十手十色

新しい表現を追い続けるジャグリングの世界王者 望月ゆうさく

  • 文・加藤千絵 写真・小林浩志
  • 2017年7月11日

スティックを操る右手の指の付け根にはマメが。離れ業の練習では二の腕にひものやけど傷がつく

  • 「究めきれないものには終わりがない。必死でやって、気づいたら今に至るって感じです」と望月さん

  • 表現で大事にしているのは技を見せつけることではなく、思いやり。「観客は道具ではなく、シンプルに人を見ていますから」

  • 公園で練習していると自然と子どもが集まってくる。「子どもって一瞬でこいつはおもしろいやつかどうか分かるから、僕も一生懸命やっちゃう」と笑う

  • 重力で成り立つジャグリングの世界には、どこか「宇宙」が感じられる

  • 四つのコマを同時に回す大技を演技に取り入れる数少ないジャグラーの一人

  • ジャグリングに出合うきっかけになった「大道芸ワールドカップin静岡」に今では出演者として参加している

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 2015年、カナダ・ケベックシティーのとある会場で、観客からのスタンディングオベーションを全身で受け止めている日本人がいた。歴史あるジャグリングの世界大会個人部門で優勝したジャグリングアーティストの望月ゆうさくさんだ。タップダンスとジャグリングを組み合わせた独創的な演技、四つのコマを同時に回す大技に、観客は沸きに沸いた。しかし望月さんは当時を振り返って、「賞を取らないとどんなことをしても説得力がないから、取りにいっただけです」とクールに話す。目指すものはもっと先にある。世界チャンピオンはそのために必要な称号に過ぎない。

 13歳でジャグリングを始めたという手のひらには、スティックを握りしめる時にできるマメがくっきりと浮かび上がる。きっかけは生まれ育った静岡市に毎年11月にやってくる、アジア最大級の大道芸ワールドカップだった。当時はやっていたヨーヨーに夢中だった望月さんは、動きは似ているけれど大きくて迫力があるジャグリングに心を奪われた。新しい技を考え、映像を撮ってはインターネット上で公開する。将来はパフォーマーになりたいと思っていたが、両親には「いい大学に行って、安定した仕事に就いて、ちゃんと税金を納めなさい」と言われ続けた。

就職を覚悟して訪れた転機

 趣味でジャグリングをしながら、映像の編集ができるテレビ局への就職を考えていた大学時代、転機が訪れる。建築史学の授業で先生が突然、都市の公共空間における大道芸の重要性について語り始めた。「日本ではムダだとか、禁止の対象になりやすい大道芸にも価値があるということを教えられて、感動しちゃったんです。自分の職業に誇りをもっているというヨーロッパの大道芸人たちの生き様にも驚きました」

 卒業論文では、大道芸をしながら50日間ヨーロッパを旅し、その足跡をレポートにまとめた。浅草で買った袴(はかま)をはいて、小さなスピーカーから音楽を流し、フランスの広場やイタリアの路上で恐る恐るコマを回す。しかし、まったく人が集まらない。どうしたら人を楽しませ、コミュニケーションがとれるのか。もがいて、もがいてたどり着いたのは、メトロノームの音に合わせてゆっくりコマを回したり、速いテンポでコミカルに動いたりするシンプルな表現。ムダな言葉や演出をそぎ落とし、技ではなく心を伝えることで、観客は何倍にも増えていった。

一人のジャグラーとして目指すこと

 もう何も怖くない。ヨーロッパの旅はジャグリングで生きていく自信をくれた。何より「生きている実感」をくれるものがありながら、就職することはできなかった。フリーランスのジャグリングアーティストになった望月さんが目標に掲げるのは、大道芸やストリートカルチャーのように芸能とはみなされないものを、芸術の域まで昇華させること。そのために何ができるのか分からないから、今はただ公園でひたすらジャグリングをし、舞台で作品を発表する。

 昨年つくった作品「白でもなく、黒でもなく」は、サラリーマンに扮した望月さんが「顧客を増やせ」という上司の声に従ってジャグリングのコマをどんどん増やし、狂っていく物語だ。大技ばかりを要求する観客に笑顔で応えるジャグラーの悲哀や、なんでも白黒つけることで自ら生き方を狭めている社会への違和感を、一人の営業マンの姿に託した。「みんなもっと自分の生き方に対して疑問を持っていいし、その中で自分が考えた答えを生きた方がいい」。伝えたいのは「生きるとはどういうことか」という問いだ。

 「ちなみに今はこれにハマってるんです」。そう言って見せてくれたのは、陶器で作った茶わん。これを二つ合わせてジャグリングのコマにし、演技の最後にカシャーンと割る、という美術館でのパフォーマンスはどうだろう。ジャグリングの天敵である風をあえて吹かせて、その中でできる表現はないだろうか? 「新しいジャグリング」を求め続ける望月さんの挑戦は終わらない。その積み重ねこそが自分の生き様であり、いずれきっと目指す場所へ導いてくれると信じている。

    ◇

もちづき・ゆうさく 1988年生まれ。13歳の時、出身の静岡市で毎年11月に開かれる「大道芸ワールドカップ in 静岡」でジャグリングに出合う。趣味で続けながら、九州大学芸術工学部と東京芸大大学院美術研究科で表現を磨き、卒業後はフリーランスのジャグリングアーティストに。2015年には国際ジャグラーズ協会が主催する世界大会でチャンピオンに輝いた。現在は個人で作品を発表するほか、パフォーマー集団「enra」でも活動中。ジャグリングの中でも、お椀(わん)を二つ合わせたような形のコマ「ディアボロ」を得意とする。望月さんの作品はホームページ(http://yu-saku.net/)で。

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PROFILE

加藤千絵(かとう・ちえ)ライター

東京外国語大学スペイン語学科卒業。約9年間、朝日新聞の夕刊や別刷りに執筆し、2012年以降は&Mの「ブラボー★NIPPON」をはじめウェブや雑誌、書籍などで活動する。週末はもっぱらサッカー観戦。趣味の俳句は今年で句歴10年を迎える(が上達にはほど遠く)。岐阜県出身。

小林浩志(こばやし・ひろし)写真家

株式会社新建築社で編集部、写真部を経て独立。建築写真、デザイン、出版を主とした株式会社スパイラル(http://photo-spiral.co.jp/)を設立。以降、黒川紀章をはじめ、日本を代表する建築家の作品写真や書籍のデザイン、編集など精力的に活動している。

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