マッキー牧元 エロいはうまい

<35>よこしまな夢想を呼び起こす危険なパスタ/渋谷「OUT」

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年7月6日

トリュフパスタ

  • トリュフパスタ

  • 注文後出てきたのは「素パスタ」

  • トリュフの塊をパスタの上で削っていく

  • トリュフの香りとバターの香りが溶け合う

  • 赤ワイン

  • パルミジャーノチーズの薄切りとトリュフ

  • 店内の様子

  • 食券機でチケットを購入

  • レッド・ツェッペリンが流れる店内

 あやしい店である。

 渋谷の路地裏に、その店「OUT」はある。

 階段を上っていくと、ピンク色に光るネオンサインが見え、ガラス越しに見える店内では、Uの字のカウンターが待ち構えている。

 そして中には、金髪の美女が立っている。

 BARか? いえBARではない。

 扉をあけて入れば、「いらっしゃいませ」と、謎の美女がこちらへほほ笑んだ。

 流れているのは、レッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」で、おじさんのロック好きにはうれしいが、ますます謎は深まる。

 入り口横に置かれた自動販売機には、「PASTA」や「CHAMPAGNE」の文字が見える。

 むむ? シャンパンの自動販売機か。どうなっているのだろう。

 カウンターのハイチェアに座る。メニューを渡される。

 しかしそこには一つの料理しか書かれていない。

 「PASTA」である。

 パスタと突き出し、ワインのセットもあるが、パスタだけを頼むことにした。

 やがて謎の美女がパスタを運んできた。

 「素パスタ」である。

 香ばしいバターの香りが立ち上がってくるが、なにも具がない。

 すると彼女がトリュフの塊を取り出し、パスタの上で削り出すではないか。

 ピンク色のマニキュアで飾られた白く細い指が、ゆっくりと黒い塊を削っていく。

 もうそれだけで、コーフンさせられるのだが、やがて隠微な香りが顔を包み始める。

 ああ。きっとだらしない顔になっているだろう。

 パスタは瞬間に色香を増し、僕らを手招きする。

 誘われるままにパスタを食べれば、トリュフの香りがバターの香りと溶け合い、口腔(こうこう)から鼻の粘膜を包み込む。

 次第に鼻息が荒くなり、なにかもう、取りつかれたように食べてしまう。

 つるんと唇を通り過ぎるパスタの感触さえいやらしく、食べ終わった後に漂う後味さえも、精神を勃起させる。

 これは危険なパスタである。

 好きな彼女と一緒に食べたら、恋心を寄せてくれるかもしれない。

 そんなよこしまな夢想さえ呼び起こすパスタである。

 一心に食べ終えて顔を上げると、先ほどの彼女が「わかっていますよ」とも言いたげな優しいほほ笑みを浮かべている。

 そして曲はいつしか、レッド・ツェッペリンの「ハートブレイカー」に変わっていた。

    ◇

「OUT」
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷2-7-14
http://www.out.restaurant/

世界中の美食を食べ歩いたというオーストラリア人のオーナーが、理想のレストランをと、東京に開いた店。ワンディッシュ、ワンミュージックをコンセプトに、レッド・ツェッペリンを聴きながら、トリュフのパスタを食べ、ワインを飲む。ただそれだけのために存在する、贅沢である。トリュフのパスタとパルミジャーノチーズの薄切りとトリュフの突き出しのセット2900円。ワインとのセット4000円、18時から営業。深夜までやっているので、シメのラーメンならぬ、シメのパスタとシャンパンなんてのも、しゃれている。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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