&30

VALUとPatreon、個人の価値をお金に変えるサービスの光と闇

  • 文・ライター、ブロガー 堀 E.正岳
  • 2017年9月22日

個人の価値をお金に変えるサービスが話題 [gettyimages]

 絵を描く、音楽を作る、スポーツをするといった活動をしている人が、それを支援するファンから手軽に活動資金を調達できるサービスが注目を集めている。

 近ごろ何かと話題となっている「VALU(バリュー)」は、登録した個人のSNSのフォロワー数に応じて「株」に似た「VA」が発行され、ユーザーは優待を目的にそれを購入し、さらに他のユーザーと「VA」を取引することができる。

 専門家の「時間」を取引の単位として発行し、ユーザーが自由に購入、売却をすることができる「TimeBank」も同様のサービスだ。

 「個人を直接支援する」という新しいタイプのクリエイターとファンのつながりを提唱するサービスが注目を集める一方で、不透明な取引などが金銭トラブルにつながるケースも発生している。

 こうしたサービスの特徴や、利用するときの注意点をご紹介しよう。

個人の「時間」を株に見立ててユーザーが取引できる「TimeBank」のアプリ画面 [TimeBank]

個人の評価を売買するVALU

 VALUの仕組みは、株式にとても似ている。最初に利用登録を行うと、審査を経てツイッターやFacebookのフォロワー数を元に「VA」が発行される。この「VA」を株のように売却することで、サービス内で自分自身を“上場”して資金調達を行うことができるのだ。

 他のユーザーは、こうしたVAをビットコインを利用して購入する。購入の目的は発行者への応援であったり、彼らが提供している「優待」など、さまざまだ。

 VA発行者は、VA保有者限定のイベントを開催したり、個人的なカウンセリングを提供したりといった優待を提案することでユーザーに自分のVAの購入をうながす。その仕組みはまさに株主優待と同じ原理だ。

 こうした売買によって、VAの値段は上下し、ユーザーは保有するVAを他のユーザーと売り買いすることも可能になっている。

 VALUのサイトを開けば、名前を聞いたことのある有名人や、ブログやYouTubeで活動している個人がVAを発行しており、いわば「個人」とその優待をめぐる取引市場となっている。

「VALU」のサイトには、カメラマンやイラストレーター、歌手などが多く並ぶ [VALU]

「株価操作」のトラブルも

 しかし、こうした取引が可能であることで、VALUでは「株価操作」のトラブルも発生している。

 人気YouTuberのヒカル氏が、VALUで優待の設定をほのめかしてユーザーにVAの購入を呼びかけ、買い注文が殺到したタイミングで自身が保有しているVAを大量に売却することで故意にユーザーに損失を与えた事件だ。

 その後、ヒカル氏側は公式に謝罪したうえで活動停止を宣言するに至り、VALU側も利用規約の改訂などの対応が行われた。その後も、ヒカル氏側が表明した“買い戻し”が実行されていないのではないかという指摘もある。結果的に、VALUというサービスの上には不透明な影を投げかける結果となった。

 VALUは表向き投資のためのサービスではなく、利用規約上も「転売による利益獲得のみを目的とする場合」は利用停止などの措置もとられるとしている。しかし、どれだけの売買が投資目的とみなされるのか、明確な線引きは存在しないため、投機目的の売り買いが依然として多いのが実態だ。

 その後に開始したサービス「TimeBank」も、VAと同様にサービス上で発行された「時間」を株に見立ててユーザーが取引し、専門家とビデオチャットするという形の優待を受ける仕組みとなっているが、VALUのこうしたトラブルを受けて、一度に売却できる「時間」の総量を制限するなどの対応をしている。

個人のパトロンとなるサービス、Patreon

個人を対象としたクラウドファンディング「Patreon(パトレオン)」が欧米で注目を浴びている [gettyimages]

 こうした個人の価値を株式に見立てるものと一線を画す、個人を対象としたクラウドファンディングを目指すサービスにも支持が集まっている。

 この分野で欧米を中心に急速にユーザーが増えつつあるのがPatreon(パトレオン)だ。

 Patreonは、ユーチューバー、ポッドキャスター、小説家といったクリエイターが登録し、ファンが彼らの「パトロン」となることで活動を継続するための資金を集めることを可能にする。

 たとえば、ツイッターに似た分散型ソーシャル・ネットワーク・サービスとして日本で注目されたマストドンの開発者、オイゲン・ロチコ氏もPatreonで出資を集めている。

 ロチコ氏はフルタイムでマストドンの開発に従事するための活動資金を、月額5000ドルを目標におよそ700人のパトロンから集めている。出資者には活動報告や、パトロンとして名前を開発サイトに掲示するといったリターンが提示されている。

 Patreonでファンからの出資を集めている作家も数多く存在する。作家の場合、本が出版されるまでは時間がかかるため、それまでの収入源とファンに向けてのサービスをかねてPatreonを利用するケースが多い。

 例えば、次の小説が書かれているあいだ、ストーリーの「予告編」をパトロン限定で公開する、出資金が多い人は登場人物として作品中に参加することができるといったように、さまざまに工夫が凝らされたリターンが設定されている。

 しかし、Patreonにも問題は存在する。資金提供を受けたままファンへのリターンを行わない場合や、宣言した小説が完成しない、イベントが開催できなかったといった場合のファンへの補償が発生するケースだ。

 アーティストとファンとの親密な場を提供するPatreonにも、一つ間違えばその関係を台無しにするリスクが存在するのだ。

課題は流動性と信頼

 今後、VALUやPatreonといったサービスを、どのように利用すればいいのだろうか?

 まずVAは「売却可能なファンクラブの会員権」だと考えると理解しやすい。VAを買うことで応援したいユーザーがいるなら購入し、それを保有しているあいだは優待という形でメリットを受けることが可能な一方、必要がなくなったらそれを売却できる可能性もある。

 VAを発行する側にとっては、資金提供をしてくれる熱心なファンとの継続的な交流の場として利用するとともに、取引が活発に行われるようにVAの流動性を高めるための活動が必要になる。

 しかし、注目が集まっている現時点でも、VALUの流動性は高いとはいえない。人気のあるアカウントでも1~2週間は取引がゼロであることもめずらしくはないため、売却可能な会員権といっても「売却可能」の部分には、そこまで期待すべきではないだろう。

 一方で、今後活用が伸びると考えられるのがPatreonのような個人を対象としたクラウドファンディングの仕組みだ。

 国内では、スマートフォンを利用して簡単にクラウドファンディングのキャンペーンを設定できるサービス「Polka」がすでに存在し、バースデーパーティーを開くといった小さなプロジェクトから、アーティストの活動を支えるプロジェクトなどに活用されている。

 こうした資金調達サービスが注目される下地として、出版やテレビなどといった既存のメディアを経ずとも、YouTubeやブログ、電子出版などといった形で、個人の作り出すコンテンツを直接消費することが可能になっていることが背景としてある。

 応援したい個人の活動を直接支援することで、ファンとして親密な関係を楽しむことができる。その一方で、名目だけの優待やリターンを提示して資金を集めることだけを目的としているプロジェクトも存在する。

 利用者側は、出資するその個人は信頼に足る活動実績があるのかをチェックするとともに、自分が資金提供を呼びかける場合には、その信頼に継続して応えることができるのかを、十分に検討する必要があるといえるだろう。

 「人に投資」する新しい仕組みができることで、アーティストや芸能人、スポーツ選手、作家など、メディアの向こう側にいた人々とファンの距離感はどんどん近づいている。パトロンとして直接応援することで得られる一体感は、今まで以上の満足を与えてくれるはずだ。新しいつながりの形を、一度体験してみてはいかがだろうか。

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!