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「都市型迷彩」のSF的で退廃的な美しさ カガリユウスケ

  • 2017年7月13日

退廃的で静かな美しさを感じる、ウェザリングの世界

 まるで長年の風雨にさらされた外壁。そんなテクスチャーを持つカバンや小物が、カガリユウスケの「都市型迷彩」です。

 2011年に産声を上げたこのシリーズは、アーティストでありイラストレーターでもある秋葉舞子さんとの共作としてスタート。当初は「100年の壁」と名付けられ、カガリくんの「WALLシリーズ」に、秋葉さんがウェザリング(汚し表現)を施すという形で作られていました。

 その名前が表す通り、どこかSF的で、退廃的、そして静かな美しさをたたえた世界。

 しかし完璧な“共犯”関係に思えた二人でしたが、2013年に秋葉さんが作家活動を休止。わずか2年で幕を閉じてしまったのです。

有機溶剤用の防毒マスクを装着し、物々しい雰囲気の中で作られる「都市型迷彩」。完全な一点ものです=千葉敬介撮影

 途絶えてしまうかに思えた、このシリーズ。しかしカガリくんは、思わぬ行動に出ます。なんと秋葉さんに弟子入り。ウェザリングの技を受け継ぐという道を選ぶのです。

 そこでカガリくんは気付かされます。一見すると完全にシンクロしているかのような二人の共作関係が、似て非なるものの融合だったということに……。

 ウェザリングをかける前のベースになるのは、カガリくんのWALLシリーズ。革に建材のパテを塗り込め、“壁化”させることで生み出されるカバンは、日々持ち歩くことにより、見る間に様相を変え、周囲とは異なる速度で急速に経年変化するのです。

 街で古い壁を撮影して回るほど、“壁マニア”でもあるカガリくん。自らが生み出した「壁」が、使用によって変化していくその過程こそ、WALLシリーズのだいご味だと位置づけています。

 片や秋葉さんのウェザリングは、まるで魔法のように、カガリくんの壁を100年後の世界へと瞬間移動させてしまいます。

 それはイラストレーターである秋葉さんの画力の成せる業。ハッとするほどのリアリティーに裏打ちされたファンタジーが、見る者を時空のかなたへといざなうのです。

完全にSF的なこの世界を、身に着け、持ち歩く

 では二人の間にあった根源的な違いとは何か?

 ウェザリングとは、作為的に“汚し”を施すことで、時間の経過を擬似的に表現する手法です。絵を描くように行う秋葉さんのウェザリングに対し、カガリくんの仕事は、実際の壁がさらされる過酷な環境をシミュレーションするかのように、そこに起こる変化を積み重ねていく、ストイックな作業。完成形をイメージしてそれを目指すのではなく、壁が受ける自然的・人工的負荷を、自らの手で再現し、自分自身もそこで起こる変化の目撃者であろうとするような行為です。

 画家と研究者。そんな違いが、この二人の間にはあるのです。

mw-08「カラビナ付き財布」

 そんなカガリくんのウェザリング作業を実際に確認すべく、今回は都市型迷彩が生み出される工程を取材しました。

 カガリくんの作業を見ていくと、驚くのは制作過程が大きく二つに分かれているところ。

 実はこのシリーズ、そのほとんどは最初にアシスタントが一度ウェザリングをかけます。何も知らずに見れば、完成形といわれても納得するレベルの仕上がり。しかしカガリくんは、おもむろにそのウェザリングを落とし始めるのです。

 それは全て消えてしまうのではと思うほど、念入りにかき取ってしまうこともあれば、元のウェザリングを手掛かりに作業を進めていくこともあり、程度こそ様々ですが、しかしこの作業は必ず行うのだといいます。

mw-09「長財布・ラウンドジップ」

 ではなぜ二度手間を承知で、分業をするのか。それはウェザリングの結果を客観的に見て、作為的な手業の痕跡を取り除いていくためです。

 カガリくんにとってウェザリングとは、屋外環境にさらされる実際の壁に起こる変化を、擬似的に発生させること。それはどこかに実在する壁を写実的にまねることではなく、かといって空想上の壁を叙情的に描くことでもありません。

 カガリくんがこれまでに見てきた数え切れないほどの壁。それは鑑賞の対象であると同時に、研究・分析の対象でもあります。そこに生まれた静かで退廃的で、そして絵画的な美しさをめでながらも、それを現象として分析し、その発生のパターンを考察・蓄積し、データベース化しているのです。

 それはまるで膨大なデータを基に、自然現象をシミュレーションするような作業。ウェザリングによって目の前の壁に現れる状態を、直感的に解析し、“正しい”方向に導こうとする作業が、手と目を結ぶ脳の中で繰り返されていきます。

  

 そしてもう一つ。作業の大半が、汚れを落とす、あるいはそいでいくことに費やされている、というのも意外な点でした。

 しかしこれはカガリくんの目指すウェザリングを考えれば、当然のことなのかもしれません。屋外環境においても、汚れなどは、風雨や重力、太陽光、他の物体との接触などによって、剝がされたり、流されたり、劣化したりすることで変化をしていきます。

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 まるでカガリくん自身がそんな外的な負荷になるかのように、ウェザリングは進められていくのです。

 秋葉さんへの弟子入りからスタートした、カガリくんのウェザリング。それは師とは全く異なる道を開拓しながら、日々探求され続けています。

 きっとカガリくんのウェザリングはこれからも変化し、進化を続けていくでしょう。脳内のデータベースは更新され、そこからいまだ見ぬパターンが解析・生成されることで、その表現が広がりつつ研ぎ澄まされていくことを、これからも楽しみにしたいと思います。

(文・千葉敬介 写真提供:ただ(ゆかい))

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