私の一枚

ポルノグラフィティ新藤晴一、手の感覚がなかった投球

  • 2017年9月4日

昨年のセ・リーグクライマックスシリーズ第4戦で始球式に臨む新藤晴一さん。ユニホームは子供の頃に因島で少年野球をしていた時の背番号5=2016年10月15日、マツダスタジアム

  • 自身2作目の小説を発売したポルノグラフィティの新藤晴一さん

  • 新藤さんが執筆した小説「ルールズ」(税別1500円、マガジンハウス)

[PR]

 昨年のセ・リーグクライマックスシリーズ・ファイナルステージ、広島カープ対横浜DeNAの4戦目に、始球式で投げさせていただいた時の写真です。僕は広島県の因島出身で、筋金入りのカープファン。子供の頃に入っていた少年野球チームは、ユニホームをはじめ何から何までカープそのものでした(笑)。オフにはカープの選手が練習をみてくれることもあり、みんなカープの選手に憧れ、将来は真剣にカープの選手になりたいと思っている。そんな土地で育ち、今も草野球チームでピッチャーをしている僕のところに始球式の話がきた時は興奮し、芸能活動20年で初めてマネジャーに「この仕事は絶対に取ってくれ」と頼んだほどです。

 先に合計4勝した方が優勝となるファイナルステージ。カープはレギュラーシーズンの優勝で1勝分のアドバンテージがあり、3勝すればいいというところで2連勝しました。もし次の3戦目も勝ってしまうと、僕が投げる予定の4戦目がなくなってしまう。3戦目は人生で初めて「カープが負けてもいいかな」を思いました。めでたく(笑)負けてくれたので、4戦目の始球式に無事登板でき、本当によかったです。

 登板の日、タクシーで球場(マツダスタジアム)に向かっていると、何と山本浩二さんから携帯に着信があり、「わ~!!」って叫んじゃいました。以前、お会いしたことがあったんです。「球場に着いたら、顔みせやぁ」とお誘いいただきました。球場の控室には山本さんとともに野村謙二郎さんもいらして、カープファンとして夢のような時間でした。

 グラウンドに出たら、とにかく選手の臨戦態勢がすごいんです。なんというか、ぎちぎちに体を調整してきた競走馬のように、戦闘モードのオーラが発散されていて。確かに野球一筋で生きてきた方々が頂点を目指す、まさにその最後の舞台なわけですからね。

 マウンドに立つおこがましさと、3万人の大観衆の中で投げるプレッシャーはすごかった。投げるときは緊張で手の感覚がなくなり、神聖なピッチャープレートを汚さないよう足をプレートから外して投げました。球はキャッチャーには届きましたが、くそボールになってしまった。ストライクを決めたかったので、とても残念でした。

 試合はカープが勝ち、クライマックスシリーズの優勝が決まりました。その瞬間、バックネット裏で観戦していた僕は、まわりのみなさんとハイタッチしましたよ。広島県民のカープ愛は、他の地方の方には想像できないぐらい熱いんです。あの日も球場全体にカープの勝利を祈る人たちの気が充満して、それはすごかった。優勝の後は、街中がお祭り騒ぎになりますが、僕は残念ながら仕事があり東京にとんぼ返り。でも優勝の日に始球式ができ、勝利の瞬間にも立ち会えるという経験ができたので大満足です。子供の頃に憧れていた人に会えたり、貴重な体験ができたりと、望みがかなっていくことはうれしいですね。

    ◇

しんどう・はるいち ミュージシャン、小説家。1974年広島県出身。ポルノグラフィティのギタリストとして、高校時代のバンド仲間と99年に「アポロ」でメジャーデビュー。「ミュージック・アワー」「サウダージ」「アゲハ蝶」など多くのヒット曲の作詞や、他のミュージシャンへの楽曲提供も行う。2017年9月には45枚目となるシングルをリリース。著書に小説「時の尾」などがある。

◆新藤晴一さんが描く長編小説「ルールズ」が9月1日に発売された。2010年に小説家としてもデビューしたが、2作目の今作は、メジャーデビューを目指して奮闘するロックバンドのベーシストを主人公に、メンバーとの人間関係、デビューに挑戦するひたむきな思いや葛藤など、夢を追う男たちの欲望を描いた作品。本作を読むと、高校時代からのメンバーでポルノグラフィティが今も存続していることの奇跡が感じられる。

「自分がよく知っているバンドと音楽業界をテーマに書きましたが、書き始めたら思った以上に自分が投影されていて驚きました。作詞の時は完全にフィクションで書けるのですが、長編小説だと、どうしても僕自身が出てしまう。例えば、主人公は普通の家に育った青年。僕自身そうでしたし、『普通という十字架を背負っている』のも同じ。今の世の中に息苦しさを感じ、抜け出したいと思っている人にぜひ読んで欲しいと思っています」

(聞き手:田中亜紀子)

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!