズる」ことが至高の目的になったのだろうか。特にツイッターを眺めていると、企業が景品をぶら下げ、リツイート(RT)を求めるツイートで広告キャンペーンを打つ様子が珍しくなくなった。そのキャンペーンに参加するためだけに“捨てアカウント”をつくったユーザーがRTを繰り返し、獲得した景品が、今度はネットオークションサイトに並ぶ――そんな暗い気持ちになる光景が日常となりつつある。

 もしあなたが、最近のネット界に何かしらの幻滅を感じているのならば、最近話題の分散型SNS「マストドン」は、新たなプラットフォームとして期待できるかもしれない。特に、世界中の人とつながること、そして、つながることで起きる物事が、本当にユーザーたちへの恩恵となる、そんなネット界を理想とする人には。

 2017年6月7日、幕張メッセで行われた展示会「Interop Tokyo 2017」で、マストドン開発者のエンジニアであるオイゲン・ロッコ氏がSkypeによる遠隔出演で基調講演を行った。会場には、いまだそのポテンシャルが明らかになっていないものの、しかし次代のSNSとして並々ならぬ期待が寄せられているマストドンの“可能性”を見つけようと、多くの観客が列をなしていた。

 2016年10月に公開されたマストドンのユーザー数は、2017年6月中旬時点で70万人を超えた程度で、3億人超えのツイッター、19億人超のフェイスブックにはまだ遠く及ばないものの、1年足らずの間に大きく伸長している。

 ツイッターをはじめとする、これまでに普及したSNSは、大規模なサーバーを中心に置き、中央集権型のサービスとして発展した。しかし、既存のSNSは今日、批判の目にさらされるようになってきている。冒頭に述べたような過剰なコマーシャルや、ロッコ氏を含む多くのユーザーが困惑したツイッターのUI(ユーザー・インターフェース)の変更は、「ひとつの企業による一極集中型のサービス(central service)」(ロッコ氏)であるために発生すると言えるだろう。

 ユーザーがもっと自由にSNSを使おうと思っても、中央集権型のアルゴリズムによって雨あられと繰り出される広告ツイートにさらされ、突然のUI変更で慣れ親しんだフォーマットが消え去る――こんなのは求めていたインターネットの世界ではない、というロッコ氏の怒りが、マストドンの開発と普及を後押ししたといえる。

 ロッコ氏は講演で次のように語った。

「マストドンは各人でメンテナンスをすることに長けている。ツイッターのように大規模なセンターがなくても、マストドンは各自のサーバーがあれば、それぞれメンテナンスしていくことができる。ですから、日本のユーザーの皆さんも、より自分にとって適応した形で利用できるのです」

マストドンの特性に集まる期待

 こうした理想を形にしたのが、「インスタンス」と呼ばれる話題別のサーバーに重きが置かれるマストドンの仕組みだ。技術や設備をもつ人がインスタンスを立ち上げ、ユーザーは、好きなインスタンスを選んで参加する、文字通りの分散型のシステムだ。世界的に人気のインスタンスのひとつは、ビジュアル作品中心のシェアサービス「pixiv」を運営してきたピクシブ株式会社が立ち上げたインスタンス「Pawoo」である。オリジナル、二次創作の垣根なく、ユーザーたちは「Pawoo」の内部で、日夜好きなアニメや漫画のキャラクター、お互いの作品などについて会話を続けている。

 同じく人気のインスタンス「mstdn.jp」を立ち上げ、先だってドワンゴ社員となった「ぬるかる」氏は、一躍時の人となった。当初立ち上げたサーバーがユーザー急増によりパンクしかけ、今回の講演で壇上に上がっていた鷲北賢氏が所属する「さくらインターネット」が協力したという話も、マストドンの“思想”が現実となった事象のひとつと見ることができるだろう。

今のSNSは、中央集権型サービスが主流だ(Wachiwit/gettyimages)

 では、こうした “思想”に共感するとして、私たちはマストドンをどのように活用していったらよいのだろうか。同じく壇上に上がった角川アスキー総合研究所取締役主席研究員の遠藤諭氏が、6月上旬にKADOKAWAの角川歴彦会長にマストドンの事業活用を命ぜられたという旨のニュースが流れたように、各企業・団体が次の一手となるアイデアを生み出すべく、試行錯誤を重ねている。

 ひとつの試金石となるかもしれないのは、前述の「Pawoo」を運営するピクシブ株式会社が6月15日に新たにローンチした、音楽特化型のインスタンス「Pawoo Music」だ。ビジュアル作品のシェアを中心としていたサービス・Pixivの延長線上に「Pawoo」というインスタンスは生まれたが、このたび6回目を数えた期間限定のウェブ上の同人音楽即売会「APPOLO」(ピクシブ主催、6月17日~19日)の開催に合わせ、音楽の話題に特化したインスタンス「Pawoo Music」が立ち上げられたのである。

 「Pawoo Music」にログインすると、画面中央下部には「いまみんなで一緒に聞いている曲」として、チップチューン(PCや家庭用ゲーム機の音源のような音で構成されるレトロフューチャーな音楽ジャンル)の楽曲など、絶えず1曲が常に流れているようになっており、その横の「ローカルタイムライン」では、ユーザーたちがそれぞれ気になった楽曲やミュージシャンについて、自由気ままにつぶやいていた。この集合と離散の絶妙なバランスの中で、気に入った楽曲の購入やシェアというユーザーの次のアクションが誘発されていくのだ。

 こうしたビジネスは、これまでの中央集権型SNSにはできなかった、初期のユーザーが求めていたようなインターネットの理想の実現につながるのだろうか。今のところは魅力的に映る、マストドンの可能性が十分発揮されるかどうかは、今後の企業およびユーザーの使い方次第だ。

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(文・ライター 宮田文久)

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