小川フミオのモーターカー

温かみがある「コンパクト・メルセデスのステーションワゴン」

  • 世界の名車<第176回>
  • 2017年8月21日

全長4725ミリ、全幅1766ミリ、全高1440ミリで、2795ミリのホイールベースはセダンと同一(写真提供=ダイムラー)

  • ルーフレールを含め、荷物をたっぷり搭載しての長距離旅行(ツーリング)を想定して開発された(写真提供=ダイムラー)

  • 1.5トンを超えていたため日本の市街地の運転ではやや物足りなかったが、高速ではぐんぐん速度が増していく感覚(写真提供=ダイムラー)

  • 荷物満載でも操縦性に影響が出ないようリアサスペンションには自動車高調節装置つき(写真提供=ダイムラー)

  • 富裕層にも愛されるいっぽう、ドイツのタクシー業界など耐久性を重視するユーザーにも好まれた(写真提供=ダイムラー)

  • W123シリーズの三つのボディーバリエーションのそろい踏み(写真提供=ダイムラー)

  • レスキューにも使われるほど機能性が高いというアピールのための写真か(写真提供=ダイムラー)

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 クルマは工業製品だけれど、どことなく手作り感が好まれる時代でもある。とりわけクラフト的な感覚にひかれる若い層が、このメルセデス・ベンツのステーションワゴンを好むのは、時代のトレンドなのかもしれない。

 1977年に発表されたモデルで、困ったことに正式な呼び名がない。当時このコードネームW123シリーズはコンパクト・メルセデスと通称されたので、そのステーションワゴンと呼ぶしかない。

 少し詳しいひとなら、たとえば300TDと聞けば、排気量は3リッターで、ボディーはツーリング(当時のメルセデスのラインアップではステーションワゴンを意味した)で、エンジンはディーゼルだとわかったが。

 ベースになっているのは76年に発表されたセダン。翌年春にクーペが発表されて、秋にステーションワゴンが登場した。“コンパクト”とはいうもののステーションワゴンの全長は4725ミリもあったし、価格だって日本では80年に300TDが779万円もした。トヨタ・クラウンのベーシックグレードが148万円だったときだ。

 コンパクトとはメルセデスの看板車種だったSクラスに対しての呼称。発表時にメルセデスのセダンのラインアップはこの二つだった。でもさきにも書いたとおり、コンパクトはセダンとクーペと、それにステーションワゴン。市場の需要をほぼまかなえる布陣だった。メルセデスを買う(買える)ひとにはこれで十分だったのだろう。

 最大の特徴は大きな荷室だ。このよき伝統は現在のEクラス・ステーションワゴンにいたるまでしっかり守られている。たとえばライバルともいえるBMWやアウディがステーションワゴンでもスタイリッシュさを追求するのに対して、メルセデスは実用性を捨てることがない。

 このW123のTシリーズがいまも人気というのは、機能的な造形美ゆえだろうか。モンブランのマイスターシュテュック(万年筆)やライカのM3(カメラ)といったドイツの工業製品に通じるタイムレスデザインだ。同時に分厚い鋼板を使った車体や、いたるところに使われたクロームメッキ部品による適度な時代感が、いい雰囲気を醸し出している。

 80年代にドイツにいくと空港には240TDなんてモデルのタクシーがずらりと並んでいた。聞くところによると、W123の開発においてメルセデスが設定した想定走行距離は100万キロ。それだけの耐久性を持つ部品で作られていたという。たしかにタクシーで走行距離計をのぞかせてもらうと30万キロなんてざらだった。それでも新車みたいだった。

 ようするにクラフト感とは、手づくり感であると同時に、ユーザーのためを思う気持ちのことかもしれない。別の言葉でいうと温かみ。それがこのW123のTシリーズ(ややこしい)にはしっかりあったのだ。

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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